第22章 成熟体に向けて

第671話 忘れていた報告


 今日の授業も終わり、これから帰宅というとこだけど……思いっきり土砂降りだな。一日中ずっと雨が降り続いていたし、流石に帰りに雨が止んでいてくれればという期待は裏切られたか……。


「圭吾、更に雨が強くなってね?」

「だなー。げっ、夜までずっとこの調子か」

「……マジかー」


 携帯端末で今後の天気を見てみたけど、待ってれば雨が止むという事もないっぽい。いや、梅雨に降ってくれないと地域的として夏に水不足になりかねないから降ってもらった方がいいんだけど、かと言ってこの大雨の中を歩いて帰るのが億劫なのも間違いない。まぁ、自転車で1時間の慎也よりはマシか。

 とりあえず母さんからは特にメッセージもないし……あ、晴香からメッセージが来てるな。えーと、雨で少し電車が遅れてるから帰るのがいつもより少し遅くなるのか。まー、これは仕方ないな。


「さて、雨が弱まるのは諦めて帰るか」

「……この天気の中を自転車で帰るの、しんど……」

「頑張れよ、慎也!」

「……まぁ帰るしかないもんな」


 露骨に面倒そうな慎也だけど、流石に帰らない訳にもいかないからな。雨が夜までこの調子なら待ってても無意味だしね。って事で、何とか家まで帰るか。



 ◇ ◇ ◇



 雨が強くて傘を差していても多少濡れつつも、何とか自宅まで辿り着いた。……さっさと着替えてゲームの続きをやっていこっと。


 という事で手早く着替えて、濡れた制服は……晴香も濡れて帰ってくるだろうから、玄関のとこにタオルを置いといて、浴室の乾燥機能でまとめて乾かしておいてくれと晴香にメッセージを送っておこう。同時にやる方が無駄が無いしね。

 おっと、素早くメッセージが返ってきたか。簡潔に『了解です!』って事だし、そこは任せておこうっと。別に料理に関わってなければ、晴香は機械オンチではないから大丈夫だし。……改めて、なんで料理になると壊滅的な状況になるのかが謎だな……。




 さて、そんな風に雨に濡れた事の後始末を終えてからいつものログイン場面へとやってきた。えーと、今日のいったんの胴体部分は『ちょ!? え、これ、何!?』となっている。いや、その内容に対してはその言葉を送りたいんだけど。いくらなんでも意味不明過ぎるわ!


「……いったん」

「うん、君が言いたい事の気持ちは分かるよ〜」

「で、具体的な内容は聞いても?」

「詳細は言えないけど、ちょっと開発中の新機能がね〜。思いっきり想定外のバグが発生して大慌てなのさ〜」

「……え、それって大丈夫なのか?」

「開発用の環境での話だから、運用中のこっちの環境には影響はないよ〜」

「……なるほどね」


 ふむふむ、今後実装予定の開発中のものに大きなバグが見つかって運営の人達が慌てている感じか。まぁ、そういう事に関してはこれ以上の詳細は教えてもらえないだろうし、ご苦労さまですとしか言いようがないな。


「えーと、それで何かお知らせはあったりする?」

「今は特にはないよ〜」

「ほいよっと。スクショの承諾は?」

「来てるよ〜。処理していく?」

「そうしとく」

「はい、それじゃこれどうぞ〜」

「ほいよっと」


 いつものようにいったんからスクショの一覧を受け取って確認をしていく。お、俺とアーサーの対戦のが結構あるな。……うん、終盤の壁面でアーサーを摩り下ろしているのが多くて、どの群集の人からも来てるみたいだね。地面に叩きつける迫力があるシーンもあるけど、これは……貰わなくてもいいか。


「いつも通り灰の群集だけ許可で!」

「そう処理しておくね〜。あと、今日のログインボーナスね〜」

「サンキュー! んじゃ、コケでログインでよろしく」

「はいはい〜。それじゃ今日も楽しんでいってね〜」

「おうよ!」


 そうしていったんに見送られながら、ゲームの中へと移動していく。ハーレさんが少し遅れそうって事だし何をして……って、あー! そういや昨日のジェイさんとの成熟体からの新スキルの推測について報告に上げておくのを忘れてた!? ……まずそこからやっていこうっと。



 ◇ ◇ ◇



 ゲームの中にやってくれば、そこはエンのすぐ近くである。まぁ昨日ログアウトしたのがここだから当然ではあるけどね。

 今日の昼の日だし森林深部は快晴みたいで、エンの葉っぱの隙間からの木漏れ日が気分的に気持ちいい。さっきまでリアルで大雨だったから余計そう感じるのかもしれない。


 さて、ちょっと他の人の意見も聞きたい気もするから、さっきの報告の件は情報共有板でやるとして……その前にログインボーナスを貰っとこ。


<ケイが『進化ポイントの実:灰の群集』を使用します>

<アイテム使用により、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント7獲得しました>

<ケイ2ndが『進化ポイントの実:灰の群集』を使用します>

<アイテム使用により、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント7獲得しました>


 よし、これで今日の分のログインボーナスは確保完了っと。それにしても、模擬戦の機能が実装されてからエンの場所にある大きな中継画面の存在感が凄いな。

 お、今映ってた草原で戦ってる雷属性っぽいクジャクって琥珀さんか? 相手は殴り主体のカンガルーの人っぽいけど、雷を纏った琥珀さんに殴りかかって麻痺を食らって、そのまま広げた羽根から撃ち出された電気の弾が爆発して、それで決着がついたね。


 ふむ、森林深部というかこの対戦に使った群集拠点種はエンじゃないような気もするけど、もしかして他の群集拠点種で対戦が終了した模擬戦も映し出されるのかな? お、画面が切り替わって海でタコとイカの対決が映し出されているし、その可能性は高そうだね。


 これを見てるだけでもみんなとの合流までの時間は潰せそうだけど、今は他にもする事があるからそれは後にしようっと。まずは情報共有板に顔を出さないとね。


 草花    : ふむふむ、つまりまだまだ今のスキルは序の口だって事になるのかな。

 クマ    : ま、どう考えても今が頭打ちな訳がないしな。

 オオカミ  : 通常スキルですら、まだ上限Lvは不明だからな。……どうにもどのスキルもLv6以降はスキルLvが上がりにくくなっている。


 木     : その辺は仕方ないんじゃねぇか? 昇華みたいに、どこかのLvで強化スキルが手に入る可能性もありそうだしな。


 ヘビ    : だよなー。通常スキルでも、同じ行動値の消費でも威力が違うのもあるけど、威力の低い方を放置してれば後々苦労しそうだし。


 ん? どうもスキル絡みの話をしてるっぽいね。まぁそういう事ならある意味では都合は良いかもしれないね。


 コケ    : スキルの話をしてんの?

 クマ    : お、コケの人か。簡単に言えばスキルの話だけど、今より上位の応用スキルがありそうだって話をしてたとこだ。


 カンガルー : そこから上位のスキルの前提条件に下位のスキルのLv上げも重要ではないかという話になっていましたね。


 コケ    : あー、なるほど。


 ふむふむ、確かにオオカミの人が言うように通常スキルの上限Lvも不明だし、昇華による生成量増加のスキルや、凝縮破壊Ⅰや、連鎖増強Ⅰの取得には複数の通常スキルの育成は必須だったもんな。その手の強化が今後もある可能性は十分過ぎるほどあるか。


 コケ    : って、あれ? 応用スキルの上位のスキルって、もう推測とかされてる? その辺の話をしにきたんだけど?


 オオカミ  : 大体の推測は出揃ったところではあるが……あぁ、ちょっとログが流れ過ぎて読み返して来いと言うのも微妙なラインか。


 ヘビ    : 折角だし、コケの人の推測ってのも聞いてみれば良いんじゃね? 全く別経路からの推測ってのもありだろ。


 草花2   : 賛成ー! 推測段階なら、色んな人の意見はある方が良いと思います!

 オオカミ  : 確かにそれもそうだな。コケの人、その推測とやらを聞かせてもらえるか?

 コケ    : ほいよっと。それじゃまず――


 大雑把にジェイさんと情報のやり取りをしたというのも含めて、その辺の上位の応用スキルの存在の可能性についての報告をしていく。昨日まとめを確認した時点では属性を持ってそうなスキルについての目撃情報は無かったから、多少は新情報になれば良いんだけど……。


 俺の推測の内容としては魔力集中や自己強化の強化版のスキル、属性を持つ魔法と物理を併せ持つスキルだな。未知の魔法については俺は見てないから、ここでは軽くで済ましておこう。とりあえず共通項として考えた『魔力制御Ⅱ』の存在が最重要である。


 木     : へぇ、氷属性を持ってるっぽい白光を放つチャージっぽいスキルか。これ、地味に無かった情報じゃね?


 オオカミ  : 確かにそれは無かった情報……いや、違う。それはもしかすると……少し待て。

 カンガルー : どうしたんだ、オオカミの人?

 クマ    : ふむ、『魔力制御Ⅱ』の存在の可能性か。前提条件として通常スキルのLvが必要って方向性で考えてたが、共通する前提スキルの存在もあり得るな。


 ネズミ2  : Ⅰがあるなら、Ⅱもあるのは当然の帰結だよね。

 草花    : うーん、それもそうなんだけど、それだけではない気もするんだよねー?

 コケ    : 草花の人、それってどういう事?

 草花    : いやさ、『魔力制御Ⅱ』の取得条件にもよるけど、それだけじゃ簡単過ぎない? 今の応用スキルを十全に使う為でも、それなりに手間はかかるよね?


 コケ    : あー、確かに……。


 ただ応用スキルを取るだけならポイントでも取れるけど、真価を発揮させるにはそれ相応のスキルの取得が必要だもんな。草花の人の言うように『魔力制御Ⅱ』の取得条件にも左右はされるだろうけど、これまでより条件が厳しくなっている可能性は高いだろう。


 オオカミ  : よし、不確定情報で保留していた情報を見つけたぞ。元のキャラの持つ属性の色と見間違えたかもという自信の無さから保留にしていたが、属性らしきものが付随した白光を伴うスキルの目撃情報がいくつかある。


 コケ    : あ、そういう情報もあったんだ? え、でもなんで保留に……?

 オオカミ  : 場所が場所で、そのコケの人が見たという杉が凍ったというような追加効果が確認出来ていないからだ。水中で青い魚の成熟体だったり、空中で緑の鳥だったりでな。ついでにその手の攻撃を受けたらほぼ即死だから、明確な確認が出来ていないという問題もある。


 イノシシ  : あー、エリアと属性が被って、追加の効果がハッキリしなかったって感じか。

 オオカミ  : あぁ、そういう事になる。PTでの目撃情報なら良かったんだが、ソロでの目撃情報に偏っててな……。だが、明確な目撃情報が出たなら情報の精度が上がるぞ。


 ほうほう、確かに水中の中で水の魔法ダメージとか、空中で風の魔法ダメージだと分かりにくそうではあるもんな。それにソロの人の目撃情報がメインで本人も半信半疑だったなら、不確定情報で保留にはなるか。


 コケ    : とりあえず、情報は役に立った感じ?

 木     : まぁ、実際に成熟体に進化してから要検証ではあるけど、条件を絞るにはかなり有用な情報だと思うぞ。


 ネズミ   : だなー。でも青の群集も同じ結論に辿り着いてるって事だから、油断は出来ないね。

 オオカミ  : あぁ、それは間違いない。俺とかは成熟体への進化が近付いてきてはいるから、進化し次第、最優先で『魔力制御Ⅱ』の取得条件を探っておこう。


 コケ    : そこは任せたぞ、オオカミの人!

 草花    : その辺は単独キャラで育成してる人の方が先に進化になるだろうからねー。私もちょっと頑張っちゃおうかな!


 クマ    : だな。共生進化や支配進化の人は、この件の検証は不向きだろう。

 ヘビ    : ま、どうしても2キャラ同時の育成になるからLvの上がりは遅くなるしね。


 うんうん、それは確かにその通りである。俺はどうやっても単独で育てている人よりも経験値が2キャラに分割されているから、単独進化の人よりもLvが上がるのは遅いもんな。

 共生進化と違って、支配進化からの同調の解除は出来ないから1キャラだけ育てるのも無理だし、この件に関しては単独進化の人に任せるのが良いだろう。


 オオカミ  : コケの人の推測や俺らの推測も合わせて考えると、それぞれの育成の方向性によって、大幅にスキル構成が分岐する可能性も高いな。


 草花    : そだねー! 後は目撃情報を今まで以上に念入りに精査かな?

 ヘビ    : そうだな! 俺は教わってふんぞり返っているのはとっくに卒業したからな!

 カンガルー : それと平行してLv30を目指しましょうか。今回の案件は未成体のままでどうにかなるとも思えませんしね。


 イノシシ  : 成熟体に進化するのが先で、その後から条件探りだな。


 うんうん、みんなやる気だね! 俺もそれには参加したいとこではあるけど、それをする為にはLv上げを頑張っていかないとな。

 色々と推測はしたものの実際にどういう取得条件になっていて、どういう性質のスキルなのかは誰かが取得してみないと分からない。でもまぁこういうのを探っていくのもゲームの醍醐味だし、頑張ってやっていこうっと。


 あ、そういや別件だけどジェイさんの使っていた共生指示と簡略指示による、1人で2人での発動分の威力が出せる昇華魔法の発動方法も報告しておかないと……。まぁ、あれは欠点も多いとは思うから実用性がどこまであるかは微妙だけどね。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る