第503話 割といつもの事
今日の夕方の臨時メンバーはダイクさんとレナさんである。遅れていたハーレさんも合流したのですぐにでも活動は開始できるけど、ダイクさんとレナさんには何か予定はあるんだろうか?
俺らはまずはヨッシさんの氷の昇華を利用した新たな昇華魔法のバリエーションを確認するつもりだけど、その辺はどうなんだろう?
「レナさんとダイクさんに質問というか、確認です!」
「これからの予定についてかなー?」
「レナさんに心を読まれたよ!? その通りです!」
「それについてはフィールドボスと戦いに行きたいんだよね。昨日の長ネギは回収を忘れてて、他の人に仕留められちゃったしさー」
「あー、なるほど」
そういや掲示板で雪に埋もれた長ネギを見つけた的な内容もあったな。流石に昨日のあの騒動では回収を忘れても仕方ないか。
「それでケイさん達は何か予定はあるー?」
「あー、ヨッシさんが氷の昇華になったから、俺の水と土の昇華と合わせて昇華魔法の新パターンを試してみようかなと思ってる」
「お、マジか!」
「ほほう? 一応パターンは知ってるけど、まだ実物は見てないねー?」
「そうなんだ?」
「うん、そうだよー」
既にまとめ情報とかで昇華魔法の名前は分かっていても、それを見る機会がなかったって事か。『渡りリス』のレナさんも、何でも直接見ている訳ではないんだね。
「てか、ケイさんも2つ目の昇華を手に入れたんだな」
「ま、そうなるね。俺もって事はダイクさんも?」
「俺は風が昇華になったぞ」
「お、ダイクさんは2つ目は風なのか」
ふむふむ、俺と同じように魔法と操作がメインのダイクさんは2つ目の昇華には風を選んだんだね。……水と風の組み合わせだとどういう昇華魔法になるんだろ? ま、レナさん達は知ってそうではあるけどそのうち使う機会もあるだろうし、ダイクさんが風の昇華ならこの後試すパターンを増やせばいいか。
「そしてわたしは火の昇華狙いなのさー!」
「え、レナさんが昇華を狙うのかな!?」
「それって、意味あるの……?」
「いやー、掲示板を見てたらちょっと思いついた可能性があってさー。ダメ元でやってみようかなーと?」
「レナさん、それってどういう内容だ?」
掲示板であった内容で、物理特化型のレナさんが火の昇華を取る理由……。うーん、成熟体が使っていたという未知のスキルが有力候補か……? 通常スキルとは思えないし、あれは応用スキルと見るべきか。……可能性としては今ある応用スキルか何かを前提条件にした、今より威力のある応用スキル……?
「ほら、ケイさんも思い当たってるじゃん」
「あ、やっぱりそれなのか。その根拠を聞いてみてもいい?」
「いいよー! 一番の理由はバランス型のプレイヤーのダメージが他の特化型と比べてちょっと落ちてるってとこだね。その代わりに色々出来るようになってるけど、ちょっと最大威力のバランスが悪いでしょ?」
「あ、確かにそれはそうかな?」
「……そうだね。私は少し魔法寄りだけど、バランス型に近いから物理も魔法も単独での威力そのものは微妙ではあるね。その分、状態異常に特化させてはいるんだけど……」
あ、そっか。そういや俺らの中ではヨッシさんがバランス型に近い。ヨッシさんは状態異常に特化しているからそれ程ダメージ量は気にならないけども、そう言われてみれば確かに……。あ、もしかしてそういう事か……?
「レナさんの推測って、物理と魔法を両方併せ持った応用スキルの存在か? その取得の前提に昇華の可能性ってところ?」
「ケイさん、大当たり! 攻撃と魔力のステータスが分散して、両方低めになるバランス型だけど、両方のステータスを参照するなら特化型にも威力は匹敵するんじゃない?」
「おー!? それは確かにありえそうだね!?」
「それはちょっと魅力的ではあるかな?」
「なるほど、試して見る価値はありそうだとは思う。……けど、物理特化型のレナさんじゃ微妙じゃないか?」
「駄目だったら、それでも別にいいのさー。取得条件どころか、本当に存在するかすらまだ分からないからねー」
「……まぁ、レナさんがそれで良いなら別に良いか」
無駄足に終わる事を承知の上で試そうというのであれば、無理に止める理由もない。それにもしその予想通りだとすると、物理特化型でも多少の魔力はあるから威力の上乗せは可能なはず。逆に言えば、俺のコケの物理攻撃でも同様の可能性はあるな。
ふむ、魔法と物理の複合攻撃か。可能性は高そうだし、面白そうでもある。流石にスキルの取得条件までは同調化しているとはいえ、別キャラであるコケとロブスターで組み合わせるのは無理な気はするから、個別にかな?
「おーい、ケイさん、考え込んでるとこ悪いけど、多分すぐには無理だからなー? 下手すりゃ条件に成熟体からってのがあるかもしれんし」
「……それもそうだな」
確かにダイクさんの言うように進化階位が上がって初めて解放される、進化ポイントでしか手に入れられないスキルというのも存在はしているもんな。例えば成長体からポイント取得が可能になった『魔力制御Ⅰ』が代表格か。……あれ、そう考えると成熟体になってから『魔力制御Ⅱ』が手に入るという可能性も無くはない……?
これは容易に否定出来ない可能性だね。魔力集中に似た白い光を放つ攻撃といい、一撃限りの属性持ちっぽい攻撃スキルといい、何か同じ前提条件にある可能性は十分あり得る。そして、もしその場合だとすると、成熟体への進化まではどうにもならないな。……その可能性も考慮しつつ、試してみるのが無難かもね。
「よし、焦っても仕方ないか。まずはやれる事からやっていこう!」
「そうだねー! さてと、それじゃ灰のサファリ同盟に預けてたものを取りに行こうかー!」
「……レナさん、灰のサファリ同盟に何を預けてるんだ?」
「え、フィールドボスの誕生用のLv20の成長体を2体だよ。誕生させる場所までの移動はダイクとケイさんがいるから、そう時間はかからないよね?」
あー、やっぱりフィールドボスの誕生させられるエリアまでは行く必要があるよな。っていうか、灰のサファリ同盟なら預ける相手としては適任なんだろうけど、普通に成長体を預けられるんだね。
「……こうやってダイクさんはいつも移動を任されてるのか?」
「……ま、そんな感じだな。それで、ケイさん達はこれからフィールドボスを誕生させて倒しに行くっていうのは賛成か?」
「あ、それを聞くのを忘れてたねー! 無理ならケイさん達に合わせるけど、どう?」
レナさんは俺達の予定を無視してた訳ではなく、素で聞き忘れてただけか。さてと、今が5時前だから急げば6時前までにはフィールドボスの1体くらいなら倒せるかな……? Lvを上げておきたいとこでもあるし、既に元になる成長体を確保済みなら決して悪い話じゃない。
「みんな、どうする?」
「はい! やりたいです!」
「アルには少し悪い気もするけど、ちょっとこれはやりたいかな」
「それなら私達がみんなで行ったことある場所にしておく? アルさんも夜は私達との時間のズレの分だけボス戦とかで経験値稼ぎもしてるみたいだし、行った事のある場所なら問題ないと思うよ」
ふむ、確かに新しい場所の探索はみんなでという事にしておきたいし、ここは既に行った事のある場所にしておくのが無難ではあるか。えーと、ネス湖は混雑中らしいからアウト。ニーヴェア雪山は中立地点で他の群集の目があるし、情報を伏せてる現段階では除外するしかない。
そうなると昨日の夜に転移の種で登録した平原か、ネス湖の手前の平原か、望海砂漠だな。転移の種はアルと合流してから使うので却下。ネス湖の手前の平原は……あれ、あそこって今の状況はどうなんだ?
「ちょっと質問。ネス湖の手前……ハイルング高原から東に行ったらある平原って今はどんな状況?」
「あー、あそこか。条件的にはあそこは通り道なだけで混雑はしてないから悪くはないんだが、位置的にネス湖へ行く赤の群集と鉢合わせる可能性は否定出来ないな……」
「今はあそこは避けた方が無難かも……はっ!? そこ!」
「おわっ!? 随分あっさり見つかるのな!?」
「あー!? ライさんだー!?」
「ライさんかい!」
「いつの間にいたのかな……?」
「気付かなかったよ……」
「いや、来たばっかなんだけどね!?」
くっ、いつの間にやらすぐ近くの木の枝の上にライさんが来ていたようである。レナさんが蹴飛ばした小石で擬態が解除されて姿が見えるようになってきた。……エンのすぐ近くだからって、普通にフィールドボスの話をしてて油断した!? ……ライさんは来たばっかと言うけども、今の俺らの会話はどこまで聞かれた……?
ライさんの事だから悪気があってスパイをしに来たとかじゃなくて、いつものように擬態しっぱなしでただ気付かれてなかっただけだとは思うけど、まだ灰の群集の機密であるフィールドボスの誕生の断片的な情報を得られてしまった可能性も……。
「さーて、ライさん、覚悟してもらおうか!」
「通り掛かっただけなのに、理不尽ー!?」
「ライさん、他の群集で擬態してたらやっぱりね……?」
「ケイさんもレナさんも怖いんだけど!? いやいやいや、ちょっと待って! ここで俺を殺して口封じの必要はないから!?」
ほう? 確かに殺したところで既に聞かれていたらリスポーン出来るし、口封じにはならないね。この辺はどうしようもないもんな。まぁ、それでも聞かれたからには素直に普通に帰すという訳にもいかないけどね。
まぁ今回の目的地の相談を初期エリアでやったのは失敗だった。……さっきの会話ではフィールドボスの誕生Lv20の成長体が2体とか言っちゃてたもんな。強化した瘴気石の事については話してなかったからさっきのだけでは全貌は分からないはずだけど……
「……ライさん、それはどういうことかな?」
「サヤさんも怖い!? はい、説明しますんで、攻撃体勢を解いてもらえない?」
「それは内容次第だねー。ケイさん、岩の操作で拘束をお願い」
「ほいよっと」
「……ま、この状況じゃ仕方ないよな……」
ライさんは何やら諦めたような様子である。とりあえずレナさんの指示に従って、ライさんが逃げられないように対策はしておこう。
共闘イベントは終わったし昨日みたいに共通の敵がいる訳じゃないから、この辺は容赦なく行きますぜ。……常時擬態したままでなければこうはならないんだけどね。それにしても今回はサヤとハーレさんが気付かなかったし、擬態の精度が上がったのかもしれないな。
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 69/70 : 魔力値 197/200
<行動値を19消費して『岩の操作Lv3』を発動します> 行動値 50/70
さてと岩を生成していき、周囲の木の枝ごとライさんの身動きを封じてっと。……枝と一緒に岩で固めるとなんか嫌な予感もするので、離して浮かしておこう。
「……あっさり、溶解毒の対策もするのな、ケイさん」
「あ、やっぱり何か抜け出す手段を企んでたのか」
「いやいや、企んではねぇよ。というか、俺を捕まえたところで既に無意味なのさ!」
「お、またライさんが捕まってるぞ」
「あー、またか。別に悪さもしてないのに、擬態しっぱなしだもんな。そりゃ疑われるよ」
「今回は……あ、ビックリ情報箱と渡りリスか」
「ビックリ情報箱じゃなくて共同体名のグリーズ・リベルテって呼んで欲しいらしいよ?」
「グリーズ……何だって? ビックリ情報箱の方が言いやすくね?」
「いやいや、そこは本人達の希望を尊重しようよ」
「その名前、どういう意味?」
「えっと、灰の群集の自由な集団みたいな意味だって」
「あー、ピッタリではあるのか」
「馴染みのない感じの名前だし、ビックリ情報箱で良いや」
「良い感じの名前だとは思うけど、確かに馴染みないもんな。そもそも何語?」
「えーと、多分フランス語?」
「ライさん、いい加減に擬態の常用は止めたら? 捕まるのこれで何度目さ?」
「えーと、俺が見た限りで3回……?」
「私は5回は見たよ」
なんというか、周りの反応が非常に気になるんですけども……! グリーズ・リベルテの名前自体はベスタに併記してもらったおかげで多少は認知されたみたいだけど、ビックリ情報箱の打ち消しには足りないっぽい!? ……そっか、フランス語で馴染みがないのが仇になってるのか……。
そして、ライさんは何度も捕まってるんかい! えー、それじゃ俺らが捕まえたのもただの通りすがりだっただけなのか……?
「……なんか知らんが、ケイさん達はあだ名で苦労してるんだな」
「……そういうライさんも、無駄に何度も捕まってるみたいで……」
「「……はぁ」」
思わず俺とライさんのため息が重なってしまっていた。……まぁ俺らにしろ、ライさんにしろ、自業自得な要素が大きい気がするけどね……。
「さーて、それでライさん、話は戻すけど無意味ってのはどういう事なのさー?」
「レナさん、口調が地味に怖いから!? あー、簡単に言うと、フィールドボスの誕生の手段については、昨日の夜に赤の群集の深夜勢が確定させてる! 今の灰の群集が隠したい情報って、それだよな? そうでないなら、なんにも心当たりはないからホントに離してー!?」
「あ、もう確定させたんだ? そっか、そっか。それなら納得! はい、ケイさんもう離していいよー」
「レナさん、軽!? まぁでも既に知ってるんじゃ意味もないか」
「そういう事だ! って事で、解放を求める!」
「ほいよっと」
とりあえずライさんの拘束は解除してっと。なるほど、ライさんは自分が一切疚しい事をしていない自負があるからこそ、抵抗することなくあっさり捕獲されたんだね。
今回のライさんはただ通りがかっただけで、何も聞いてはいなかったのか。それどころか、もう赤の群集に対して秘匿する必要もないと宣言しているしね。
それにさっきのみんなの反応を見た限りではライさんの捕縛については割とある事のようなので、分かってはいたけど擬態している事には悪意がないのは間違いないな。本気でスパイをしてるなら、あんな対応にはならないだろう。
「……なぁ、ライさん。大真面目に灰の群集のエリア通る時だけでも擬態を切ったらどうだ? 俺も捕まってるとこを見るのは4回目だぞ?」
「お、ダイクさんもいたのか! だが、それは断る!」
「……そういうとこは無駄に頑固だよなぁ……」
俺の岩から解放されたライさんは、どうやら今後も擬態を続けるつもりのようである。……確かにダイクさんの言うように、ライさんは擬態に関しては妙に頑固だよな。まぁ拘りを持つのが悪いとはいわないけども、これから先もライさんには要注意しておく必要がありそう。……主にスパイと間違えないようにだけど……。
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