第545話 失敗の経験を元に


 サヤの火の操作の特訓を本格的に開始していき、ヨッシさんのウニの棘が何度も伸縮していたりする。まぁスキルは無駄打ちでもスキルの熟練度は稼げるみたいだし、問題はないんだろうね。

 さてと、俺らもそろそろ休憩を終わりにして再開といきたいとこだけど、これから晩飯までずっと模擬戦は流石にしんどいな。


「ケイ、俺らも再開するか?」

「アル、流石に模擬戦ばっかは疲れるから、今度は普通にスキルの熟練度稼ぎにしない?」

「あー、確かにな……。最近はあんまりやってなかったが、的当てにするか?」

「よし、それでいこう。的は交互でやる感じで……あ、魔力集中か自己強化が切れたら交代でどう?」

「それでいいぜ。どっちを使うかは自分で決めるって事でな」

「それじゃそれで決定。やっぱり本格的に実戦形式でやるのは長時間はきついもんなー」

「ま、そりゃそうだ。……10戦やってから言う事でもない気もするが」

「そこは気にしない方向で!」


 対戦形式だと色々とプレイヤースキルとかの特訓にはなるけど、他のスキルの使用率も上がるというか鍛えたいスキルの使用率が下がるから時間効率が決して良いとも言えないんだよな。時間効率だけを考えるなら空振りのスキル連発が一番いいんだけど、それはそれで作業感が出て退屈なんだけどね。

 とりあえず俺とアルのどっちが先に的を用意するかを決めてから、シンプルな的当て形式の特訓を……って、ちょっと待った。後で登録すると考えながら放置になってたあれをやっとくか。


「アル、すまん。ちょっとだけ時間をくれ」

「ん? 別に良いが、なんかあったか?」

「後でやろうと思ってたロブスターの移動操作制御の登録をやろうかと思ってね」

「あー、そういやそうだったな」


 さっきの10連戦の途中でコケの移動操作制御を水のカーペットに登録し直すのを待っててもらったけど、ロブスターの方は後回しにしてたからね。ここでそれをしてしまうのが良いはず。


「俺は俺でスキルを鍛えとくから、ケイもその間に登録しとけ」

「ほいよっと」

「さて、待ってる間にどこまで昇れるかやってみるか」

「……はい?」

「単なる思い付きなんだが、まぁとりあえず見てろ。『魔力集中』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』『重突撃・風』!」

「おぉ!?」


 何をするのかと思ったら、アルは緑色のオーラを纏ったクジラの向きを垂直にして上空へ向けて突撃をしていった。なるほど、風属性で速度を上げて上空へと突撃しているのか。

 これは巨体のクジラでやると相当迫力があるね。これは折角だからスクショを撮っておこう。……よし、割といい感じで撮れた気がするぞ。


「まだまだ! 『重突撃・風』『重突撃・風』『重突撃・風』!」

「お! おぉ! おー!」

「あ、アルさんが何か凄い事をやってるね」

「これはスクショを撮るチャンスかな?」

「そだね。折角だしこれは撮っておかないと」


 次々と風属性を付与した重突撃によって上空へと打ち上がっていくアルのクジラと、特訓を中断してその様子を見に来たサヤとヨッシさんであった。ふむ、なんというかやってる事はロケットみたいだね。

 これはサヤの言う様に、スクショの連写するべき時! 満月よりはやや欠けてきた月夜に打ち上がっていくクジラというのも珍光景だしね。


「『重突撃・風』! ちっ、ここまでが限界か。空中浮遊を一旦解除して……『空中浮遊』!」


 あ、流石にどこまでもは上がれないようでアルの上昇が止まったな。そこからどんどん落下していって、空中浮遊で浮ける範囲までくれば普通に泳いでいた。……って、なんで途中で空中浮遊を解除してから再発動したんだ? 水のカーペットが無しでも木の上を普通に飛んでるみたいだし、これもしかして……?


「アル、もしかして空中浮遊って前に発動した時にLv6になったのか?」

「あ、言い忘れてたか。おう、そうだぜ」

「やっぱりか。って事は水のカーペットは無しでも、森の上は普通に飛べるようになった?」

「ま、そうなるな」


 確か空中浮遊Lv5で2メートルの高さって話だったはずで、それより高い状態でも飛べるようになった訳だ。えーと、距離は分かりにくいけど大体4メートルくらいの高さは飛んでいる気がする。

 うん、この高さならよっぽどの事がなければ大体の場所は飛んで動けるね。それに小型化をすればもっと高くも飛べるはず。


「……それはそうと、ケイ、登録は?」

「……あっ」

「ヨッシ、特訓に戻ろうかな!」

「そだね。そうしよう!」

「ケイ。さっさと登録、終わらせてこいな?」

「さっきのはアルが悪いと主張させてもらおうか! いきなりあんなのやったらビックリするって!」

「……ケイがそれを言うのか?」

「うぐっ!?」

 

 それに関しては色々と思い当たる事があるから、とんでもなく巨大なブーメランが返ってきたなー。……余計な事を言うと墓穴を掘りそうだから、これ以上はやめとこ。


「さて、登録してくる!」

「……露骨に誤魔化したな? まぁいい、俺は今の感じでスキルを鍛えとくからな」

「ほいよ!」


 誤魔化せたというより誤魔化されてくれたという感じだけど、そこは気にせずにいこう。とにかく予定通りにロブスターの方の移動操作制御の登録をしていかないとね。


<『移動操作制御Ⅰ』を登録モードで発動します。なお行動値の消費はありません>


 という事で、ロブスター側の移動操作制御を登録モードで発動。よし、問題なく発動は出来たから早速登録をしていこう。

 えーと、どう登録しようかな。ここは前に使った懐中電灯モドキとしても、岩の操作での移動にも使えるように工夫しておくか。アースボムとかの攻撃は自滅の元なので基本的に登録しない方向で。


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 71/72 : 魔力値 201/204

<行動値を4消費して『増殖Lv4』を発動します>  行動値 67/72


 まずは土台となる石の生成の為にアースクリエイトを登録して、そこにコケを付与させるための増殖を組み込む。ま、今回は土の操作ではなく岩の操作を組み込むから、実際に使う時に岩を生成するように気をつけないとね。


<『並列制御』の登録は通常の倍の登録数として扱われます。ご注意ください>


 そして次は並列制御で登録をしていこう。行動値の最大値は増えてきてるから、応用操作スキルを2つ登録しても何とか足りる範囲だね。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を19消費して『光の操作Lv3』は並列発動の待機になります>  行動値 48/72

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を38消費して『岩の操作Lv3』は並列発動の待機になります>  行動値 10/72

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 うっわ、行動値は足りたけども応用操作スキルを2つ、しかも並列制御で組み込むとなると結構行動値は厳しいもんだね。でも、足りたので結果オーライだね。という事で、登録はこれで完了!


<移動に使用するスキルの登録を終了します>

登録内容:『土魔法Lv1』・『増殖Lv4』・『並列制御:光の操作Lv3・岩の操作Lv3』

使用上限値:6


 光の操作は場合によっては無駄使いというのも想定はしているけども、これも決して悪い形にはならない筈。上限値の使用量は増えてしまうけど、操作の指定範囲の猶予時間を過ぎれば無効になるだけだしね。枠があるなら別々に登録したいけど、今回はその辺は妥協しよう。


「よし、登録完了!」

「お、済んだか」

「おうよ」


 俺が登録している間に上空へと何度か打ち上がっていたアルが、地面に近いところまで泳いで下りてきた。ふむ、空中浮遊がここまで育てば便利そうだよなー。

 まぁ俺もその代わりの飛行手段を新たに登録したとこだしね。性質は異なるけども飛べるという意味では一緒だろう。


「ちょっと実際に使ってみるわ。色々と便利にはなるはずだし」

「ほう? それは期待だな」

「今まで使ってきたのを色々と組み合わせたからなー」

「ま、見てみればどんなのか分かるか」

「あ、ケイの登録が終わったのかな?」

「行動値の回復中だし、見ていこうっと」

「……なんだかんだで、サヤもヨッシさんも見に来るんだね?」

「「もちろん!」」

「ま、それもそうだよなー」


 同じ共同体のメンバーが興味深い事をやっていれば、そりゃ見に来るよね。その行為には疑問の余地は欠片もないのは、俺自身がその立場だったら間違いなくやるし。

 さて、それじゃ新しく登録したロブスター側の移動操作制御を実際に使ってみるか。今は夜目と魔法砲撃が発動中だけど、魔法砲撃はしばらく使わないだろうし切っておこう。


<『魔法砲撃Lv1』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 70/70 → 70/71(上限値使用:1)


 さて、これで準備は完了。とりあえず初めは移動特化として発動してみようじゃないか。


<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 70/71 → 65/65(上限値使用:7)


 まず適度な岩を生成して、その表面にコケを増殖させていく。移動特化はそれほどコケに意味はないので、適当でいい。それで岩の操作で生成した岩を支配下に置き、ロブスターの脚を固めるように土台を作っていく。要注意な点は、視界を悪くさせないようにロブスターの大きさに合わせる事だな。

 そして光の操作は特に指定せず放置でいい。……こっちの運用方法は正直なところ無駄は多いんだけど、岩での飛行形態の完成だ。


「あ、これって岩での飛行手段かな?」

「おう、そうだぞ。ほら、こんな感じ」

「水のカーペットの時に比べると、キャラが固定されてるから安定しているね」

「あー、そういや水のカーペットってただ乗ってるだけだもんな。こっちの岩のはその辺が無視出来るのか」

「そういう事。ほら、こんな事も出来る」

「逆さにしても落ちないのはありかな!」


 決して水のカーペットが劣っている訳でもないし、大人数で移動したい場合や下部への視界を確保したい時にはあっちの方がいい。だけど、この岩の移動なら生成した岩の中でロブスターの脚が固定されているので、縦横無尽に飛び回れるという利点がある。……それにこの利点はまだあるんだよなー。


<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 65/65 → 63/63(上限値使用:9)


 よし、コケの方の移動操作制御も発動して、水のカーペットをロブスターの全体を覆うように展開していく。ふっふっふ、これこそ真骨頂! 移動操作制御の2重発動!


「あ、そんな事も出来るんだ?」

「まぁね。これでコケの水の方を1発限りの防御としても使えるし、片方だけで運用しててダメージ発生で強制解除になっても、すぐにフォローが出来る!」

「……ちょっと欲しくなってきたかな」

「あー、とりあえずサヤは操作系に慣れるのが先だな。流石にそれが出来ないと、これは無理」

「ま、サヤの場合はそうなるか。移動操作制御はあくまでも操作系スキルの延長上の派生スキルな訳だしな」

「……頑張るかな!」

「あはは、サヤの気合が更に入ったね。ところでケイさん、それだとコケは無意味だしそれで終わりじゃないんだよね?」

「お、お目が高いですな、ヨッシさん。それじゃ次の運用方法を行ってみよう!」


 この運用方法ではコケが無意味だというのは大当たりだね。ま、他の運用方法も考えているからこそ、こっちでは無意味な増殖と光の操作を組み込んでいるもんな。それでは2つ目の運用方法を行ってみようー!


<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 63/63 → 63/65(上限値使用:7)

<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 63/65 → 63/71(上限値使用:1)


 とりあえずどっちも一度解除だね。次の運用では光の操作を使うから、不発となった今回のロブスターの移動操作制御は再発動しないと駄目だもんな。コケの方の移動操作制御については単純にいらないから解除である。


「んじゃ、次のいくぞー!」

「まー、正直大体の予想はついてるけどな」

「ネス湖の探索をした時のあれだよね?」

「懐中電灯モドキって言ってたやつかな?」

「ふっふっふ、基本はそうだけど工夫はしてるのさ!」


 今回のこれは、ネス湖の時の小石に発光するコケを用意して、そこから光の操作で懐中電灯モドキとして照らすだけではないのさ!


<行動値上限を4使用して『発光Lv4』を発動します>  行動値 63/71 → 63/67(上限値使用:5)

<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 63/67 → 61/61(上限値使用:11)


 うっ、思ったよりもコストが重いけど、これは必要だから仕方ないとしよう。とりあえず生成した岩にコケを増殖させ、コケの部分が前面に来るように岩を追加生成して、さっきと同じようにロブスターの脚を固めて固定していく。前回と少し違うのは背中部分のコケも岩で覆った事である。

 そして、前面に配置した増殖させたコケの光を光の操作で懐中電灯モドキと同じように照らしていく。うん、かなりいい感じだね。岩の生成もハサミの可動域を邪魔しないように生成出来ている。


「ほう、これはよく考えたもんだ。移動と光源を両立させたのか」

「確かにこれならケイの上の方にいても眩しくはないかな」

「それでいて、しっかりと前方は照らしているんだね」


 今は森の中だけど、しっかりと暗い森の中を照らしているしね。今回のは実用性も含めて結構な自信作である。ふふふ、岩の操作を使った移動方法は何度か失敗したけど、その反省点と今まで枠が欲しかった他の移動操作制御の登録内容の組み合わせがこれなのさ!


「ふふん、どうよ! ま、この場合だと照らせる方向は多少限られてくるけど、少しなら岩の生成量を変えればどうにかなる範囲!」

「確かにロブスターの背中のコケを隠す岩に小さな穴でも空ければ、どうにかなりそうではあるな」

「ケイ、ナイスかな!」

「これは便利そうだよね」


 とりあえずみんなから好評のようで、俺としても嬉しいとこだね。ちょっと使用コストが重めなのが欠点ではあるけども、まぁ有用性を考えるのであれば許容範囲だろう。


「とりあえず俺のお披露目はこれで終わりだな。ハーレさんがアルバイトを終えて合流するまで、各自特訓を再開!」

「「「おー!」」」


 色々と脱線はあったけども、夕方か晩飯後にはハーレさんも合流出来るからね。それまでに鍛えられる範囲で鍛えておきたいとこである。さー、頑張っていきますか!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る