第637話 荒れた天気


 無事に他の共同体の人からの依頼が成立したという事で、天気が良くならない内に移動をしてしまおう。その為にも待ち合わせ場所になったミズキの場所へと移動しないといけないので、手早く転移で移動だな。


<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『ミズキの森林』に移動しました>


 そうしてミズキの森林のミズキの前にやってきた。ふむ、こっちの方は少し雨足が弱くなっているっぽいけど、まだまだ大雨ではあるね。

 確かにこれは急いで対策をしないと乾かしていた薪は全滅だろうから、ここで野外炊事場を作っているモンスターズ・サバイバルが人手の募集をしてたんだな。ふむふむ、納得の状態ではあるね。


 っていうか、ここってエンの近くとは違ってミズキの枝葉で雨宿りとはいかないのか。……いや、雨宿りのスペースがない訳でもないけど、広くはないんだよな。


「こっちも大雨だー!? 『略:傘展開』! あぅ、触手を伝って雨がー!?」

「……あはは、あっという間にびしょ濡れかな」

「……この可能性は先にちゃんと考えておくべきだったね。とりあえず氷で雨避けを作ろっか?」

「あー、それなら俺が水のカーペットでやるよ。雨避けで通常のスキルを使いっぱなしもあれだしな」

「それもそっか。うん、それじゃケイさん、お願いね」

「ほいよっと」


 とりあえずは水のカーペットで雨を凌いでいこう。俺は全然平気だけど、サヤとハーレさんは動きにくそうだし、ヨッシさんに至っては飛ぶのを諦めてサヤの竜の背中に止まってるしね。


<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 75/75 → 73/73(上限値使用:3)


 よし、水のカーペットを頭上に広げて傘代わりに展開っと。ま、これでひとまずは安心だろう。お、そうしてる間に3人ほど転移してきたね。ふむ、赤いハリネズミと石みたいにゴツゴツした表皮のカエルと……あれ、なんだこれ?

 あー、何か地面に張っているような草花の人だけど、蔓の途中に小さなスイカの実っぽいものがあるから多分スイカの人か。へぇ、スイカの人って初めて見た。


「わっ!? この雨はきついっすね!?」

「まー、この天気が条件なんだからしゃーないって、レイン!」

「いや、カエルのフェルスに言われたくはないっすけど……」

「種族的なもんだから、気にすんなって! ミドリも平気なんだしさ! んで、依頼を受けてくれたのはヨッシって人だったけど……お、発見!」

「あ、水の操作で雨避けをしてるんだ……って、あれ? あの人達、『ビックリ情報箱』の人達じゃない!?」

「え、ミドリ、それマジで?」

「あ、『グリーズ・リベルテ』になってるから、マジっすね」

「え、どうしよう!? そんな強い人達が来ると思ってなかったよ!?」

「いやいや、落ち着けよ、ミドリ」

「レインの言う通りっすよ。悪い人達だという話は聞かないし、大丈夫っす」

「あ、それもそうだよね」


 どうやらこの3人組が今回の件の依頼者のようである。所属している共同体は同じ『グレースケール』で、ハリネズミの人がレインさん、カエルの人がフェルスさん、スイカの人がミドリさんか。……なんというか、警戒されてる訳じゃないんだろうけど今の反応は対応に困るなぁ……。


「えっと、この天気の中で雷属性のフィールドボスの依頼を出してた『グレースケール』のフェルスさん達で合ってるよね?」

「あ、はいっす! ……本当に俺らの護衛依頼で良いんっすかね?」

「それは問題ないよ。ちょうど私達も上風の丘でフィールドボス戦をやる予定をしてて、瘴気石の調達先を探してたからね」

「あ、なるほど、そういう事っすか!」

「あー、瘴気石を持ってたのがラッキーだったっぽいな」

「どうもそうみたいだね」


 とりあえず大雑把なヨッシさんのその説明で3人は納得したようである。まぁお互いの目的が重なったという要素が大きいからなー。


「ケイさん、天気の回復が心配だから先に移動したいんだけど、任せていい?」

「あー、了解っと」


 さて、今はアルがいないから移動担当は俺になるか。ま、この辺は役割分担だし、天気が良くなる前に実行に移さなければならないので急いだ方が良いのは間違いない。ふむ、薄暗い感じでもあるから少し灯りも付けとくか。


<行動値上限を2使用して『発光Lv2』を発動します>  行動値 73/73 → 71/71(上限値使用:5)

<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 71/71 → 65/65(上限値使用:11)


 これで飛行鎧になる方を発動したけど、今回は形状を工夫してみんなが乗れるように大きな岩を板状に生成。そんでもってロブスターの背中で増殖させたコケが明るさ控えめの発光で照らしている。

 おまけで光の操作で、少し前方に向け気味にもしておいた。もちろん後でみんなが乗った際には周囲を全体的に照らしていくけどね。


「あ、この岩ってたまにサファリ同盟のとこで見るやつじゃん!」

「やっぱり大急ぎで俺かミドリが土の昇華を取らないっすか?」

「そだねー。フェルスは水も取りたいって言ってたし、私が取ろっかな」

「その話は後にしようぜ。あ、俺らも乗せてもらっていいですか?」

「レインさん、それなら問題ないぞ。ってか、元々そのつもりだしな」

「お邪魔するっす!」

「お邪魔します!」

「わー、やったね! それじゃ……『蔓巻き』! 失礼しまーす!」


 そうしてレインさん、フェルスさん、ミドリさんの3人が俺の生成した岩の上に乗っていく。それに合わせて俺らも乗っていたけども、ミドリさんのスイカの挙動がすげぇな!? 地面に這うように伸びてた蔓が巻き取られて……なんだろう、円柱上になった感じか? その状態で根で歩いているね。


「スイカの人って初めて見たけど、凄いんだね?」

「あ、これですか? 普段移動する時はさっきのじゃ地味に動きにくいから、こっちの方が動きやすいんですよ。初めて見た人は同じような反応をする人も多いですね」


 まぁ見た目のインパクトから言えば、大根が走っている以上にインパクトはありそうだもんな。スイカはオフライン版にはいなかった種族だし、これなら初見で驚く人も多いだろう。


「はい! ちょっとスイカについて質問があります!」

「あ、はい! 私に答えられる範囲なら、お答えしますよ!」

「ハーレ、ミドリさん、それは待ったかな。いつ天気が回復するか分からないから出発が先だよ」

「あぅ!? それもそうでした!」

「す、すみません!」

「あ、別に責めてる訳じゃないかな!? 質問なら、移動中にしようってだけで……」

「そういう事だから、ケイさんお願いね」

「ほいよっと」


 サヤとヨッシさんが気を遣って移動を優先になるようにしてくれたから、先に移動をしていこうっと。

 さて、ただ上に置いて雨避けにしていた水のカーペットの形を変えて、岩の上にいる全員を覆うようなドーム状にして……よし、これで移動準備完了!


「うおっ、凄いっすよ、レイン!?」

「これが空を飛ぶのか」

「いよーし! フェルス、手分けをして再現を目指してみよー!」

「それも良いしれないっすね!」


 どうやらカエルのフェルスさんとスイカのミドリさんに目標を与えた形になったようである。まぁカエルとスイカなら、水の昇華と土の昇華は相性は悪くはないはずだから、それでいいのかもね。


「それじゃ、手早く上風の丘まで飛んでいくぞ。質問とか辿り着いてからの行動方針とかはその間に決めるって事で!」

「うん、分かったかな」

「了解です!」

「了解!」

「うぃっす! お願いしまっす!」

「ありがとうございます!」

「お願いします! いやー、頼もしいですね!」


 そんな感じで上風の丘に向けて、飛行開始である。……ふと思ったけど、この今の形状って遠目から見たらUFO的な感じに見えそうな気がしないでもない。ま、それならそれでいいか。


「それじゃ改めてミドリさんに質問です!」

「はい! なんでしょうか!?」

「その小さなスイカって食べれますか!?」

「あ、スキルを使えばアイテム化が出来ますよ。というか、今回の報酬は私のスイカの予定だったんですけど、構わないですか?」

「問題なしなのさー! サヤ、ヨッシ! スイカが食べられるよ!」

「あはは、そうみたいかな」

「まぁ見ての通り、うちのハーレは食いしん坊なんだけど、アイテムとしての性能はどんなもの?」

「あ、はい。スイカはHPの割合回復ですね。メロンも生成出来るように進化すれば魔力値の割合回復なんですけど、まだそこまで行ってなくて……」


 あー、なるほどね。要するにアルの蜜柑と同じような感じか。基本としてスイカがあって、そこから進化する事で同系統の果実の生成が可能になるってタイプなんだな。

 ……って、あれ? そういやスイカって草花の種類分けとしては蔓系と野菜系のどっちになるんだろ?


「メロンも食べたいけど、スイカも食べたいから問題なしなのさー! それともう1つ質問なのです!」

「どんな内容ですか!? 何でも答えますよ!」

「スイカは蔓系と野菜系のどっちですか!?」

「一応は蔓系ですね! でも中間的な立ち位置で、どっちの固有スキルも使える感じです!」

「あ、そうなのかな?」

「さっきの蔓巻きは蔓系の固有スキルですけど、アイテム化するのは野菜系の固有スキルなんです!」

「へぇ、そういう違いなんだね」


 俺が気になっていた事をハーレさんがあっさりと聞いてくれていた。ふむふむ、オフライン版の基準で考えると蔓系は蔓で巻き付いて絞め上げるスキルとかがあったよな。

 そして野菜系は進化した種族によってバラつきもあったけど、実が生るのは大体何かしらの攻撃や回復に使えていた。その辺が固有スキルとして実装されてる感じか。


 あれ? 何かレインさんとフェルスさんがコソコソと小声で内緒話をしてるっぽいけど、どうしたんだろ?


「……なぁ、フェルス。『ビックリ情報箱』って呼ばれてるくらいだから色んな情報に精通してると思ってたんだけど……」

「……どうも違うっぽいっすね。でも、平然としながら複数の操作系スキルの使用は無茶苦茶っすよ」

「まぁ、それもそうなんだよなー。意外と知らない事が多くても何とかなったりすんのかね?」

「……今日はその辺も参考にさせてもらいますっすよ」

「だなー。かなりのラッキーではあるもんなー」


 へぇ、ちょっと聞き耳を立ててみたけど、そんな風に認識をされたりしてるんだ。まぁベスタですら自前では全情報の網羅は不可能だし、俺らだって検証や新情報の発見はするものの、それを目的の全てとしている訳じゃない。

 ま、新情報の発見や色んなスキルの応用的な使い方については、状況次第で誰にでもあり得る事だからね。俺らと行動を共にして参考になるかは分からないけど、悪い風に言われてる訳でもないから別に良いや。


「さてと、上風の丘に辿り着く前に行動方針決めていくぞー!」


 その1言で質問や内緒話を切り上げて全員が俺の方に向き直ってくる。いつ天候が変わるかも分からないという状況は全員ちゃんと把握してくれているみたいだね。


「あー、先に言っとくんだけど、俺らグリーズ・リベルテの方は雷の操作の取得を狙っているんだよ。最優先はヨッシさんだけど、俺もだな」

「あ、ケイ。可能なら私も取りたいかな」

「あー、サヤもだな」

「えっと、上風の丘で天然の雷を敵に落とすのと称号取得を重ねれば良いんでしたよね?」

「ま、そうなるな。でもまぁそれはミドリさん達がスクショを撮り終えた後の討伐の時で良いからな」

「あ、はい。それは分かりました!」


 ミドリさんは納得しているみたいだし、フェルスさんも頷いてはいるから問題はなさそうだ。でも、レインさんが少し悩んでる……いや、考えてるっぽい?


「あの、ちょっと良いっすか?」

「レインさん、何かまずかったか?」

「いえ、そうじゃないんっすけど、その取得シーン、撮れたら撮ってもいいっすか?」

「あー、それなら別にいいぞ。ヨッシさん、良いよな?」

「問題なしさー!」

「なんでハーレが答えてるの。まぁ私は問題ないよ」

「ありがとうございますっす!」


 ふー、特に問題があったという訳ではないようで良かったよ。昇華がない状態では天候に左右される雷の操作ではあるけども、今までの経験上では普段使わないスキルでも場合によっては使い道は出てくる事もある。

 ポイントを使わずに取れる機会があるならば、それを逃す手はない。それにフィールドボスを誕生させる事でヨッシさんが『雷属性強化Ⅰ』を取得になるのは大きいしね。……今度、アルと俺用に『水属性強化Ⅰ』も取りに行かないとね。


 さて、段々とミズキの森林の西の端まで近付いてきた。もう上風の丘まで時間はそれほど無いから、サクッと行動方針を決めていこうか。

 瘴気石についてはフェルスさん達が用意しているから、これからやるべきは元となる成長体を2体捕まえてる事だね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る