第598話 エンの元へ


 とりあえずアルの上にはサヤとヨッシさんは乗っているけど、俺とハーレさんは飛行鎧で飛んでいるからアルに乗ってから解除していくか。


「アル、クジラの大きさを元に戻してもらっていいか? そっちに乗り移るからさ」

「あ、それもそうだな。小型化解除!」

「えいや! 定位置に戻りました!」


 そうしてアルのクジラが元の大きさに戻っていくと同時に、ハーレさんが俺のロブスターの背中の上からアルのクジラへと飛び移り、そのまま木の上の巣の上に登っていった。ま、そこがハーレさんのいつも場所ではあるもんな。


<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 67/67 → 67/73


 よし、俺も飛行鎧を解除してアルのクジラの背の上に移動完了っと。みんな勢揃いしたし、大した距離ではないけどアルに移動は任せよう。


「さてと、それでハーレさんのやりたい事ってどんな内容?」

「ふっふっふ! それは例の岩山にいるという土属性のドラゴンへの挑戦だー!」

「あー、やっぱりそれか」


 うん、何となくそんな気はしてた。昨日ベスタも苦戦してたみたいだけど、ちょっと見てみたい気はするし、可能であれば挑んでみたい相手ではある。……勝てるかどうかはこの際、度外視でも良いだろう。もしフィールドボスのドラゴンがLv30になったらなったで、それにも興味はあるしね。


「ケイはベスタさんと勝負はあるけど、私達は戦う予定はないからそういうのも良いかな!」

「そだね。たまには勝てるかどうか怪しいっていう勝負も良いかも?」

「まー、何だかんだで苦戦する事も少ないからな。……俺らで適正Lvで苦戦するとなると、倒せない人の方が多そうだしな」

「あー、そりゃ確かにアルの言う通りか」


 何だかんだで最近は攻略手順を踏まないと倒せないような場合以外では苦戦らしい苦戦はしてないもんな。……まぁ強い方になる俺らで苦戦……というか負けるような敵の強さだと、確実に強過ぎるという側面はあるだろうから仕方ないけどね。

 そういう意味では育ち過ぎて強くなっているフィールドボスというのは、戦い甲斐のある敵ではあるんだよな。まぁ対人戦ならまた違ってくるんだろうけど。


「それでなんだけど、また赤の群集の森林深部と青の群集の森林の隣接エリアへ行くのは後回しになりそうです! 探索の続きもしたかったけど、いつまでドラゴンが残ってるか分からないからこっちを優先したいのさー!」

「あ、そっか。ドラゴンは誰かが倒したら終わりだもんね」

「連結のフルPTで挑む人が出てもおかしくはないから、ハーレの気持ちも分かるかな」

「まぁ探索の続きは明日からでも問題はないか。……ケイ、ジェイさんには――」

「……それは俺から連絡しとく」


 何だかんだであそこに行く予定が伸びまくってるけど、まぁ色々とこっちにも事情があるから仕方ないか。この土日はハーレさんのアルバイトの都合でかなり変則的にはなったからな。

 まぁ予め連絡さえしておけばジェイさんも分かってくれるだろう。……流石に明日には探索の再開はしたいしね。


「よし、ジェイさんへの連絡は任せたぞ」

「……ほいよっと。とりあえずフレンドコールで連絡してくる」

「おうよ」


 まずはジェイさんに連絡をする為にフレンドコールを……あれ? 今はジェイさんはログインしてないようだね。これはタイミングが悪かったか……。

 うーん、いないなら仕方ないから改めて後で連絡を……って、斬雨さんの方がログインしてるね。ここは斬雨さんに伝言を頼むとしよう。……よし、すぐに出てくれた。


「斬雨さん、おっす!」

「おう、ケイさんか。ケイさんが俺にフレンドコールって珍しい事もあるもんだな?」

「あー、本当はジェイさんに用事があったんだけどさ……」

「……なるほどな。あいにくジェイは今飯を食いに行ってるとこだが、伝言でよければ受け付けるぜ?」

「それは助かる。申し訳ないんだけど、今日もそっちに行けそうにないって伝えといてくれない?」

「あー、そういう用件か。ま、今日は模擬戦の実装もあったから気持ちは分かるぜ。それについては伝えておくわ」

「サンキュー、斬雨さん!」

「なに、良いってもんだ。ジェイは急な模擬戦の実装でその辺の対応に少し悩んでたとこだしな」

「あ、そうなんだ?」

「新機能は使いたくなるのが人情ってもんだろ?」

「確かにそりゃそうだ!」

「って事で、今日は気にしなくていいぜ」

「そう言ってもらえると助かる」

「おう。それじゃそろそろ俺も模擬戦の順番が回ってくるから切るぜ」

「ほいよっと。それじゃまたな、斬雨さん」

「おう、またな、ケイさん!」


 そうしてフレンドコールでの連絡は終了になった。ふー、向こうも急な模擬戦の実装で色々としたい事はあったみたいだし、結果としてはこれで良かったのかもね。


「話はついたみたいだな、ケイ」

「おうよ。向こうは向こうで模擬戦で色々やりたい状態だったっぽい」

「あー、そりゃまぁそうなるか。って事は問題はなさそうか」

「そうなるなー」


<『ミズキの森林』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>


 おっと、そうやって話している内に森林深部へと移動したね。さて、そんなに時間はかからないけどエンの場所まで移動だな。そういや現在時刻は……7時半か。うん、普段より結構早めにはなったね。


「ところで、岩山ってどこにあったっけ?」

「それはミズキの森林の西側です!」

「意外と近かった!?」

「あー、近いと言ってもミズキの森林を専有してる灰の群集だからなのと、空を飛ぶ手段があったらだがな。陸路から行くと直線的には進みにくいから、結構回り道が必要だそうだぞ」

「え、そうなのかな?」

「他の群集だとミズキの森林が通りにくい場所っていうのもあるんだろうね」

「そういう事なのさー!」


 ふむふむ。……待てよ、ミズキの森林の西側……? その辺りって一度行ったことがあるような、ないような……?


「あっ! ダイクさんと初めて会ってウォーターフォールを試しに行った場所か!」

「そうだよ、ケイさん! 厳密にはあの先に丘陵エリアがあって、その先が岩山エリアって話なのさー!」

「あー、なるほど、そういう風になってるのか」


 確かミズキの森林の西の端は崖になってたから、その崖の上が丘陵エリアって事になるんだろうね。そしてその先のエリアが例の育ち過ぎた土属性のドラゴンがフィールドボスとして君臨している岩山エリアなんだな。

 んー、もしかして丘陵エリアってミズキの森林から空を飛んで行かないと、他のエリアから回り込まないと行けなかったりするのかも? ……まぁ俺らはその辺は無視できるから別に良いか。


「さて、そろそろお喋りは終わりだぞ」

「お、もうエンの場所か……って、盛り上がってんな!?」

「わぁ、エン自体が中継してるのかな?」

「……どうなんだろ? うーん、定期的に内容が切り替わってる感じだね」

「うー!? あの大画面で実況したいです!」


 話をしている内にエンのいる陥没地帯の外周部までやってきたけど、そこから見下ろしてみると普段より多く集まっている人達の姿が見える。そしてそれ以上に目立つのはプレイヤーの不動種の中継画面より数段大きな中継画面が表示されている事だろう。

 ちらっと見た限りでは特定の一戦をずっと映しているのではなく、ダイジェスト的に複数の対決の様子を切り替えながら映しているっぽいね。


「……あれ? これって今のリアルタイムじゃなさそうかな!?」

「あ、ホントだね。これって風雷コンビの対決の様子?」

「おー!? 今映ってるのが風雷コンビの対決なのー!?」

「……みたいだな」

「あー、過去の戦闘を流してるのか、これ」


 さっきまでは見ていない戦闘のダイジェストだったから気付かなかったけども、直接見ていた風雷コンビの対決の様子が今まさに映し出されている事で把握出来た。

 ふむふむ、群集拠点種の近くで映し出されている映像はそういう仕様になってるんだな。あ、また画面が切り替わって、他の人の対決の様子が映し出されているね。


「これを眺めてるだけでも、結構楽しそうだよな?」

「……全部通してではないみたいだが、興味深いのは間違いないか」

「でも、これって赤の群集に見られても良いのかな?」

「流石に許可を出してるものだけじゃない? それに音声はないみたいだしさ」

「あ、そういえば全部音声はないねー!?」

「あー、そういやさっき映ってた風雷コンビの対決も音声は無かったか」


 ヨッシさんに言われて気付いたけど、確かにどれも音声はカットされている様子である。ふむ、発声でのスキル発動をする人の方が圧倒的に多いから、その辺はちゃんと配慮されているんだな。


「あれってベスタさんじゃない?」

「あ、ホントかな」

「後ろから着いてきてるのはダイクさんとレナさんじゃねぇか?」

「おー! レナさんとダイクさんだー!」

「ベスタは分かるけど、何で一緒にレナさんとダイクさん?」


 エンの近くにいた様子の黒い狼が空を駆け、水のカーペットに乗った大根とリスが後ろから追いかけて来てるんだよな。まぁベスタが俺達を見つけて合流しようとしているんだろうけど、レナさんとダイクさんは……まぁ疑問を声に出してはいたけども、大体予想は出来るか。

 それほど待つ事もなく、ベスタとレナさんとダイクさんが俺らの前までやってきた。……ふむ、近くまで来たらベスタは空中を駆けるのはやめたね? ……もしかして、一度止まると効果が無くなるとかそういう仕様? 


「来たようだな、ケイ」

「ベスタ、さっきぶり!」

「みんな、聞いたよー! ベスタさんとケイさんで対決するんだってねー! わたしも一枚噛ませてくださいなー!」

「ちょ、レナさん!? 落ちるから乗り出さないでくれ!?」


 あ、レナさんの目的はそれか。対戦はまだ一対一しか出来ないから、対戦をしたいというよりは中継絡み……多分、レナさんの性格的に実況へ混じりたいってとこだろうな。


「……レナ、まだ時間も決めていないから焦るな。時間を決めてから同意を得てからにしろと言っただろう?」

「およ? そうだっけ?」

「あー、うん、ベスタさんはそう言ってたな。……まぁあんまり関係なさそうだけど」

「……ダイク、どういう事だ?」

「ふっふっふ、ベスタさん、わたしの人脈を甘く見てもらっちゃ困るね! 灰の群集の初期エリア5ヶ所で、対戦を中断してでもベスタさんとケイさんの対戦をすぐに開始出来るように根回しは完了済みなのさ!」

「……なに?」

「レナさん、何やってんの!?」


 ちょっ、流石にレナさんがそんな根回しをしてるなんて全く予想してなかったんだけど!? え、それだと俺とベスタが戦える状態になったら即座に模擬戦が開始出来るようになってんの!?


「……レナ、それは今すぐ取り下げてこい。俺はそんな横入りをする気はねぇぞ」

「俺もベスタに同意。すぐに戦う事自体はいいけど、今やってる人を押し退けるのは無しだって」

「……あらま、これは不評だったかー。うん、それについては了解。あ、そうそう。ハーレさん、わたしも一緒に実況をしたいんだけど、混ぜてもらってもいい?」

「もちろんさー! あ、でも実況は譲らないから、レナさんは解説ねー!」

「うん、わたしはそれでいいよー! それじゃちょっと撤回をしてくるねー!」

「……あぁ、そうしてくれ」

「うーん、今回のはちょっと失策だったねー。これは反省しとかないと……」


 そう言いながらレナさんはダイクさんの水のカーペットから飛び降りて、少し距離を取ったところでフレンドコールをかけ始めていた。……相変わらずレナさんの顔の広さは侮れないな。


「まったく、マイペースなのは構わないんだがな……」

「……すまん、ベスタさん。俺じゃ止めきれなかった」

「あー、別に責める気はねぇから気にするな、ダイク。レナに悪気がねぇのも、強要もしてないのも分かっている」

「そう言ってもらえると助かる……」


 まぁレナさんに悪意がないのは俺にも分かる。っていうか、ベスタが戦うという情報だけでもレナさんの行動に関係なく譲ってきそうな人とか居そうだよね。

 俺も対戦待ちの時にベスタが誰か強い人と戦うという情報を知ったら譲るかもしれないし……。いや、違うな。譲るんじゃなくて、対戦を止めて中継を見に行きたいという方が正しいかもしれない。


「あはは、レナさんも相変わらずかな」

「そだね。ところでハーレ、解説はレナさんでいいの? てっきりアルさんと一緒にやりたいって言うと思ってたんだけど」

「それについては問題なしです! アルさんはゲスト枠にします!」

「あ、俺は解説枠からゲスト枠に変わるだけなんだな。まぁ良いけどな」

「ふむふむ、実況はハーレさんで、解説がレナさんで、ゲストがアルか……」


 これはあれだな。賑やかで盛り上げ好きな3人が揃うという事が確定なのか。……よし、そういう事なら俺の選択肢は1つだ。


「……ベスタ、外部からの声援はオフの設定でいい?」

「……あぁ、構わんぞ。俺もそう提案しようと思っていたからな」


 なんだ、ベスタも同じ事を考えていたんだな。……まぁベスタ相手に実況とか声が聞こえてくると集中力も乱れそうだから、これは絶対に必要な設定だろう。


「さて、ケイはすぐに対戦自体は可能か?」

「あー、うん。それ自体は問題ないぞ」

「なら順番待ちに行くぞ。細かい時間の指定はしにくいからな」

「ほいよっと」


 もうちょい具体的に時間を決めてからやるのかと思ったけど、結構混雑しているみたいだし大人しく順番待ちをしていきますか。

 レナさんの根回しについてはありがたいとは思うけど、流石にああいう特別扱いは無しだ。こういうのはちゃんと待たないと、他に順番を待ってる人に失礼だからね。

 

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