第602話 ケイ対ベスタ 中


 とりあえずベスタのHPを昇華魔法で2割は削ったけど、あれだけやって2割か……。うん、やばい。とにかく今は行動値も魔力値も底をついたので、飛行鎧で飛びながら木陰に隠れつつ回復に専念していかないとどうしようもないか。

 えーと、ここで使えそうなスキルって何かないか……? とりあえずベスタからの攻撃に気をつけて、所持スキルを確認するか。光合成はまだ今の光源で使えるか試してないし……あっ!? 普段全然使ってないから忘れてたけど、これがあった!


「よし、これなら!」

「これならどうなるんだ? 『強爪撃』!」

「わっ!?」


 周囲に気を配ってはいたけど、ステータスを見てたのが仇になったか!? ベスタはどこからともなく現れて空を駆けているけど飛翔疾走を発動してる……? うーむ、あのスキルは地味に厄介だな。

 とりあえず一気に岩を素早く操作して回避! あ、やば、これは尻尾の辺りが回避し切れない……。くっ、今の状態で飛行鎧を解除されるとマズすぎるし、これなら多少のダメージを受ける方がマシ!


「ちっ、その状態は随分と素早いな」

「……そりゃどうも」

「だが、今の回避の仕方を見る限りでは移動操作制御だな?」

「……さてね?」


 あー、やっぱり攻撃が当たりそうな尻尾の部分だけ岩を避けてダメージをわざわざ受けていれば、それくらいの事はあっさり見破られるか……。というか、今気付いたけど飛行鎧に組み込んだ増殖でのコケで攻撃を受けても大丈夫なのか……?

 あー、うん、危ない橋を渡るのはやめておこうっと。そうなると、ハサミにあるコケは使わない方が良いな。


「何か企んでいるな? 『爪刃乱舞』!」

「そりゃベスタもだろ!?」


 くっ、空中での連撃攻撃か。応用スキルではなく、通常スキルで確実に俺の飛行鎧を破壊しようってとこだろうね。


<行動値を1消費して『群体化解除Lv1』を発動します>  行動値 7/60(上限値使用:13)

<行動値を2消費して『増殖Lv2』を発動します>  行動値 5/60(上限値使用:13)


 よし、安全策として左右のハサミの部分のコケだけ通常発動での増殖のコケに切り替えた! ……少しだけでも行動値が回復してて良かったよ。

 それにしてもこの飛行鎧の機動性はベスタにも確実に通用している。普通に飛ぶのではなく、直接岩を操作して飛ばしているのでその効果がかなり大きいぞ。


「ちっ、面倒な……。『並列制御』『双爪撃』『ウィンドプリズン』!」

「あ、チャンス!」


<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 5/60 → 5/66(上限値使用:7)


「何!?」


 これは良いタイミングでベスタが魔法を使ってきてくれた。……拘束が俺を捕らえる前に飛行鎧を解除し、即座にハサミのコケを風の拘束に触れさせていく。ふっふっふ、流石にこのタイミングで命綱を解除するとは思わなかったっぽいね。


<行動値を2消費して『魔法吸収Lv1』を発動します>  行動値 3/66(上限値使用:7)


 あー、これは普通より行動値の消費が多めのスキルだったっけ。まぁ存在をさっきまで忘れてたから仕方ないけど、これで風の拘束魔法を吸収して少しだけど魔力値が回復した! ま、Lvが低いからか拘束は完全には破壊出来てないんだけど、これで充分!


<行動値2と魔力値6消費して『水魔法Lv2:アクアボール』を発動します> 行動値 1/66(上限値使用:7): 魔力値 6/206


 左右のハサミでベスタの双爪撃を受け止めつつ、コケに視点を移してから核を起点にして背後へと魔法砲撃でアクアボールを撃ち放っていく。……よし、拘束を破壊出来た。

 それにハサミに魔力集中を使っていたのが良かったのか、多少のダメージはあったものの、致命的な程のダメージではない。よし、今だ!


<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 1/66 → 1/60(上限値使用:13)


 もうバレてるから発声で即座に飛行鎧を再展開してから、ベスタから距離を取る。……この増殖のコケは攻撃に使うと危うい気がするから、ロブスターの背中の方から覆っている岩の内側へと増殖だな。光の操作は今回も無視でいい。

 今の一連の攻防でもう一手使いたかったけども、流石にその余裕は無かった。……魔法吸収と一緒に思い出した養分吸収が使えれば、行動値の回復速度を上げてたんだけど……。


「器用な真似をするじゃねぇか、ケイ!」

「つくづくベスタ相手だと余裕はないけどな!」

「なら、もう一段階上げていくか! 『群体同化』『コケ渡り』!」

「……へ?」


 え、なんでこのタイミングで地面へとコケ渡りをしていった……? てっきりこのまま空中戦で追撃が来るものかと思ってたんだけど、ベスタは一体何をする気だ?


「『並列制御』『爪刃乱舞』『連脚撃』!」

「いやいやいや、そんなのありー!?」


 ちょ、待って! 前脚の爪の爪刃乱舞でその辺の木々を切断すると同時に、後ろ脚でその切った木を蹴り飛ばしてくるってどんだけ無茶な事をやってんの!? 地面に降りてはいないから、飛翔疾走を使っての応用攻撃なんだろうけどさ!?

 しかも狙いが的確だから、今は回避に専念するしかないじゃん!? くっ、どこかで隙を作って、回復の為に距離を取らないと……。幸いな事に上空にいるから、コケ渡りで距離を詰められる心配は――


「『コケ渡り』『爪刃双閃舞』!」

「ちょ!? あ、コケ付き小石!?」


 やばい、空中だからとコケ渡りの可能性は低いと甘く見ていた。今さっきの木を蹴飛ばしてきたのは、どさくさに紛れてコケ渡り用のコケを俺に近くに持っていく事か! いや、でも連撃ならまだ全然強化されていないからチャンスはある! ……なんか強弱が発生してるし、発火で火を纏っているままだから嫌な予感もするけど、そうも言ってられないな。


<行動値を1消費して『養分吸収Lv1』を発動します>  行動値 0/60(上限値使用:13)


 ぎゃー!? ハサミで受け止めたら、やっぱり表面のコケに火が燃え移ったー!? いやでも、養分吸収で行動値の回復速度を上げる事には成功したぞ。


<ダメージ判定が発生した為、『移動操作制御Ⅰ』は解除され、10分間再使用が不可になります>

<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 0/60 → 0/66(上限値使用:7)


「……あ」

「ちっ、逃がすか!」


 ベスタとしても予想外だったみたいだけど、ハサミのコケに燃え移った火が岩に当たってダメージ判定が発生し、飛行鎧が解除となった。くっ、その状況でも2連撃ほど入れられたけど、ぎりぎりハサミでガードしたぞ。……落下に勢いはついたし、コケも燃えてるけどね!


「……今ので仕留めるつもりだったがしくじったか。『アースクリエイト』『土の操作』!」


 っていうか、落ちるー!? やばい、行動値がまた尽きたから、今回は回避手段がない!? ……あれ、でもベスタが追撃して来ない? あ、足場を作ったって事は連撃は諦めたのか。ふむ、もしかして飛翔疾走の効果時間切れか?


 まぁ分析してても仕方ない。とりあえず落下中の先はまだ無事な森の木々の上だから、ダメージはあっても即死はしないはず。……くっ、盛大に木々の枝をへし折りながら落下したか。

 っていうか、燃えてるコケの火を消さないとどんどん群体数が減っててヤバい!? アクアクリエイトは……ちっ、生成だけなら出来るけど操作するだけの行動値がまだない。えぇい、生成だけでいいや! 火を着けたままとか、夜の森では居場所を教えてるようなもんだし……。


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 2/66(上限値使用:7): 魔力値 5/206


 ふー、とりあえずこれでコケが焼け死ぬ事だけは回避出来た……。それにしても俺のコケは水属性があるから普通よりは燃えにくいはずなんだけど、ベスタの発火はそれを軽く上回るのかー。とんでもないな、ベスタ……。いやコケが火に弱いってのももちろんあるんだろうけどさ。

 とにかく、Lvが低いとはいえ養分吸収で少し行動値の回復が早くはなった。……完全に養分吸収と魔法吸収の事を忘れてたのが痛いね。こんな今のタイマンで便利なスキルの事を覚えていたら今日の特訓の間に鍛えておいたのに……。


 さて、問題はここからどうするかだな。とりあえず落下した場所にそのままいるのは危険だから、少し移動していこう。……森の中だと気付かれやすそうだから、あえてさっきデブリスフロウでなぎ倒した木々の影にでも隠れてみるか。

 ……出来るだけ音を立てず、コソコソっと移動してっと。ベスタも行動値に余裕がある状態だとは思えないけど、今見つかるのだけは間違いなくヤバい。ほぼ何も出来ない状態で見つかったらほぼ詰みだ。……危険だけど、HPも半分を切っているので回復しておこうかな。


<行動値を1消費して『脱皮Lv1』を発動します>  行動値 1/66(上限値使用:7)

<HPを50%回復します> HP 6742/7250

<防御が80%低下します>


 さて、回復はしたけどもこの状態は非常にリスクがあるから、気をつけていかないとね。……更に見つかる訳にはいかなくなったなー。まぁ行動値も魔力値も無い状態で見つかると殺られるまでの時間が違うだけではあるけども。




 そうして、地面に降りて俺を探しているベスタに見つからないように慎重に移動して、俺がボロボロになぎ倒した木々のところまでやってきた。……ベスタ自身も行動値の回復を優先してるのか、少し甘めな捜索のようである。さっきは割とあっさり見つかったしね。

 ふむ、発火は解除してるみたいだし、これはあえて回復の時間を確保して全力でやろうってとこか。


「……さて、そろそろ良いか」


 あー、やっぱりわざと回復を待っていたっぽいなー。ベスタの周辺への警戒度が跳ね上がったよ。よし、全快には少し足りないけど行動値も魔力値も結構回復したし、俺の方も色々仕込んでいこうか。

 まぁ下がった防御もとりあえずは元に戻ったので一安心ではある。元に戻ってなくても行動に移さなくてはならない状況にならずに良かった。とりあえず焼けたコケを復活させとくか。


<行動値を4消費して『増殖Lv4』を発動します>  行動値 56/66(上限値使用:7)


 よし、これでロブスターの表面のコケを元に戻すのは完了だな。……まぁまた燃やされないように気をつけないといけないけど、これはこれで重要ではあるしね。


<『魔力集中Lv3』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 56/66 → 56/69(上限値使用:4)


 あ、魔力集中の効果が切れた……。というか、もうそれくらいの時間は経ってたんだな。……とりあえず魔力集中はしばらく使えないし、自己強化を発動しとこ。


<行動値上限を2使用と魔力値4消費して『自己強化L2v』を発動します>  行動値 56/69 → 56/67(上限値使用:6): 魔力値 177/206 :効果時間 12分


 よし、ひとまずこれで良いだろう。さてとそれじゃ俺も動き出すとしますか。


<行動値を4消費して『群体化Lv4』を発動します>  行動値 56/67(上限値使用:6)


 ふむふむ、何ヶ所かベスタが群体化しているコケがあるから、その位置はちゃんと把握しておこう。相手にしてみて実感したけど、あのコケ渡りは使う人が使えば相当厄介な代物だ。本当なら俺が全てのコケを群体化して防いでおく方が良いんだろうけど、流石にそれは現実的ではないもんな。

 それはそうとして何か違和感があるんだけど、なんだろうな? もう少しのとこまで出かかってるのに、その後少しが出てこない……。


「ほう、ケイはこの近くか。『魔力集中』!」


 あ、ヤバい。群体化した事でそれなりに近くにいる事がバレた! うーん、不安要素が結構あるんだけどベスタ相手に時間をかけすぎるのもそれはそれで危険だよな。

 リスクを承知で攻勢に移りたいけど、どういう形でしていくか。……よし、まだやった事はないけどあの手でいこう。その為には下準備だ。


<行動値を4消費して『群体化Lv4』を発動します>  行動値 52/67(上限値使用:6)

<行動値を4消費して『群体化Lv4』を発動します>  行動値 48/67(上限値使用:6)

<行動値を4消費して『群体化Lv4』を発動します>  行動値 44/67(上限値使用:6)


 よし、周囲のベスタが群体化している以外のコケのいくつかを群体化した。これでベスタが運良くその上に乗ればスリップかグリースで滑らせる。……まぁそれが上手く行くとも思えないから、別の手段が本命だけど……。


「ふっ、考える事は同じか。『グリース』『ファイアクリエイト』!」

「あ!?」

「『連脚撃』『火の操作』!」

「あー!?」


 くっ、ベスタのコケ渡り潰しに考えていた手段を逆に使われた!? 俺は遠隔同調に使うつもりだったのに! これは俺が動き出すのを待ってた……っていうか、どんどん延焼して隠れている俺の場所も危ないって……。くっ、これは俺を炙り出すのも目的か。


「そこか。『並列制御』『ウィンドボム』『風の操作』!」

「くっ!」


 水流の操作で一気に消火するのも手ではあるけど、それだけでは通じないのはこの模擬戦が始まったばかりの時に実際にやって分かっている。同じ手で無駄に行動値を使っても……いや、弱音を吐くのはまだ早い!

 爆風に乗って突っ込んでくるベスタに対して、俺に何が出来る……? 考えろ、考えろ! もうベスタは目の前に迫って来ているし、ここから応用スキルで連撃を受けたら終わり……。


「まだだ!」


 まだ出来る事はあるはずだ。……よし、これでやってやる!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』は並列発動の待機になります> 行動値 37/67(上限値使用:6): 魔力値 156/206

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値10と魔力値15消費して『水魔法Lv5:アクアウォール』は並列発動の待機になります> 行動値 27/67(上限値使用:6): 魔力値 141/206

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


「ほう? 例の付与魔法か。だが『並列制御』『重硬爪撃』『連閃』!」

「いいや、そのままじゃないっての!」


 魔法砲撃にして、水の防壁を展開するのは読まれるのは当然だろう。だからこそ、ダイクさんから教わった小技を使って、騙すまで! 右のハサミで狙うふりをして、実際には左のハサミを起点に指定して地面に向けて撃ち放っていく。

 地面に当たって左のハサミの延長線上に二重に展開された水の防壁を、左のハサミを振り上げる事でベスタを挟み込んでいく。このまま挟み込んで、盛大に叩きつけて、威力は低いかもしれないけど昇華魔法を叩き込んでやる!


「いっけー!」


 これが決まってもおそらくはベスタのHPを削り切る事は不可能だろう。でも、もう1撃くらいは決めていきたいとこだ。

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