第567話 次の強化案


<『始まりの草原・灰の群集エリア3』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>


 草原エリアの群集拠点種であるユカリのとこまでの移動では特に何もなく、森林深部へと戻ってこれた。よし、こっちは良い感じに快晴だな。

 ラグビーボールの形にしていた水のカーペットを通常の形に戻してっと。あー、草原エリアで雨に打たれた分だけ濡れているけど、別にいいか。……いや、折角だから水分吸収を使っておくのもありか。よし、そうしよう!


<行動値を3消費して『水分吸収Lv3』を発動します>  行動値 68/71(上限値使用:2)


 これでコケの表面を濡らしていた水分は無くなって、普通の状態に戻ったね。あー、そういえば晴れの日に時間があったらやろうと思っていた光合成をそろそろ鍛えていこうかな。

 折角、飛行鎧で光源を自在に動かせるようになったんだ。あの光源を利用して光合成が出来ないか、少し試してみたいんだよなー。


 あ、その前にもっと重要な事があったっけ。スキル強化の種を使って、魔法Lv7を取ってみたいというのもあるんだよね。……でも紅焔さん辺りが火魔法をLv7にしてても不思議じゃないのに、情報がないというのも意外なんだよな。


 その辺は今度紅焔さんに会った時にでも聞いてみるとして、今はフレンドリストを確認して先にアルがログインしているかを確認しよう。……えーと、あれ? まだアルはログインしてないのか。

 お、紅焔さんのログイン状態の表示が変わったって事は、今ログインしたっぽい? えーと、紅焔さんの現在地は……森林深部って事は同じ場所じゃん。って事はもしかして……お、周りを見回してみたら赤いドラゴンを発見! 丁度いいタイミングだし、たまには俺の方から声をかけてみようっと。


「おっす、紅焔さん」

「お、ケイさんか。あれ? 1人か?」

「まぁ、そうなるな。まだみんなログインしてないんだよ」

「なんだ、そうなのか。俺もちょっと合流までは時間あるし、2人でなんかやっとくか?」

「お、そりゃいいね! ちょうど聞きたい事もあったしさ」

「ん? ケイさんが俺に聞きたい事って、ちょっと想像がつかないな?」

「あー、火魔法Lv7の情報を持ってないかなーって思ってさ」

「……なるほど、そういう事か。ケイさん、それなら念の為、ミズキの森林へ場所を変えようぜ」

「お、何かありそうだな。そういう事なら了解っと」


 どうやら紅焔さんの周囲を気にするような雰囲気的に、火魔法Lv7については何かあるっぽい。あ、火魔法とも限らないけど、まぁ紅焔さんなら火関係である可能性は高いだろう。ミズキの森林に行くという事は、少なくとも赤の群集に簡単に見せたくはない手の内という事か。

 そして、紅焔さんが先に転移をしていった。さてと俺もミズキの森林へ転移していきますか。


<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『ミズキの森林』に移動しました>


 サクッとミズキの森林へと移動完了! あー、今日はそれほどここは混んでないみたいだ。ま、ミズキの森林で一番混雑してるのはミズキの側ではなくて、湖の側だけどね。


<群集クエスト《各地の記録と調査・灰の群集》の『???』が発見されました> 13/30


 お、群集クエストが進んだのか。昨日の夜は発見のアナウンスは見てなかったけど、一晩の間に結構見つかったんだね。


「もう13個というべきか、まだ13個というべきか微妙なとこだよな。ケイさんはどう思うよ?」

「まだじゃないか? 半分も見つかってないし、イベントの期間とかも考えるとさ」

「……それもそうか。これが終わっちまえば、スクショの方の予選期間も終わりだもんな」

「そういう事。それに後半の方が自力で探すのが難しいだろうし」

「あー、他の群集との兼ね合いもあるって話だもんな。……そういやケイさん、イブキに会ったんだってな?」

「おう、会ったぞ。紅焔さん、イブキに襲われたんだってな……?」

「……そういうケイさんこそ、奇襲を受けたって聞いたぞ?」

「……お互い様か」

「……みたいだな」


 改めて考えてみると、俺と紅焔さんは無所属の風属性の龍であるイブキに襲われた同士なんだよな。……別に紅焔さんと同じ事があるのが嫌な訳ではないけども、それが同じ相手から奇襲を受けたという内容だと流石に微妙な気分になってくるね。


「まぁ、それは置いといてだ。ケイさん、聞きたいのは火魔法Lv7についてだったな?」

「あー、うん。まとめに情報は無かったけど、火属性にこだわってる紅焔さんなら情報持ってないかなって思ってさ」

「なるほどなー。まぁそれ自体は間違ってる訳じゃないんだけど、ちょっと外れだな。俺の火魔法はまだLv6だぜ」

「……そっか、それは残念。って、あれ!? それじゃなんでミズキの森林まで来る必要があったんだ?」


 火魔法Lv6までなら、おそらく他の群集でも普通に取得している人はいるだろうし、それだけならわざわざミズキの森林まで来る必要はない……という事は、他に何かがある? あ、もしかして火魔法じゃなくて、火の操作か炎の操作にスキル強化の種を使った?


「……強化したのは、火の操作か、炎の操作?」

「おう、当たりだ。火の操作の方をLv7にしたぜ」

「……それで何か大きく変化した点があったんだな?」

「まぁ、そうでなきゃここまで来ねぇって」

「ははっ、確かにそりゃそうだ」


 何も変化がないというのであれば、移動に意味はないもんな。えーと、通常スキルの操作系スキルの変化要素といえば、行動値の消費軽減か同時操作数の増加だったはず。行動値の方は見た目じゃ分からないし、そうなると……。


「ま、百聞は一見に如かずって言うし、見れば分かるから使ってみるぞ。『ファイアクリエイト』『火の操作』!」

「おぉ!? 火の球の数が増えた!」

「おうともよ!」


 紅焔さんが生成した火の球は4つになっていて、それぞれがユラユラと浮いていた。Lv6までの操作だと3つまでが限界だったから、同時操作数が1つ増えて4つまでになったという事か。


「って事は、ファイアボールも4発いける?」

「おう、いけるぜ! 見るか、ケイさん?」

「折角だし、見ておきたい!」

「よしきた! 『魔法砲撃』『ファイアボール』!」

「おぉ!」


 そうして紅焔さんは火の球を消してから、上空へ向けてファイアボールを口から4発連続で吐き出していた。まだ小さいとはいえ赤い龍が火の球を4発連続で吐き出す光景は迫力あるなー!

 それにしても通常スキルの操作系スキルのLv7でこれはいいね。魔法で生成したものを4つまで分割して同時操作が出来るし、魔法Lv2の弾数が増えるのも戦力増加としては大きい。


 これは他の群集でも既に把握している可能性はあるけど、内容的には森林深部で見せるものでもないな。同時操作数や弾数の違いは、戦闘時に非常に大きく戦況を変える可能性が高いしね。ふむふむ、これは非常に興味深い。

 うーん、こういう明確な強化があるLvならば俺も水の操作をLv7にする……? いや、同じ操作数の増加というのなら土の操作をLv7という選択肢もありか。でもまだ情報の無いLv7の魔法も捨てがたいんだよなぁ……。


「ケイさんはスキル強化の種をどれに使うかで悩んでるんだな?」

「まぁそうなるなー。これはかなり悩む……。水の操作Lv7、か土の操作Lv7か、水魔法Lv7か、どれが良いものか……」

「分かる、分かるぜ、ケイさん。俺も火魔法か火の操作で散々悩んだからな!」

「やっぱり悩むよなー」

「そうそう、そうなんだよ。火魔法も火の操作もLv6からは全然上がる気配がなかったし、どうもこの辺からかなりLvが上がりにくくなってるっぽいぜ」

「え、マジで!?」

「おう、マジで。スキル強化の種なしで操作系スキルLv7へ到達したって人はまだいないみたいだしな。魔法の方も同じみたいだぞ」

「……なるほどね」


 操作系スキルはLv3まではかなり上がりやすく設定はされているけど、Lv4から必要な熟練度がそこそこ上がって、Lv7からは更に必要な熟練度が必要という訳か。

 そしてまだ情報が出ていない魔法については、もっと上がりにくいという可能性すらありそうだ。操作系スキルと魔法は消費行動値の影響とかで連動しているところがあるから、その辺を主力にしている場合はどうしても2択にはなるもんな。


「そういや紅焔さんって、火魔法のみ?」

「いんや、魔法がメインではあるけど一応物理も上げてるから魔法寄りのバランス型だな。一応は凝縮破壊も取ってるし、発火で全身から火を放ちつつ赤いオーラを纏った攻撃ってのも良いもんだぜ!」

「あー、なるほど、そういう感じか」

「おう、そういう感じだ!」


 てっきり紅焔さんは火魔法のみかと思ってたけど、意外とそうでもないんだな。火属性のドラゴンにこだわりがある紅焔さんだけど、火を吹くのみではないという事なんだろうね。


「ところでさ、魔法の方のLv7が出てない理由ってなんかあったりする? 誰も試してないってのが微妙に気になるんだけど……」

「……あー、それか。全く情報がないって訳でもなくて風雷コンビが電気の操作と電気魔法で割り振ってどっちのLv7も取ったっていう話があってな? それでLv7の魔法は操作に比べて割に合わんとかで喧嘩をし始めて、有耶無耶になってた気が……」

「何がどうしてそうなった!?」

「……さぁ? そこから風雷コンビが小競り合いを始めて、レナさんがその状況を解決する為に追いかけ回して、逃げてる間に和解した風雷コンビにキレてたけど……」

「あ、なるほど……」


 昨日レナさんが風雷コンビを半ば私怨で追いかけ回していた原因はそこか。てか、何やってんだよ、風雷コンビ! いや、あの2人なら片方が電気の操作Lv7に、片方が電気魔法Lv7にするっていう分担をしてもおかしくはないけどさ。……そうなってくると風雷コンビが電気魔法Lv7を操作より割に合わないと判断した理由が気になってきた。


「……で、風雷コンビはそのLv7の魔法の具体的な情報については……?」

「あー、未公表のままになってる。あの2人、情報を出す時は出すけど、出さない時は全く出さないからなー」

「やっぱりかい! えー、Lv7の魔法がすごい気になってきたんだけど、誰か試した人っていないの……?」

「……多分いるにはいると思うが、普段から情報を上げてる人の中にはいないっぽいな。どうも魔法メインの人は2属性目の昇華狙いでスキル強化の種を使ってた人が多かったみたいだぜ。試したいけど既に使用済みで試せないって人と、風雷コンビの発言で躊躇ってる人と、まだスキル強化の種は温存しておきたいって人と、単純に魔法Lv6になってなくて試せない人が混在してる感じか」

「あー、なるほど、そういう感じか」


 そりゃ現時点で1個しか入手出来ていない貴重なスキル強化の種だもんな。俺だって元々は土の昇華の為に使う予定だったし、俺らのPTでは実際にヨッシさんが氷の昇華の為に使用済みではある。

 それに魔法のLv7情報が断片的にでも出てきたのが、風雷コンビによる割に合わない判定なら他に用途もあるんだし躊躇いもするか。まだ使わずに温存しておきたいという人の気持ちも分かるしね。……風雷コンビが情報を上げてくれれば助かるけど、強要するもんでもないしなー。くっ、さっき遭遇した時にこの情報を知ってれば普通に聞いてみたのに!


「……よし、そういう事なら博打で水魔法Lv7を取ってみるか!」

「あー、なんとなくケイさんならそう言う気がしてた」

「……何か問題ある?」

「いや、別に? 俺も気になってる内容だし、むしろ大歓迎だぞ。現時点で試せる人自体がそう多くもないしなー」

「ですよねー。だからこそやるのみ!」

「こりゃ新情報に期待だな」


 強化具合が凄まじいベスタとかでも魔法を使わない訳じゃないけど、基本的には物理型だから魔法のLv7とかは流石に無理だろうしね。灰のサファリ同盟とかなら土魔法Lv7よりも土の操作Lv7を選ぶだろうし、大前提となる魔法Lv6に至っていない人も結構いるはず。……色々と他の強化をしてたというのもあるだろうけど、俺自身が水魔法Lv6になったのは昨日だしね。


 一番気になるのはLv7というLvの高い魔法を風雷コンビが割に合わないと評した事だな。魔法はLv1が生成、Lv2が射出、Lv3が拘束、Lv4が爆発、Lv5が防御、Lv6がシンプルな放出と来ているから、補助的なものと攻撃的なものの交互っぽいんだよね。

 だから、確実とは言えないにしても次のLv7では補助的なものな気はしている。その性質次第では風雷コンビにとっては使いにくいだけで、有用な魔法という可能性は十分ある。というか、その可能性に賭けてみたい。


「よし、それじゃ早速――」

「お、ケイと紅焔さんが一緒か。おはようさん」

「おっす、アルマースさん」

「あ、アルか。おはようっと」

「おうよ。んで、早速って何かやるのか?」


 いざ実行に移そうかと思ったらアルがログインしてきた……というよりは転移をしてきたね。ミズキの割と近くでやっていたから、そう探すまでもなくあっさりと見つけてきたようである。


「水魔法Lv7をこれからスキル強化の種で取ろうかと思ってな」

「……あー、風雷コンビが中途半端に変な印象を残して、試したい奴は使用済みで出来なくて、試せそうな奴は躊躇ってて情報が出てないあれか」

「……アル、事情は知ってたんだな。俺、さっき紅焔さんから聞いたとこなんだけど……」

「昨日のあの後、ベスタから聞いたんだよ。俺はスキル強化の種をまだ使ってないって言ったら、水魔法がLv6になってもし興味があれば試してくれってな」

「あ、なるほど」

「ケイがちょうどその条件に当てはまるから、その相談をこれからしようと思ってたとこだったんだがな。どうやらその必要もなかったか」

「そういう予定ではあったんだ」


 ふむふむ、俺が自発的に気になって実行に移そうかと思っていた事だけど、ベスタから試してみてほしいという相談はあったのか。ベスタもそういう事なら昨日の内に言ってくれれば……って、そこまで話している余裕があった訳でもないか。俺らがログアウトした後にそういう話をする時間が取れたってとこなんだろうね。


「よし、ベスタからも検証依頼があるって事なら尚更やろうじゃないか!」

「そういう事なら興味がある人も多いだろうし、情報共有板でリアルタイムに情報提供していくか?」

「お、アルマースさん、それは良いアイデアだな!」

「だなー。んじゃ、そういう方向でやっていきますか」


 さて、これで俺のスキル強化の種は水魔法をLv7にする為に使用する事で決定だね。まずはLv7にしてどんな魔法なのかを確認して、その性質に合わせた性能検証をやっていこうじゃないか。……さーて、どういう魔法なのか少しの不安はあるけど楽しみでもあるね。


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