第618話 岩山エリアへ


 スライムを養分吸収で倒して行動値の回復速度を上げ、しばらく回復に集中しつつ周囲の様子を見渡していく。ふむふむ、上風の丘では所々に木々があったり風になびく草原とかが広がっていたけど、岩山エリアに近付くにつれてその辺の植物が減っていた。


「おー!? 景色がかなり変わってきたねー!」

「だなー。アル、とりあえずこの辺で水流の操作を切って、通常飛行に切り替えていこうぜ」

「それもそうだな。水の風除けももう要らないか」


 そう言いながらアルは水流と水の風除けを解除していく。まだ高速遊泳の効果が残っているけど、これで結構な減速にはなるな。まぁ勢いがついてるから、速度が落ち着くまでに少し時間はかかるだろうけど。


「この辺りまで来ると植物が極端に減ってきたかな?」

「岩山って言うくらいだし、大半が土や岩が剥き出しだね。少しは植物もあるみたいだけど」

「これはこれで趣きがあるのさー! でも、ゴツゴツしてて険しいねー!?」

「まぁ移動しにくい地形ではあるな。それとここは岩や石に擬態している敵も多いから注意しろ」

「あ、擬態しているのがいるものか。ちなみにどんなのがいるんだ?」

「……そうだな。表面が石の『石トカゲ』や『石カメ』という感じのヤツや、石によく似た模様の『偽石ゼミ』や『偽石蝶』みたいなのもいるな。色々いるらしいというのと、どこかに洞窟への入り口があるというのは情報としてあるぞ」


 どうやらこの先の岩山エリアについても色々と特徴のあるエリアではあるらしい。洞窟があるというのも興味深いとこではあるけど、まぁ流石に今日はそこまでは出来ないか。


「へぇ、ここに洞窟もあるのか。……あれか、雪山エリアにあった氷結洞みたいなエリアか?」

「おそらくな。その辺の探索を詳しくやりたいというのもあるんだが……」

「それには育ち過ぎたドラゴンが邪魔なんだね?」

「あぁ、ヨッシの言う通りだ。俺らで倒すつもりではいるが、最悪赤のサファリ同盟に倒されても構わんとは思っている。……まぁさせる気はないがな」

「もちろんさー! 目指せ、ドラゴンの経験値の獲得ー!」


 気合い十分なハーレさんである。まぁベスタとしても譲る気はないようだし、俺だってここまで来たからにはドラゴンは倒してしまいたいとは思うしね。

 そして何よりも今は経験値が欲しい! かなり格上のフィールドボスになるんだから、経験値は期待出来るはず!


「まぁ、それは今はいい。ケイ、ここからは岩山エリアを知っている俺が指示を出すが良いか?」

「そこはベスタに任せる!」

「あぁ、了解した」


 なにせ俺はこの先の岩山エリアに行くも初めてだからね。というか、ベスタ以外はみんな行った事がないんだし、ここからの指示はベスタに任せるのが最善だろう。


「それではいくつかの注意点を話しておくぞ。基本的には俺らは飛んで移動していくつもりだが、ここからでも見えるように足場の状態は非常に悪い。それと拓けた所と切り立った崖で入り組んでいて見通しが悪い場所もあるから、そこで敵との遭遇に気をつけろ」

「はい! 私の危機察知で対応します!」

「それと俺の獲物察知だな」

「あぁ、そうなるな。ケイ、ハーレ、任せるぞ」


 ここまで聞いた話では岩に擬態する敵もいるし、見通しの良くない場所も存在していると……。ふむ、やはり岩山は岩山で癖のあるエリアだというのは間違いなさそうだ。


「それとだ、たまに岩の滑落が発生するからそれも気をつけろ」

「岩の滑落って聞くと、ケイのあれを思い出すかな」

「あはは、確かにそうだね」

「今は新規の人にこのゲームの特徴を教えるのによく使われてるあれか」

「あー、何も聞こえないー! 聞こえないったら聞こえない!」


 うぅ、定期的にあの岩を滑らせて岩の操作を取得した件が話題に出てくるなぁ……。くっ、自分が引き起こした事でなく、外野だったなら俺自身も話題に出すと思うから何とも言い難い複雑な心境だよ……!


「さて、ケイの現実逃避は良いとして、そろそろ岩山へと突入するぞ。拓けた所はこのままの形で飛んでいくが、切り立った崖が多くて険しく通りにくい場所についてはどうしたい?」

「えっと、どうしたいってどういう事かな?」

「単純な2択だな。地面に降りて切り立った崖の間を探りながら行くか、上空から死角が多くなるのを覚悟した上で偵察するかだ」


 あー、なるほど、そういう2択か。……ふむ、移動しにくいのを覚悟して捜索の精度を上げるか、移動のしやすさを優先して捜索の精度を下げるか、どっちにするかって事だよな。


「……私は地面に降りるのに一票かな」

「私もサヤに1票。下手に上空に居続けると、赤のサファリ同盟に位置を捕捉される可能性もあるよね?」

「おー!? そうだった! それなら私も地面に降りるのに一票です!」

「あぁ、その可能性も出てくるだろうな。ケイとアルマースはどうだ?」


 ふむ、確かに赤のサファリ同盟の動きを考えるなら、地面に降りるという選択肢の方がありか。


「ベスタ、別に完全に地面に降りて歩かなくても、低空飛行って手段もありだよな?」

「……俺は無理だが、ケイ達はそれでもいけるか」

「よし、それなら俺も地面に降りる方に一票だ」

「あー、俺もクジラを小型化すれば一応ありか? ……どうしても通れないとこだけは上空を飛ぶという条件付きでなら、俺もそれに一票で構わないぞ」

「それに関しては大きさの問題もあるから良いんじゃない?」

「私もそう思います!」

「それなら、これで方針は決定かな?」

「あぁ、そのようだな。それでは岩山エリアに乗り込むぞ」

「「「「「おー!」」」」」


 そのベスタの号令に俺らみんなが揃えて返事をして、気合いを入れてから岩山エリアへと出発である。さて、エリアの切り替え付近は拓けている場所だから、このまま飛んでいく感じになるね。

 さー、赤のサファリ同盟の動きの事を意識しつつ、フィールドボスの土属性のドラゴンを探しに行くぞー!


<『上風の丘』から『名も無き岩山』に移動しました>


 そうしてやってきました、岩山エリア! ここはまだ命名クエストが発生していなくて、エリア名は変わっていないようである。エリアの切り替えの地点から少しの間は結構拓けているようなので、もう少しは飛んでいけそうだね。


 それにしても拓けているとはいえ、あちこちに大きな岩や岩ほどではないけど石が転がってるなー。でも動く敵の姿が一切見つからない……? あー、これは多分あれだな。


「サヤ、看破を使ってみてもらっていい?」

「え、あ、うん。『看破』!」

「わっ!? 動き出した岩が結構いるよ!?」

「……あはは、これがベスタさんがさっき言ってた擬態の敵なんだね」


<ケイが成長体・暴走種を発見しました>

<成長体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>

<ケイが成長体・暴走種を発見しました>

<成長体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>

<ケイが未成体・暴走種を発見しました>

<未成体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント6、融合進化ポイント6、生存進化ポイント6獲得しました>


<ケイ2ndが成長体・暴走種を発見しました>

<成長体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>

<ケイ2ndが成長体・暴走種を発見しました>

<成長体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>

<ケイ2ndが未成体・暴走種を発見しました>

<未成体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント6、融合進化ポイント6、生存進化ポイント6獲得しました>


 おっと、看破で擬態を見破った事で発見報酬が……って、あれ!? このエリアに成長体の暴走種がいたー!?


「……ほう、黒の暴走種の成長体を2体同時に発見か。ちょっとこれは確認が必要だが……ケイ、どの個体か分かるか!?」

「獲物察知がLv4になった時に進化階位の判別は可能になってるから、問題なし!」

「なら、任せるぞ」

「おうよ!」


 確かにこの離れた岩山エリアで成長体が2体も発見となれば気になるのも当然だよな。……場合によってはまだ未検証の黒の暴走種同士のフィールドボスの誕生もあり得るもんね。


<行動値を4消費して『獲物察知Lv4』を発動します>  行動値 72/73(上限値使用:1)


 さてと黒い矢印が結構な数が表示されたけど、色が薄めなのは残滓だからとりあえず無視。成長体なら矢印が細くなってるはずだから……よし、見つけた! 他に気になる矢印もあったけど、それは後回し!


「ベスタ、ここから左前方の動いてる岩っぽいやつ! パッと見では1体だけど、獲物察知での矢印が2本指し示してる!」

「よし、よくやった! 『識別』!」


 ふー、これでとりあえずベスタに識別はしてもらえるね。まぁ大体の想像はついているけど、あれをフィールドボスにしたらどうなるかはまだ不明なんだよねした。

 それと地味に青い矢印があるのも気になるところ。……赤のサファリ同盟以外にもこのエリアに来ている青の群集がいるって証拠だもんな。


「ベスタさん、どうだったかな?」

「あぁ、共生進化をしている黒の暴走種だったぞ。……ちっ、ドラゴンの件が無ければ捕獲して、フィールドボスへの進化を試したいとこではあるが、今はそういう訳にもいかないか」

「あー、そういや黒の暴走種の共生進化のフィールドボス化ってのはまだ試せてなかったんだっけか」

「……今の今まで必要な個体が見つからなかったからな。だが、存在するのは確定したから、機会を改めて捕獲をしにくるとするさ」

「えー!? ベスタさん、それでいいのー!?」

「今は瘴気石の手持ちに余裕はないし、もし想像通りならかなり強化した瘴気石が必要になる。どっちにしろ今すぐにはどうにもならん」


 ふむふむ、まぁ確かにそうだよなー。黒の暴走種はそれぞれに精神生命体が中に入っているので、ほぼ確実に融合種や合成種には進化しない。支配進化については共闘イベントのボスを見る限り、黒の暴走種と瘴気強化種との組み合わせだろう。

 そこから予想出来る黒の暴走種同士の共生進化からのフィールドボスへの進化は、おそらく共生進化をしたままの両個体の進化だ。……その場合、おそらくどちらの個体もそれぞれにフィールドボスになる最低Lvの11にしなければならない。

 そうなると最低でも+10の瘴気石が2個は必要になる。流石に今すぐに試せる状況ではないね。


「あ、そうだ。今、このエリアに青の群集の人が4人ほどいるっぽいぞ」

「……何? ケイ、どっちの方向だ?」

「えっと、南の方の……あの切り立った崖の向こう側かな……?」


 4本の青い矢印の方向はそっちになってたけど、切り立った崖で遮られてそれ以上は不明なんだよな。……ジェイさんと斬雨さんは模擬戦をしてるような事を言ってたし、多分いないはず!


「青の群集まで来てるのか。地味にまだドラゴンに挑戦しに来るヤツもいるんだな」

「アルさん、それは私達が言ったら駄目な気がするよ?」

「……そりゃそうだ」

「誰でも来るといいさー! ドラゴンは私達が貰うのです!」

「ハーレはやる気満々って感じかな」

「ま、元々ハーレさんの要望だしな」


 まぁ青の群集の人の狙いがドラゴンだと確定した訳でもないけど、可能性としては充分あるか。競合相手は赤のサファリ同盟だけとは限らないのだろう。当たり前といえば当たり前だけど。


「とりあえず一段落ついたなら、先に進もうぜ。競合相手が増えた可能性があるなら、そう悠長にしてる訳にもいかんだろう」

「……アルマースの言う通りか。ケイ、獲物察知は俺と交代しながらやっていくぞ」

「他の群集の動きを探りながらやるって事だな。了解っと」


 他の群集の人の全員が擬態とかで獲物察知を掻い潜る事は出来ないはずだしね。まぁそれは俺らにも言える事だけど、気を付けていくべきであるのは間違いない。


「それじゃ他の群集の様子を警戒しつつ――」


 って、号令をかけようとしたらフレンドコールかよ!? こんなタイミングで誰――


「ケイ、どうしたのかな?」

「……なんでこのタイミングでフラムからフレンドコールが来るんだよ!?」

「なんだと? ……ケイ、赤のサファリ同盟が探りを入れて来たのかもしれん」

「……だろうなー。やっぱりディーさんには見つかってたか」


 どういう意図でフラムがフレンドコールをしてきたかにもよるけど、これは何かしらの狙いがあるのは間違いない。……出ないという選択肢もあるけど、ここは警戒しつつ向こうの情報も探ってみるか。


「……おう、フラム。いきなりどうした?」

「おっす、ケイ。いきなりで悪いんだけど、今って岩山にいるよな?」

「……なんでそう思う?」

「いやー、こっちから見えてるんだよ、アルマースさんのクジラがさ? それにディーさんから目撃情報もあったしさ」

「って事は、やっぱり赤のサファリ同盟もここに来てたんだな。……狙いは土属性のドラゴンか?」

「あ、そういう聞き方をするって事はケイ達もか。それに関して弥生さんから話があるって言ってるんだけど、どう?」


 ちっ、やっぱり赤のサファリ同盟も例のドラゴンを狙いに来ていたのは確定か。……こうなってくるとどうしたもんだろうか。そもそもフラム……というか、赤のサファリ同盟の意図がはっきりとしないな。

 あり得るとしたら、人数が連結のフルPTに収まるから共闘しようという提案か、もしくは譲り合いの交渉か、ドラゴンを巡っての対立だな。


 どの可能性にしてもこうやって赤のサファリ同盟から接触してきた以上は迂闊に無視も出来ないか。何故他の人ではなくフラムから俺へのフレンドコールなのかという疑問もあるにはあるけど、詳細を聞くだけ聞いてみよう。

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