第668話 大規模な移動手段
さてとそれではスチームエクスプロージョンを推進力に変える高速移動の実験を開始する! 今回のは威力的な面が博打だから、実際にはどうなるかな? ま、それを確認する意味でも試すまで!
「それでどういう手順でやるのですか?」
「まずは俺とジェイさんが吹っ飛ばないように、移動操作制御の岩でアルのクジラに固定だな」
「……確かにそれは必須ですね。それにスチームエクスプロージョンの余波が当たらないように注意も必要ですか」
「あ、それもそうだな。うーん、どうやってやるか……」
水のカーペットに使っているもう1つの移動操作制御を使っても良いんだけど、スチームエクスプロージョンの余波を受けたら解除になる可能性が高いし、ジェイさんに2つの移動操作制御を同時に使うのは流石に見られたくない。
それなら手動操作で展開……いや、使いたいスキルを考えると俺の方じゃ手数が足りないな。こういう時に並列制御Lv2が欲しくなってくるね。
「……私がやって構いませんが、もう少し具体的な内容を聞いてからにしましょう」
「それもそうだな。とりあえず説明しながらやっていくか」
「えぇ、それで構いません」
「って事で、シンプルにまずはさっき言ったように自分達の固定だな」
「……そうですね。では、そのように」
そうしてジェイさんは光源にしていた光の操作を切り、空を飛ぶ為に展開していた岩を追加生成して、アルのクジラの尻尾にカニを固定するように岩で固めていく。
俺も同じようにしたいとこだけど、地味に光っているコケが邪魔になってくるね。まぁそのまま岩の中に隠してしまってもいいんだけど、クジラと岩の間にコケがあるせいで滑ってズレても困るか。大丈夫だとは思うけど、念の為。
<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 65/65 → 65/71(上限値使用:6)
<『発光Lv5』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 65/71 → 65/76(上限値使用:1)
とりあえずこれで発光を一度解除して、邪魔になる発光も解除っと。よしよし、これでやりやすくなった。さて、それじゃ改めて固定用に再発動!
<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 65/76 → 65/70(上限値使用:7)
よし、これでジェイさんと同じようにアルのクジラの尻尾に固定完了。光の操作はいらないっていうか、そもそも光の操作を外す為に再発動したんだから指定する意味なし!
「ケイ、ジェイさん、悪いんだがもう少し胴体寄りにしてくれるか? そこだと、尾ビレを動かす時に揺れまくるぞ」
「……あ、確かにそりゃそうだ」
「……言われてみればそうなりますか。……この辺りでしょうか?」
「おう、そんなもんだ」
ふー、アルから注意を受けて固定の位置を変更完了。うん、深く考えずにクジラの尻尾の先の方に固定してたけど、空中を泳ぐ時に動かす部位に固定したら駄目ですよね!
「さて、それで次はどうするのですか?」
「あ、それなんだけど、俺に土の守勢付与をかけてくれない?」
「……それは構いませんが、どう使う……いえ、守勢付与で強化したアースウォールで爆風を受ける為ですか?」
「大当たり! ただ単純にアースウォールを発動しただけだとすぐに破壊されるだろうから、補強も兼ねてね」
「……ですが、2人での発動の昇華魔法をそれだけで耐えられますか?」
「そこは正直なところ、博打なんだよなー。一応対策は考えてるけど、説明しとこうか?」
「……いえ、折角なので実際に見てみる事にします。何もかもを聞いてしまうというのも面白くありませんし、推測自体は一応出来ましたので」
「……推測出来たんだ」
ふむ、流石はジェイさんか。明確な答えは言っていないのに、アースウォールと土の守勢付与を使うという条件から俺がやろうとしている事の推測はしたんだな。
「それでは、私の方でアースウォールでは覆いきれない位置をカバーしましょうか」
「お、その手があったか!」
「……まぁあくまでも補佐ですからね。ただの生成した岩ではスチームエクスプロージョンの威力ですぐに破壊されると思いますよ」
「多分想像通りに行けば、それで充分なはず」
「……そうですね。その可能性は充分ありますか」
俺のやろうとしている事を推測して、ジェイさんがサポートに回ってくれている状況はやりやすくていいね。こういう風に協力してやる時にはやりやすくて良いけど、そこに情報戦が混ざると途端に厄介さが増すんだから中々難しいとこだけど……。
「なぁ、ケイさんとジェイの目論見が俺にはいまいちわからねぇんだが……」
「私もなのさー!」
「……俺は大体の見当はついたぞ。サヤ、ヨッシさんをしっかり抱えといてやれ」
「うん、分かったかな!」
「……なんだか、今までの最高速度を上回りそうな予感がするよ」
「多分、そうなると思うぞ。だから、全員どこかに固定しておいた方が良いと思うんだが……」
「あ、それなら私がやるよ。PTを組んでるし、みんなが氷漬けになっても大丈夫だよね?」
「問題なしですさー!」
「おう、俺もそれで良いぜ」
「私もそれで大丈夫かな」
「氷雪の操作だとそんなに広範囲には無理だから、みんな集まって。うん、そんな感じ。それじゃいくね。『アイスクリエイト』『氷雪の操作』!」
「おー! なんか冷たくないのに氷漬けなのは不思議な感じなのさー!」
「これならとりあえず大きく動く事はなさそうだから大丈夫そうかな?」
「あー、まぁ岩の操作に比べると生成量は少ねぇんだな。ま、仕方ねぇか」
どうやらPT会話から聞こえてくる内容的に、アルの樹洞の中でもヨッシさんの氷によって固定されているみたいだね。ま、PTを組んでるから氷漬けになってもダメージも状態異常もないし、樹洞の中で勢い余って滅茶苦茶になるよりは安全だよな。
「どうやら樹洞の中の方も準備は大丈夫なようですね」
「だなー」
「ケイ、ちょっと良いか?」
「ん? どした、アル?」
「これ、俺は自己強化くらいは発動しといた方がいいか?」
「あー、それは念の為にやっといた方がいいかも?」
「よし、それなら発動しとくわ。『略:自己強化』!」
もし失敗してもアルにダメージはないとはいえ、自己強化を発動しといた方が通常時よりは無茶な動きにも対応しやすいと思うから、この判断は悪くはないはず。ま、実際にやってみないとどうなるか分からないけどさ。
「アルマースさんも準備は整ったようですし、始めましょうか」
「ほいよっと。まずは土の守勢付与をよろしく!」
「お任せください。『アースエンチャント』!」
そうしてジェイさんが俺に守勢付与をかけて、俺のロブスターの周りに土の球が3つ漂い始めていく。よし、これでジェイさん側の下準備は終わりだから、俺の最後の下準備もしていこう。
<行動値上限を1使用して『魔法砲撃Lv1』を発動します> 行動値 65/70 → 65/69(上限値使用:8)
これで俺の方も準備完了! 魔法砲撃ってただの照準補助のスキルかと思われてたけど、なんだかんだで色々と使い道はあるもんだなー。うん、かなり便利だよね。
「……やはり魔法砲撃を使うのですね?」
「まぁね。それじゃジェイさん、岩の操作とファイアクリエイトをよろしく」
「えぇ、分かりました。『アースクリエイト』『並列制御』『岩の操作』『ファイアクリエイト』!」
ジェイさんが俺から右側の方の少し離れた位置に岩を生成して支配下に置き、それと同時に少し俺らの前方の離れた位置に火を生成してくれた。ふむ、あまり近過ぎない程度に距離を離してくれたんだな。
さて、それじゃ俺も俺でやるべき事をやっていこう! 上手くいくと良いなー。
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値5と魔力値15消費して『土魔法Lv5:アースウォール』は並列発動の待機になります> 行動値 64/69(上限値使用:8): 魔力値 197/212
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値2と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 62/69(上限値使用:8): 魔力値 194/212
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
アースウォールは魔法砲撃にして、更にジェイさんに付与してもらった守勢付与の効果で漂っている土の球をすべて消費し、性質を変化させていく。起点にしたのは右側のハサミだけど、発射はほんの少しだけ待機。
それと同時に、ジェイさんの生成した火に重なるように水を生成していく。さて、タイミングを誤るとやばいんだけど、そこは何とか頑張るのみ!
<『昇華魔法:スチームエクスプロージョン』の発動の為に、全魔力値を消費します> 魔力値 0/212
轟音と共に発動した水蒸気爆発に合わせて、魔法砲撃にしたアースウォールを発射! ふっふっふ、ここで守勢付与による性質変化が活きてくる!
魔法砲撃にした防壁魔法への変化は2重に土の防壁が展開される事である。この2重のアースウォールはどっちもすぐ破壊されるだろうけど、タイミングをズラす事こそが重要!
「やはりそうするつもりでしたか! 補佐しますよ!」
「ジェイさん、サンキュー!」
って、呑気に言ってる場合でもないけどね。即座にジェイさんが俺のアースウォールで覆いきれていない部分を岩の追加生成でカバーしてくれているけど、スチームエクスプロージョンの爆風がその直後に襲い掛かってくる。
そして即座に襲いかかってくる爆風と接触し、土の防壁が展開されていく。うぉ!? 思った以上の衝撃だ!
「うぉ!? ちょ、この勢いはいくらなんでも!?」
なんかアルが焦ってるような声が聞こえてくるけど、今はそんな余裕はない! ちっ、やっぱり予想通り、すぐに1枚目の土の防壁とジェイさんの岩は破壊された。
でもその一瞬で爆発の勢いを推進力に変えることには成功して一気に加速していく。よし、これで少し爆風の中心地から離れたから、1枚目の土の防壁破壊してもなお勢いが余っていた爆風の影響は少な目で受けきれた。……まぁ2枚目も即座に完全に破壊されたけどね!
<『氷樹の森』から『名も無き平原』に移動しました>
おっと、エリアの切り替えの手前辺りでやっていたし、あっという間にエリアが切り替わったね。……それにしてもスチームエクスプロージョンの爆風で、エリア切り替え付近の雪や木々も吹っ飛んで、クレーターみたいになってるな。おー、すごい勢いで遠ざかっていくね。
まぁこの被害自体は大体想像してた通りだし、昇華魔法を使えばよくある事だし、そもそも氷樹の森の道中でもっと大規模に破壊してるから気にするまでもないな! 破壊したのは魔法でだから回復も早いだろうしさ。
「一応、成功という感じですね」
「まぁなー。で、ジェイさんとしては推測通りだった?」
「えぇ、一応は。……これは気軽に扱える人は非常に少ないとは思いますが、こんな手段を教えてもよろしかったのですか?」
「まぁ、これくらいならね。どうせ赤の群集にはバレてそうだし……」
前にダイクさんと一緒に似たような事をやった際にはライさんに目撃されていたからね。ライさん自身が内容を把握してたかは分からないけど、赤のサファリ同盟に伝わっていれば高確率で分析済みだろう。……赤のサファリ同盟なら再現も可能だろうしね。
「そうなのですか? ……そういう事なら、私達の方からも1つ情報を開示しましょうか」
「え、良いのか?」
「……どうせ失敗した内容ですからね。この昇華魔法を使った移動方法というもの自体は、青の群集でもアイデアとしては出ていたんですよ。ただ、ちゃんと推進力にするのに失敗したり、成功しても体勢を維持出来ずに墜落したりしてまして……。これは複数の違った形の高度なプレイヤースキルが必要になりますね。それも複数人」
「あー、そんなもん?」
「えぇ、そんなものです。これは簡単に真似出来るものではありませんよ」
ふむふむ、そう言われてみると確かにこの速度は制御するのは難しいか……? 俺もジェイさんも岩で固定してなきゃあっという間に落下してるだろうし、俺が土の防壁で爆風を受け止めたのもタイミングを誤れば即墜落というか失敗だもんな。
それに地面の方を見てみればあっという間に景色が流れていってるし、アルも楽ではないかもね。お、前に川沿いに移動してた川で、前より下流の方の部分を通り越したか。
「いやっほー!」
「これは前にやった時以上の速度じゃないかな!?」
「……あはは、サヤに抱えられて氷漬けにしてて良かったよ」
「俺は、そう、余裕が……ない……んだが!?」
「アル、大丈夫かー?」
「いくら……なんでも……速過ぎだ! くっそ、これ、少しでも、バランスを、崩したら、墜落、すんぞ!?」
「……マジで?」
「嘘を、言って、どうする!?」
「……ですよねー。アル、これ以上は無理だと思ったら言ってくれ。水流の操作で無理矢理でも速度を落とすから」
「……それは、それで、嫌な、もんだな! 意地、でも、このまま、自然に、勢いが、落ちるまで、やってやる!」
お、アルもやる気満々だな。それじゃアルの意地に任せて、このまま高速移動は続行だな。ま、どうしても無理そうだったり、墜落しそうになった時にフォローをすれば良いだろう。
そういう万が一の為に水の生成用に少しで良いから魔力値を回復させとこ。酸っぱいけど、ここは数のあるレモンを齧っておくとしよう。……やっぱり酸っぱ!
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