第405話 動き始める計画


 ラックさんの集合の号令によって灰のサファリ同盟のメンバーが一斉に集まってくる。こうやって集合している様子を見てみるとネズミ、リス、イタチといった小動物、オオカミ、クマ、キツネとかの肉食の動物、シカやイノシシとかの草食系動物、大根や人参やイチゴなどの野菜系植物に、チューリップやユリやタンポポとかの草花系植物……あれ、ユリって毒草か……?

 まぁいいや。他にもキノコとかコケとかトカゲやヘビもいるね。そして不動種は柑橘系の人と、桜の人と、杉の人がいるみたいだね。

 うん、多種多様な種族が集まってるけど、基本的に森林深部にいそうな種族が多い。マグロやエビやイカなどもいない訳じゃないみたいだけど、これは基本的に特徴に合ったエリアに分散してるのかな? 他の初期エリアに支部があるとかそういう話もあるみたいだしさ。


 それはともかくとして、ラックさんの集合号令によってそれらの人達がざわめいている。まぁ何かあるって雰囲気なら気にもなるよね。その気持ちはよく分かる


「お、なんだ?」

「何か持ち込みがあったっぽいけど、今度は何すんだ?」

「あ、誰か来てたと思ったら『ビックリ情報箱』か」

「紅焔もいるから、これは大掛かりな何かか?」

「今度は何だー!?」


 うーん、もう完全に定着しちゃってるな、そのあだ名。もういっその事、開き直って共同体の名前をそれにしてやろうか。……うん、みんなから猛反発を受けそうな気もするから流石にやめておこう……。


「はいはい、ちょっと落ち着いてねー! ちょっと雪山に関する情報が複数入ってきて、それに関する提案だよー!」

「お、雪山か」

「そういや冷凍果物の製造の案も上がってたよね」

「それだけじゃ微妙って事で保留だけどな」

「並行して他に何か欲しいよね。流石にここほど安全な場所じゃないしさー」

「このタイミングって事は例の氷結草でも見つかったのか?」

「もしかして氷結草の栽培? でもまだ未知のヤツだけじゃそこまで手間はかけられないしな」

「上手く行くかも分かんないからな」


 氷結草の栽培という事だけでは難色を示していたり、冷凍した果物の製造の案があったりと色々あるようだ。

 あ、なるほど、ラックさんが氷結草の話からカキ氷とかに話題を変えた理由が何となく読めてきた。1つずつだと行動に移すには不充分でも、同時に出来るとなればやりやすくなる可能性は高くなるんだな。


「ふっふっふ、その反応は予測済み! でもこれを見て同じ事が言えるかな!? あ、これの投影お願いね」

「おうよ。って、こりゃまたすげぇのが出たな。『樹洞外投影』!」

「……確かにこりゃすげぇな。『樹洞外投影』!」


 そしてラックさんがその言葉と同時に不動種の杉の人が崖上に向けて、崖下の柑橘の人が崖下に向けて氷結草の群生地のスクショを大々的に表示した。へぇ、こんなスクショの大々的な投影も可能なんだ。これが中継に使ってるスキルなのかもしれないね。

 そしてそれを見た灰のサファリ同盟は個人差はあっても魅入っている。うん、流石にこういう光景を好んでいるサファリ系プレイヤーの集団だ。これはかなり効果ありと見た!


「ラック、これどこだ?」

「……どこかの洞窟? 氷柱とか雪がちらっと映ってるから、雪山か?」

「洞窟の内部って徘徊してる砲撃持ちの凶暴なクマがいたよね?」

「あー、俺らじゃ返り討ちに合うあれな。って事は、あの奥か?」

「この前レナさんに頼んでも見つからなかったよね? あの時はクマは出なかったとか……」

「……興味深い。詳細が知りたいところだな」


 どうやら灰のサファリ同盟としては洞窟の存在は把握してても、細かい調査までは出来ていなかったらしい。レナさんも失敗した痕跡はあったし、正直行きにくい場所ではあるよな。

 でも行く為の必要な条件を整えれば何とか行けるだろう。あ、そういやあの氷砲グマって俺らよりLvは高かったから、灰のサファリ同盟では突破がキツかったのかな。そして出現位置が固定されている訳でもないらしい。


「その場所はケイさん達が見つけてくれました! クマも討伐済み! そしてケイさん達の要望もあって、その光景を守る為にも氷結草の栽培の実験を提案します! そしてカキ氷と、冷凍した果物と、果汁を凍らせる利用法もあるそうなのでこれも並行して行うのはどうかな!?」

「……並行して出来るのならありか? いや、でもクマはどうする?」

「元々雪山に支部を作る計画はあるにはあったんだし、これなら現実味が帯びてきた?」

「俺は賛成! クマを倒したなら、今は出ても残滓じゃね?」

「私も賛成っていうか、そのスクショの場所を見に行きたい! 出来ればクマが残滓のうちに!」

「俺もそれは行きたい!」

「雪山用の2ndもありか」

「クマは本格的にやるなら、オオカミ組に護衛を頼む?」

「いや、流石に常時って訳にもいかんだろ。ヤバそうな時は頼むとしても、ある程度は俺らの中でも強い奴で対応していきながら、場所の独占はしない程度に安定した特訓場を兼ねるというのもありじゃないか?」

「あ、それもいいね」


 それらの言葉に続き、ハイテンションになって盛り上がり始めている灰のサファリ同盟であった。どうやら雪山から持ち帰って来た情報の多くが役に立ったっぽいね。

 この様子なら雪山に灰のサファリ同盟の支部が誕生しそうな雰囲気だけど、そうなるならあの氷結草の群生地の場所を教えても大丈夫そうかな? 栽培するにしても元になる氷結草は必要だろうしね。とはいえ、少し落ち着くまで待った方が良さそうだ。


「とりあえず今はまだログインしてない人もいるし、他のエリアの支部とも検討する必要があるからねー! ログインした人にそれとなく伝えておいてくれるかな?」

「ま、今すぐ決められる話でもないか」

「そだな。実行に移すなら共同体で正式に発足してからか」

「了解でーす!」

「今日は湖の探索もあるしね」

「あ、いっその事、他の群集と共同ってのも良いんじゃないか?」

「うーん、悪くはない? でもそれなら対人戦に興味がない人に限られるね」

「人選に関しては問題ないだろ。対人戦しないけど、強いやつってそれなりにいるしな」

「他の群集との交渉はまた様子を見てからかな。とりあえず提案はしたけど、決定はもうしばらく先ね! スクショの場所については方針が決まってから教えてもらうから、そのつもりで! それじゃ伝達事項は終わり!」


 何だか俺らは置いてけぼりで灰のサファリ同盟で話が進んで、一先ず決定はしばらく後になった。それでもラックさんは俺らの意見は尊重してくれるつもりのようである。そこは感謝しないとね。

 

「よし、雪山で死にまくってちょっと氷属性を得てくるか」

「あ、私も行く!」

「おいおい、気が早くないか?」

「いやいや、反対する奴も少ないだろ? それにカキ氷は普通に食いたい!」

「そだねー。よし、果物発見も頑張ろうかー!」

「まぁ確かに俺も興味はあるけどさ……」

「これ、希望人数多数で困るとかないよね?」

「はっ!? その可能性もある!?」


 どうも見ている限りでは思いっきり乗り気みたいだね。まぁ灰のサファリ同盟に任せると決めた以上は、余計な口出しはしない方がいいんだろう。


「ここまで大々的に灰のサファリ同盟の活動方針の決定の一部を見たのは初めてだけど、思った以上に賑やかかな?」

「確かにこれは凄いね」

「……確かに凄いけど、多分今よりもっと人数いるよな?」

「お、ケイさん大当たり! 各初期エリアに支部もあるし、これでもまだ少ない方だからねー!」


 灰のサファリ同盟は思っている以上に大規模な組織になっているようである。さて、この好意的で前向きに検討されている状態なら、その誠意に対してはちゃんと誠意で返さないと失礼かな。

 それにこれらの事を本格的に実行に移すとなれば、少なからず氷結草そのものが必要になるはず。


「あ、ラックさん、ちょい耳貸して」

「ん? ケイさん、何かな?」

「良いから良いから」

「んー、そういう事ならどうぞー!」


 耳を寄せてきたラックさんに、小声で氷結草の群生地への行き方を伝えていく。公開時期だけはラックさんの判断に任せるとして行き方だけは教えておいた方が良いはずだ。


「……ふむふむ、レナさんが見つけられなかったのはそういう事なんだね。その条件ならうちの飛行持ちのメンバーを中心にして、レナさんやオオカミ組に護衛を頼むか、護衛PTの募集をすればいけるかな」

「おう、それで行けると思うぞ」

「でももう話しちゃっていいの? まだ要望通りになるかは分かんないよ?」

「まぁ元々が俺らのワガママだしな。駄目だったら駄目だったでいいさ」


 本来ならば一部エリアの独占なんてものはマナー違反だから、これらは完全に俺らのワガママだ。駄目だったら残念ではあるけど、無茶を通して好き勝手な振る舞いをする気はない。

 そういう意味では一部に上がっていた他の群集との共同というのも悪い話ではないはず。対戦型のイベント中なら情報に気を遣って貰う必要はあるにしても、共闘型のイベントもあるんだから交流を保つのは決して悪い事でもないしね。


「そっか、それについては了解したよ。少し時間を貰うことにはなるけど、灰のサファリ同盟としても悪い話ではないからね」

「そこは全面的に任せた!」

「ラックさん、お願いかな!」

「お願いね、ラックさん」

「うん、可能な限り頑張ってみるね」


 ラックさんを筆頭に大規模集団になってきている灰のサファリ同盟だけど、何だかんだで頼りになるね。こうやってそれぞれがやりたい事や出来る事を好きな様に楽しんでやっていくのもオンラインゲームの醍醐味だもんな。


「あー、とりあえず話は終わったって事でいいか?」

「あ、紅焔さん、ソラさん、待たせて悪い!」

「いやいや、僕らが付いて行きたいって言ったんだから問題はないさ。色々興味深かったしね」


 内容が内容だったから仕方なかったとはいえ、紅焔さんとソラさんがちょっと蚊帳の外になってしまってたね。うーん、気にしてはいなさそうだけど、少し埋め合わせでもしとくか?


「んー、それならヨッシさん、カキ氷の実演をお願い出来ない? 試食は紅焔さんとソラさんでさ」

「お、良いのか!?」

「こら、紅焔。がっつき過ぎだよ」

「あ、悪い」

「あはは、気にしなくていいよ。実際に作ってみせた方が良さそうな気もするしね」

「そうしてくれると助かるよ。えーと、それじゃ氷結草とカキ氷の試作の対価はどうしよっか?」

「報酬かー。ケイさん、サヤ、何か欲しいものある?」


 サンプルとして採集してきた氷結草とヨッシさんが試作するカキ氷の対価か。今のところすぐに欲しそうなアイテムは特にないから少し悩みどころだね。……ん? いや、そうでもないのか?


「私は特にないかな……?」

「いや、そうでもないぞ。俺は必要ないけど、俺以外のみんなには必要そうなものがある」

「え、何かな!?」

「……ケイさん、そんなのあったっけ?」


 あ、これはサヤもヨッシさんも見落としてる奴だ。まぁ俺自身は問題ないから失念していたけど、これは多分だけど今日の夜に必要になるはず。


「あ、そっか。みんなも今日の湖の探索に来るって話だったし、必要なのは水の小結晶だね?」

「そう、それ! 特性の実でも良いけど、そういやあれってトレードは……?」

「特性の実はトレード無理なんだよね。えーと、みんなで合計何個必要?」

「俺以外の人数分で3時間あればいいだろうな」


 ラックさんは話が早くて助かるね。海なら何もなくても問題なく行けるけど、淡水だとまた別に適応が必要になってくるからな。


「あ、そっか。私達、海水には適応出来るけど今日の夜に行く湖の淡水には適応出来ないかな……」

「そういえばそうだったね。海が大丈夫だから、つい忘れてたよ……」

「あはは。まぁ、そういう事もあるさー! それじゃ3時間、4人分だね」


 そうして手早くラックさんが水の小結晶を用意してくれた。やっぱりサヤもヨッシさんも淡水への適応については完全に抜け落ちていたようである。

 俺はコケが淡水に適応出来ているので、淡水内でも問題なし。地味に俺は水、陸、空、海に適応しているのだよ! 乾燥には弱いけどね!


「ん? 今日の夜に何かあんのか?」

「紅焔、それはあれだよ。まとめに載ってた3群集共同の湖の探索だね」

「あー、そういやそんなのもあったっけ」

「僕は興味あるけど、紅焔は興味なしかい?」

「火属性のドラゴンで湖の中ってのもなー」

「紅焔さん、紅焔さん、湖の水中以外の調査もするからそっちはどう? すごい少ない目撃情報なんだけど樹属性のドラゴンがいるんじゃないかって話もあってね?」

「よし、ソラ! 夜に湖に行くぜ!」

「言い出した僕が言うのもなんだけど、ライルとカステラに相談しなくていいのかい?」

「……それもそうだな。相談した上で決めるか」


 紅焔さんはドラゴンに関しては食いつきが良いな。それにしても樹属性のドラゴンとは、かなり興味が湧いてくる。紅焔さん達はライルさんとカステラさん次第ではあるけど、参加の可能性もあるんだね。


「そうそう、湖の調査に関してなんだけどね? 一応、灰のサファリ同盟とオオカミ組と赤のサファリ同盟とその他の有志で7時半くらいにハイルング高原に集まって出発するんだけど、来れそう?」


 あ、集まって一緒に移動していくのか。でも7時半だと俺らはちょっと無理っぽいな。特に俺とハーレさんがだけど……。


「悪い、ラックさん。多分それよりちょっと遅れそう」

「あらま、そういやケイさんとハーレは7時で一度ログアウトしてたっけ。うん、それなら仕方ないね」

「あ、でもサヤとヨッシさんなら行けるんじゃないか?」

「ケイ、そこは一緒に行くからね?」

「そうそう。都合が合わなくて長時間ログインが出来ないならまだしも、その位は待つよ」

「そっか、それならみんな揃ってから追いかけるか」

「うん、それでいいかな」

「やっぱりそれが良いね」


 サヤもヨッシさんも2人だけ先に行く気は欠片もないらしい。まぁ待っててくれて一緒に行こうという事であれば、その好意は素直に受け取っておこう。


「それじゃケイさん達は後から合流ね。湖までの道は分かる?」

「あ、ごめん。分からない……」

「あらま……。えっと、ハイルング高原を東に抜けて、その先に平原があるから少し南下しつつ東に進んでね。その先が大きな湖になってるから」

「ハイルング高原を東に行って、その先の平原を南寄りに東か。了解っと」


 凄い簡単な説明ではあるけど、大雑把な方向が分かれば何とかなるだろ。それにしても平原って事は色々な地形が混在してるんだろうな。通り抜けるだけにはなるんだろうけど、少し楽しみである。


「あ、それとハイルング高原を抜けたら殆どの敵は未成体だから気をつけてね」

「あー、まぁ大丈夫だろ」

「頑張って切り抜けるかな!」

「そうだね。まぁいざとなれば空を飛んでいくし」

「うーん、飛行系もいるにはいるんだけど、ケイさん達なら大丈夫かな?」


 少し心配そうなラックさんだけど、いざとなればアルを水流で流して吹っ飛ばしながら進んでいくから問題なし! さーて、夜の大きな湖の探索も楽しみになってきたね。

 あ、でもいつの間にやら6時が近くなっていた。サヤと一緒にヨッシさんを手伝いながらカキ氷を作っていってるけど、夕方はそこまでで時間切れになりそうだ。


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