第612話 丘陵エリアへ


 赤のサファリ同盟の動向が少し気になって来てはいるけども、お菓子の派閥対決のスクショも撮り終わった事だし、ドラゴン退治へ本格的に移動再開だね。時間としてはまだ9時半も来ていないくらいか。


 みんなアルのクジラの背の上に登り、移動準備を行っていく。まぁ一時的にアルは空中浮遊を切っていたので、まだ丘陵エリアの様子は見えないけども……。

 えーと、もうアルのクジラの背の上に乗ったから水のカーペットはいらないか。


<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 40/70 → 40/72(上限値使用:1)


 よし、水のカーペットの解除完了っと。魔法砲撃については道中の戦闘で使う可能性もあるからそのままにしておこう。ふー、まだ行動値の回復にはもうちょいかかるのは仕方ないか。まぁアルに乗っての移動中に回復していくだろうし、問題はないはず。


「よし、それじゃ俺は移動最優先で行くぞ」

「ん? 移動最優先ってどういう感じ?」

「こっちから発動するって事だ。『略:空中浮遊』!」

「あー、なるほどね」


 共生進化の場合に上限発動指示で呼び出したら時間制限が発生するけど、簡略指示で発動したら行動値の半分が使用状態にはなる。こっちなら時間制限はないから、確かに移動最優先ではあるね。

 まだちょっと浮かび上がっただけなので、クジラの背の上からは微妙に木が邪魔で丘陵エリアの方は見えないな。まぁこの後に空中を泳いでいけば普通に見えるようになるよね。


「それなら途中の敵の相手は私達なのさー!」

「そういう事になりそうかな!」

「まぁいつも通りではあるよね。ところでベスタさん、この先の丘陵エリアで気をつける点って何かある?」

「あ、それは俺も気になる」


 この先の丘陵エリアについては一切の情報を仕入れてないからなー。砂漠とか雪山みたいな事前の準備が必要になる極端に危険なエリアという事はないだろうけど、何か注意点があるなら聞いておきたいね。


「一応あるにはあるが、まぁそれに関しては体感する楽しみが減るから言わずにいよう。折角のエリアとしての特徴だからな」

「へぇ、ベスタがそう言うのは気になるな?」

「……何か聞いた覚えはあるが、ここだったか……?」

「ん? アルも何か知ってんの?」

「あーいや、ここかどうかは自信はないんだが、特徴がある場所ってのは聞いた覚えがあってな。……もしかするとあれか……? いや、それともあっちか?」

「え、複数あるのかな?」

「あー、すまん。まだ命名クエストでエリア名がついていない時に聞いた話でな。丘陵エリアってのはいくつかあるらしいから、どれがどれだか……」

「おー!? そういえばそんな事を聞いた覚えがあるような気がするよー!? でももう目の前だから、それについては自分の目で確かめるのさー!」

「それはハーレに賛成かな」

「うん、そうだね。ベスタさん、行けば分かるし、事前準備が必要って訳でもないんだよね?」

「あぁ、それについては問題ないぞ」

「よし、それじゃこのまま行くぞー! アル、出発ー!」

「おう!」


 そうしてアルのクジラが空中へと泳ぎ出していき、目の前の木々を乗り越えていく。おー、木々を乗り越えていけば、丘陵エリアの様子が軽く見えてきた。ふむふむ、こりゃ中々の絶景ではあるね。


「パッと見では高原に近い感じ……? あ、所々に木々もあるから、高原と森林を足して割った感じか」

「あ、ケイさん、その例えは良いかもね。森林というよりは林って感じだけど」

「確かにそうかも。あとここはなだらかな起伏もある感じかな?」

「そうだと思います! えっと、それと北と南に向かって緩やかな傾斜になってる感じー!」

「あー、こりゃあっちの方か」


 みんなの感想を聞いてみたけど、まぁそんな様子で基本的には見晴らしは良い。そしてハーレさんの言ったように北と南……つまり、ミズキの森林以外に隣接するエリアへと繋がるように高度が下がっているみたいである。


「ちょっと遠くな感じだが、ここからでも岩山は見えてるのか」

「アルさん、岩山へは一直線で行けそうだねー!」

「そうだな。……よし、ここで感想を言っていて仕方ないし、進んでいくぞ」

「「「「おー!」」」」

「アルマース、ここの特徴は気付いてはいるな?」

「あぁ、まぁ様子を見ながら進んでいく」

「……ならいい」


 そんな会話を繰り広げながら、丘陵エリアへと移動をしていく。ふむ、見て分かる範囲でそんな明確な特徴ってあったっけ……? ……よし、丘陵エリアに入ったら周りを良く観察してみようじゃないか。


<『ミズキの森林』から『上風の丘』に移動しました>


 お、木々が途切れた所でエリアの切り替えになったか。ふむ、ここのエリア名は上風の丘って言うんだな。まぁ名前的に間違いなく、ここの特徴は風に関係している気もするんだけど……上風ってなんだ? 読みは『うわかぜ』で良いのかな? よし、こういう時はアルに聞くべし!


「アル、上風ってなんだ?」

「あー、草木とかの上を吹き渡る風とかそんな意味だったと思うぞ。それにしても、特徴に合った名前だな」

「……ここのエリア名はこうなったか。ちっ、面白みが半減――」

「おっと、いきなり来たか!」

「うわっ!?」

「きゃ!」

「あぅ!?」

「何事かな!?」


 ベスタがエリア名に何かを言おうとしたら、急な正面から強い風が吹き抜けていき、アルがバランスを崩していた。あっぶねー、落ちるとこだった!


「……今のって敵や他のプレイヤーの攻撃じゃないよな? ハーレさん、危機察知はどうなってた?」

「特に反応はありませんでした!」

「そうなると、今の強風がこのエリアの特徴かな?」

「エリアの名前的にもそんな感じはするけど、ベスタさんそれで合ってる?」

「……まぁ既に体感したからもう言っても良いか。ここは時々ではあるが、強風が吹き荒れるエリアだ。それをうまく利用して称号と重ねれば風の操作はもちろん、風の強さ次第では強風の操作も取得出来るぞ。ちなみに地上の方が風の影響は小さくなっている」

「あー、なるほど」


 ふむふむ、ここは風の操作と昇華以外で強風の操作の取得が狙いやすいエリアって事か。雪山や砂漠みたいに一部の属性だけでなく、取りやすいエリアが設定されているのかもね。

 それにしても地上の方が風の影響は受けにくいんだな。うーん、地味に飛ぶのは相性が悪い……?


「……ついでにベスタに質問しておきたいんだが、確か落雷が多い丘陵エリアもあったよな?」

「あぁ、それもここのエリアで合ってるぞ。丘陵エリアの共通して言える事なんだが、天気が悪くなると雷の発生頻度が高くなる設定だ」

「あー、そういう仕様になってんのか。今は快晴だから強風のみなんだな」

「あぁ、そうなる。ちなみに……あぁ、あったな。ほれ、少し遠めの右前方を見てみろ」

「何があるんだ、ベスタ?」

「見れば分かるから、見るだけ見てみろ」

「まぁそう言うなら……」


 そうベスタに言われるがままに、その指定された方向を見てみる。みんなもアルのクジラの背の上から乗り出すようにしてその方向を見ていた。

 えーと、少し離れた右前方って事なら望遠の小技を使って……あ、その必要はなかったか。さっきはざっと全体的に眺めただけだったから気付かなかったけど、改めて方向を指定されて見直して見れば結構あっさりとベスタが指し示していたものが見つかった。こりゃ一目瞭然だね。


「おー!? 他より高めの木が裂けてるねー!?」

「……これは落雷があった感じかな?」

「そんな感じだね。そっか、ここの木には落雷があるんだ」

「称号取得に合わせて落雷を利用すれば、雷の操作は取れるからな。雷雲が発生している時にあの木みたいに高めの木に敵を張り付けたり、上空へ投げ飛ばしたり、そういう形で取得が可能だ」


 ふむふむ、雷の操作はそうやって取れば良いのか。という事は、今見ている落雷によって裂けたボロボロの木は敵を雷に巻き込む為に使われた木なんだろうね。


「ヨッシさん、今度天気が悪い時にでも雷の操作を取りに来る?」

「お、そりゃいいな、ケイ」

「うん、それは良いかも。ここってフィールドボスの誕生は多分出来るよね?」

「あぁ、それも問題なく可能だ。ちなみに、ここでフィールドボスを誕生させると『雷属性強化Ⅰ』が手に入るぞ」

「お、マジで!?」

「俺は味方相手には嘘は言わんぞ」

「あ、そりゃそうだった」


 今までのベスタの行動からして、そりゃ疑う余地もないよな。そっか、ここで『雷属性強化Ⅰ』のスキルが手に入るとは、ちょっと予想外だったな。

 俺自身はそれほど必要ではないけど、サヤの竜やヨッシさんのハチにとっては強化用のスキルはぜひ取っておきたい。それにラックさんからの報酬で瘴気石は手に入る事になっているもんな。逆に俺は『水属性強化Ⅰ』が欲しいところだね。


「よし、今日は無理でも近い内にここでフィールドボス戦をやろう!」

「賛成です! サヤとヨッシには重要なのさー!」

「うん、確かにそれはそうかな。私は竜がメインじゃないけど、ヨッシはメインだしね」

「あはは、そうだね。それじゃどこかで時間が合えばやってみよっか」

「あー、それについてだが、夕方にでも俺抜きでやってくれても構わんぞ。なんだかんだで探索の方が放ったらかしになってるし、雷属性に関しては無理に俺が取る必要もないし、一緒に新エリアの進出は今してるからな」


 まぁ確かにそれはそうだけど、アルが良いならそれでも良いのか。でも、それなら流石にラックさんから貰う予定の+10の瘴気石は使えないな。2個貰う予定の+10の瘴気石だけど、1個はベスタの持ってる+7の瘴気石と交換だしね。よし、それなら……。


「アルもこう言ってくれてるし、明日の夕方にフィールドボス戦をやるのでいいか? ただし、さっきの手伝いで貰う予定の+10の瘴気石は使わずに温存して、他の手段で+6以上くらいのを手に入れてからって事で」

「……ケイ、それは別に使ってくれても構わんぞ?」

「私はケイに賛成。折角みんなの報酬として貰う+10の瘴気石は、みんなで使いたいかな」

「そだね。アルさんも一緒に手伝った報酬なんだし、そこは一緒に使おうよ」

「あー、分かった。使ってくれと言っても無意味そうだし、その辺はありがたく受け取っとくぜ」

「よし、それで決定!」


 これで明日の夕方の予定が少し決まったね。とりあえず誰かからの依頼を探して報酬として瘴気石を手に入れて、フィールドボスを誕生させる為の成長体を見つける事だな。……場合によってはどこかのPTと連結してやるのも良いかもしれない。


「どうやら話はまとまったようだな」

「おうよ! あ、そうだ。ベスタの分の+10の瘴気石はいつ交換する?」

「……あぁ、そうだったな。よし、今のうちにケイに+7の瘴気石を渡しておいて、俺の方で勝手にラックの所へ取りに行くのでいいか?」

「あー、ベスタの元に実物が一時的に無くなるけど、良いのかそれ?」

「お前らもラックも信頼しているから、問題ねぇよ」

「……そりゃどうも」


 こうも直球で信頼していると言われると、なんとなく気恥ずかしくなってくるなー! いやまぁ、ありがたい信頼なんだけどね。流石にそういう風に言われると断る方が失礼だろうし、ここは素直にベスタ提案に乗らせてもらおう。


「それじゃそれで頼む」

「あぁ、了解した」


 とりあえずこれでベスタから+7の瘴気石は受け取ったけど、まぁこれもアルと一緒の時に使う予定って事で良いだろう。まぁ明日手に入れるつもりの瘴気石がこれ以上のものであればそっち残すけど、それについては明日考えるとしようじゃないか。


「それじゃアル、上風の丘を突っ切って行くぞー!」

「おうよ! ベスタ、風避けに水の防壁でも展開しておいた方がいいか?」

「あった方が楽だろうが、やるなら移動操作制御は使うなよ。空は風と共に飛んで奇襲してくる敵が多くて、空中を飛ぶのは割と危険だからな」

「そうなんだー!?」

「かなり特徴があるエリアなんだね」

「確かにそれなら移動操作制御だと駄目そうかな」


 風に乗って飛んで奇襲をしてくる敵となると、ベスタの言うように移動操作制御で風除けは不可能だな。攻撃されてすぐに使い物にならなくなるのは分かりきっている。……そうなると、俺かアルの水の昇華か、ヨッシさんの氷の昇華が有効そうではあるけど、どれで行くか。


「……ケイ、手動発動で任せていいか? 地上に降りて安全圏を進むのでもいいが、どうせなら飛んで行きたいだろう?」

「だなー。よし、水での風除けは俺が引き受けた! 俺が水で全体を覆って敵に備えるから、ヨッシさんとハーレさんはその直後に遠距離から攻撃と拘束、サヤとベスタはその間に近寄って一気に仕留めてってくれ。風も敵も全部跳ね除けて行くぞ!」

「遠距離攻撃は了解です!」

「私は拘束だね」

「私とベスタさんがアタッカーかな!」

「あぁ、任されよう」


 さて、これでこのエリアでの戦闘の役割は決まった。具体的にどんな敵が飛んで来るかは分からないけど、情報を知ってたベスタが居てくれて良かったかもね。……まぁ俺らが1撃で仕留められるような事はまず無いだろうから、知らなくても何とかなった範囲ではあるんだろうけど。


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 57/72(上限値使用:1): 魔力値 203/206

<行動値を3消費して『水の操作Lv6』を発動します>  行動値 56/72(上限値使用:1)


 おっと、雑談で足が止まっていたけども、そのお陰でそれなりに行動値は回復してたね。さて、それじゃアルのクジラを覆うように水の操作をしていきますか。

 風除けがメインの用途だし、結構な広範囲を覆う必要があるから水の厚さは薄めでいいか。薄くするとあっさり突破される可能性はあるけど、そこはみんなにフォローを任せようっと。


「よし、準備完了! 行くぞ、上風の丘!」

「「「「おー!」」」」

「ふっ、相変わらず仲が良いものだな」


 この上風の丘のエリアとしての特徴は分かったし、対応策も用意は出来た。さて、どんな敵が飛んでくるのかもちょっと楽しみになってきたね。岩山エリアに辿り着くまでの間も全力で、楽しんでいこうじゃないか!

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