第439話 瘴気石の検証、開始


 ベスタが一番に思い当たったのは桜花さんだったみたいだね。灰のサファリ同盟には声をかけてないのかな? ふむ、たまに情報共有板にいるっぽい桜花さんに声をかけるのは順当なとこではあると思うけど、検証なら灰のサファリ同盟でもおかしくはないはず……?


「おー、桜花さんに話が行ったんだねー! そっか、灰のサファリ同盟は忙しいかもってラックが言ってたしねー!」

「あ、なるほど。そういやレナさんもそんな事を言ってたっけ」


 よく考えたら雪山に支部設立に動き出すって話だったし、今は灰のサファリ同盟は多忙なのか。桜花さんは灰のサファリ同盟との取引は多いみたいだけど、所属している訳じゃないから動きが取りやすいのかもしれないね。


「ケイさんもハーレさんもそういう反応って事は情報共有板での案件か。ん? おう、2人ともいるぜ。んで、具体的にどういう……お、来るのか? それは別に問題ないぞ。あー、2人に聞けばいいんだな? おう、分かった」


 どうやらベスタからのフレンドコールは終わったようである。聞こえていた限りではベスタがこれから来るって事と、それまでの間に事情説明をしておけという感じか。


「……情報収集から検証に変わってるって、何があったのかな?」

「ケイさん、ハーレ、何かの検証をするの?」

「そうだよー! フィールドボスの誕生に関しての実験さー!」

「……具体的に内容を聞いて良いか? ベスタさんは丁度いいからケイさんとハーレさんに聞けって言ってたもんでな」

「まぁ丁度いい状態ではあるかー」


 サヤとヨッシさんも何事かと確認してきている。まぁフィールドボスか成熟体が居る場所についての情報収集をしてたのが検証の話になってたらそう思うよね。でも、全く予定していなかった流れではあるけど、かなり重要な内容ではある。


 さてとそれじゃベスタが来るまでに簡単に説明しておこうか。直前まで検証の内容の話をしてたというか、俺らが新たに試してみる事を提案した内容だしね。


「とりあえず簡潔に経緯の説明をするぞ」

「おう、頼んだ!」

「分かったかな」

「何があったんだろ?」

「情報収集の前に言ってた通り、フィールドボスについての情報収集をしてたらついさっき砂漠エリアで命名クエストが発生したって話になってな」

「そうなのさー! そこからLvが上がった状態でフィールドボスを再出現させる手段がないかって話になってね! そしてケイさんが盛大に勘違いをしてたのが判明したのさー!」

「ハーレさん、余計な事は言わんでいい! てか、ハーレさんも勘違いしてなかったか!?」

「だって私は昇華は持ってないもん! 取れそうにもないしさ!」


 うぐっ!? それは事実だから反論が出来ない……。一度昇華を取ってた上で勘違いした俺が言える内容じゃないんだよなぁ……。


「へぇ、ケイさんも勘違いする事はあるんだな。それでフィールドボスの再出現ってLv1以上に出来ないって失敗続きになってたやつだよな。って事は、何か新しい検証条件が上がったのか? ……俺に声がかかったって事は、もしかして不動種が鍵か?」

「桜花さん、正解! それで質問なんだけど、桜花さんって瘴気の凝晶って持ってるか?」

「あー、使い道が分からんけど、浄化の輝晶も瘴気の凝晶も取るだけは取ってるぜ。隣のエリアまでなら分身体経由でも行けるし、ボス戦のカウントも分身体で出来たしな」

「ケイさん、最低条件はクリアだよー!」

「だな!」


 まずは桜花さんが纏瘴を使えるかどうかが最低限必要な条件だからな。……まだ共闘イベント期間中だし交換不可のアナウンスは出てないから、これから取りに行くのでも良かったんだろうけど、その必要は無いようだ。……不動種の分身体、意外と便利で重要なのかもね。

 さてと不動種でもちゃんと自力で入手出来るというのは極めて重要な情報だぞ。手に入れられるという事は即ち用途があるという事!


「……なるほど、大体の内容の見当がついたぞ。そうか、瘴気の凝晶を手に入れて一度纏瘴を使った後にポイントの無駄遣いをしたと判断してたが、そこが盲点になってたのか……」

「あ、一回無駄遣い判定されてたんだ」


 瘴気の凝晶は共闘イベントの後半戦が始まってすぐの入手だったし、その時点ではその判定になるのは仕方ないとは思う。瘴気石が手に入るようになったのも後半からのボスを倒してからだもんな。

 それに早い段階で俺が瘴気石の使い方の1つを発見したのも影響してるのかもしれない……。いや、ボスの再戦にも重要だから、駄目な発見ではないんだろうけども!


「ケイ、不動種の桜花さんに纏瘴をしてもらって何かをするのかな?」

「話を聞いてる感じだと、フィールドボスに関係しそうな感じだね」

「おう、そうだぞ。実際にやってみないとどうなるか分からないけど、瘴気石を瘴気収束で複数個を1個に纏められないかの検証だな!」

「そうなのさー!」

「……という事だ。桜花、検証への協力を頼めるか?」

「そういう事なら任せとけ!」


 そうやってみんなに説明している間に、桜花さんの樹洞の入り口にはベスタがやってきていて最後の台詞を持っていった。……なんだろう、ベスタには台詞を取られても特になんとも思わないどころか、ベスタの方が適任感がある気もする。


「とりあえず、ベスタ、水分除去しようか?」

「……別にそのままでも問題はないが、その方が良いか」

「よし、んじゃ水の操作で……そういやサヤ達って濡れてなかったけど、雨はどうしたんだ?」


 桜花さんの樹洞の中にいたからそれほど気にしてなかったけど、今の外は土砂降りで時折雷も鳴っているもんな。その中をやってきたベスタが濡れオオカミになっているのが気になっての提案である。別に濡れたままでもダメージがある訳じゃないから、問題ないんだろうけど気分的な問題だね。

 そこで気付いたけど、サヤ達にはサヤの濡れた足跡はあっても本人達は濡れていない。あれ? 気にしてなかったけど、これは何でだ?


「ケイさん、その答えはこれだよ。『アイスウォール』!」

「おぉ!? ヨッシさんの氷魔法の防壁か!」


 なるほど、これで疑問は解決だね。自分達の上部に氷の防壁を展開してそれを傘代わりにしてここまでやってきた訳か。ふむふむ、防壁というよりは氷の盾という印象かな。これは俺の水とは違って、硬さで防御する感じか。……まだ試してないけど、土の防壁もこんな感じかな?


「ほう? ヨッシも手札が増えたようだな?」

「まぁ、色々とやってるしね。ケイさんは土の昇華が目前だけど、私もそう遠くないうちには氷の昇華に辿り着くよ」

「頼もしいもんだな。……とりあえず、ケイ任せたぞ」

「ほいよ」


 水の操作で濡れた他のプレイヤーを乾かす事が出来るのは、前に灰のサファリ同盟で見たからね。さくっと済ませて、本命の検証を始めようじゃないか!


<行動値を3消費して『水の操作Lv6』を発動します>  行動値 59/62


 ベスタの体毛が吸っている水を支配して、引き剥がす感じで操作していけばベスタの黒い毛並みも乾いた状態に戻っていく。さてとこの水は必要ないから樹洞の外に捨てるか。


「よし、それでは検証を始めるぞ」

「はい!」

「どうした、ハーレ?」

「瘴気石は誰のを使いますか!?」


 あ、確かにそりゃそうだ。検証する事にはなったけど、誰かが瘴気石を提供しなければどうにもならないな。流石に協力してもらっている桜花さんに負担させるのはあれだし、ここは俺らのPTから提供するのが良いかな?


「それなら気にするな。俺が出す」

「え? 良いのか、ベスタ? 俺らも出すぞ?」

「構わねぇよ。とりあえず検証に必要な数は2個だし、それで駄目になってもまだ7個はあるからな」

「ベスタ、持ち過ぎじゃない!?」

「さぁな? まぁ数はあるから気にするな」

「ベスタさん、太っ腹だー!?」

「それはいいから、さっさとやるぞ。桜花!」

「あいよ! 確かに瘴気石は2個、受け取ったぜ」


 2個だからなのか、ベスタはインベントリから出して直接やり取りするのではなく、取引画面からの受け渡しをしていたようである。まぁこの辺は不動種である桜花さんが相手だから出来る事でもあるけどね。


「……ところでこれから桜花さんが纏瘴を使うんだよね? 樹洞の中にいても平気なのかな?」

「同じ群集なんだし、平気じゃない?」

「サヤさんの心配もなんとなく分かるけど、別に問題ないな。むしろ纏瘴を使うと禍々しくて黒い模様のある桜の花びらに変わるから、樹洞の中の方は気分的には良いと思うぞ?」

「はっ!? その桜をライトアップしたのが見たいです!」

「ハーレ、今は土砂降りだから諦めようね?」

「うっ、そうだった!?」


 黒い桜の花びらというのも確かに気にはなるけど、流石にこの土砂降りの中では厳しいものがあるかな? あ、でも雷を背景に黒い桜にというのも……って、それは流石に脱線しすぎ! 今は検証が先!


「それじゃ始めるぜ。『纏属進化・纏瘴』!」


 そして検証を始める為に桜花さんの進化が始まった。禍々しい瘴気を纏っていく桜花さんの樹洞の中を黒く変色させている。今は樹洞の中にいるから外の様子は分からないけど、桜花さんが言ってたように禍々しく黒い桜の花びらになってるんだろうね。


「さて、次に行くぜ!」

「あぁ、任せるぞ」


 次に桜花さんが樹洞の中にインベントリから取り出した2個の瘴気石を並べて置いていく。さて、これでどうなるかが重要になってくるんだよな。もしこれで2個の瘴気が1個になったなら、アイテムとしてどういう変化があるのか、それが極めて重要だ。

 うーん、内容が内容だけにちょっと緊張してきた。必ず成功するという保証はないし、思った通りの結果になるとも限らない。……いつもは戦闘中や特訓中にぶっつけ本番で試してるけど、こういう形での検証はあまりしてないもんな。うまく行ってくれよー!


「それじゃ本番の検証、始めるぞ」

「……ゴクリ。上手く行くかなー!?」

「……何だか少し緊張するかな」

「私達は見てるだけなんだけどね。でもサヤの気持ちは分かるよ」

「あ、みんなもか」

「すぐに結果は分かる。成功だろうが、失敗だろうがな。桜花、やれ」

「ま、ベスタさんの言う通りだな。行くぜ。『瘴気収束』!」


 そして2個の瘴気石の間に何か視界の歪みが発生していく。あ、そうか。今は全然瘴気が溢れている状態じゃないから、瘴気が集まっていく様子は視認出来ないんだな。……これだけ見れば、何の役に立つのか全く分からないスキルだけど、これは当たりっぽい?


「あー!? 瘴気石がちょっとずつだけど近付いて行ってる!?」

「これは当たりか? 桜花、操作感はどんな感じだ?」

「まだ何とも言えないが、この瘴気石の動きだと何もないとは思えねぇな」

「……そうか。だが、俺がやった時にはこんな反応は無かったからな。とりあえずもう少し続けてくれ」

「おうよ!」


 へぇ、ベスタもこれを試してはいたんだな。でも、その時は失敗だったという事か。……これはやっぱり不動種の特有のものと考えた方が良いのかもしれないね。



 そうしてしばらくその状態を続けていくと、徐々に瘴気石が瘴気収束の発動箇所に向けて浮かび上がっていった。少し時間はかかるみたいだけど、明確に変化が現れ出している。


「意外と時間がかかるな。これはスキルLvの問題か……?」

「多分そうだと思うぜ、ベスタさん」

「これって、使い込みが前提になってるのかもな」

「もし予想通りなら使用頻度も高くなりそうだしな」


 頻繁に使うものではないとは思っていたけど、不動種での瘴気収束が予想通りの用途なら使用頻度はかなり上がる筈。そういえば、対の存在となる浄化の輝晶の方にも何か役割があったりするんだろうか? ……気にはなるけど、それは順番に確認していくべきかもしれないね。


 そんな事を考えていると、2個の瘴気石に異変が生じ始めていた。瘴気収束に引き寄せられ、その原型が崩れ去っていき、混ざり合っていく。そして周囲に衝撃波を発生させて、少し溢れた瘴気を撒き散らしながら、その姿が隠されていた。


「……どうなった?」

「分からないが、瘴気収束の効果は切れたぞ?」

「……溢れた瘴気が邪魔だな。『ウィンドクリエイト』『風の操作』!」


 ベスタがしびれを切らしたのか、強引に風を生み出し溢れた少量の瘴気を吹き飛ばしていく。そしてその中にあった瘴気石は1個になっており、少し大きくなっていた。


「……これは混ざり合って1つになったのかな?」

「今確認するから、ちょっと待ってくれ。……ふむふむ」

「結果はどうだ、桜花?」

「単刀直入に行くぜ。……ズバリ、大成功だ!」

「おっしゃ! ハーレさん!」

「ケイさん、やったねー!」


 具体的な内容はまだ聞いてないけど、思わずハーレさんとハイタッチしていた。具体的な効果は次の段階になるけど、今まで出来ていなかった2個の瘴気石を1個にするという検証には成功したんだしな! 発案した俺とハーレさんにとっては、これだけでも充分な成果である。


「まだ気が早いぞ、ケイ、ハーレ。桜花、具体的にはどうなっている?」

「明確に違うのはアイテム名が『瘴気石+1』ってなってる事だな。この+1がどう効果に影響を及ぼすかは使ってみないと分からないが……」

「……『瘴気石+1』か。更に収束させれば数値が増える可能性もあるか?」

「やってみないと分からんが、可能性としてはあるな。……何個か作ってみるか?」

「……そうだな。ケイは土の昇華を砂の操作で狙うって話だったな?」

「おう、そうだぞ」

「それはこれからか? それともアルマースがログインしてからか?」

「あー、それは状況次第で考えてた。……もしかして、俺らが実験台?」

「あぁ、そうだ。それと勘違いがあったとはいえフィールドボスとも戦いたいんだろう?」

「はい! それとLv上げがしたいです!」


 うん、元々それが目的だったしね。……もしこの+1の加算の数値表記がある瘴気石がLvの上がった状態のフィールドボスの発生に関わるのなら、是非とも検証はしていきたいところである。

 その為にも+1以上に数値が増やせるかの検証も必要だし、実際に使ってみる必要もある。これは色々と検証しつつ、Lv上げを狙うチャンスか? 土の昇華は砂がある場所に行けばすぐにでも出来そうだしさ。


「なら、夕方はこれの複数パターンの製作に付き合え。その後、夜からフィールドボスの再出現に使えるのかを検証する」

「よし、乗った! みんな、良いよな?」

「私はそれで良いかな」

「同じく私もです!」

「私も良いよ」

「こりゃ興味深い事になってきたな!」


 桜花さんの言うように、これはかなり重要な状況になってきた。さてと、フィールドボスの再出現の法則を解明する為に頑張ろう!

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