第295話 慣れる為に


 いつもの様にログインすれば、いったんのところへやってきた。今日の胴体部分は……あれ、何も書かれてないけど、白紙とかあるの!?


「なぁ、いったん……」

「あ、この白紙なら少しの間だけだから気にしなくていいよ〜」

「……理由を聞いても?」

「運営の人が更新の為に文章を消した瞬間に、慌ててトイレへ行っております〜。間違えて白紙の状態で反映しちゃったみたいでね〜」

「良いのかよ、それ!?」

「ここの書き換え権限って僕には無いからどうしようもなくてね〜」

「あ、そうなのか……」


 いや、運営の人は大丈夫? というか、いったんのいつもの文字の記載って運営の人の手動更新だったんだな。……まぁ、何かお知らせでもあればいったんが説明してくれるから別に問題もないといえばないけども。

 大体いったんからの告知で足りているから掲示板以外はあんまり見てないけど、公式サイトにも一応イベント情報とかは載ってるしね。必ずここでいったんから聞く事になるし、内容は一緒だけど。


「ところでお知らせって何かある?」

「今のところ、まだ伝えてないお知らせは特にはないかな〜」

「そっか、ならいいや」

「それじゃスクリーンショットの承諾をお願いします〜。あとこれ、今日のログインボーナスね〜」

「ほいよ」


 今日の分のログインボーナスを貰って、スクショの一覧を見ていく。……ふむ、枚数は多いけど昨日のログアウトした時と内容はほぼ同じだね。これは全部許可しておこう。


「全部許可でよろしく」

「はいはい〜。今日も楽しんで来てね〜」

「おうよ」


 さてとここでやる事は終了。今日は時間は沢山あるから前半戦を終わらせるつもりで頑張るぞ!



 ◇ ◇ ◇



 ゲーム内へとやってくれば、快晴の良い天気であった。リアルでは梅雨だから、ゲーム内で晴れていると少し気分が良くなるもんだね。ログアウトした場所は灰のサファリ同盟のとこだったから、そこから開始だな。

 その割には人が居ないような……? 灰のサファリ同盟でみんなが出払うような事がなにかあったのかな。まぁいいや、とりあえずーー


「あっ!? そこの人、危ないー!?」

「……はい?」


 そしてログイン早々、何かの影が太陽を遮っていく。って、崖上からなんか飛んできた!? あ、コケに覆われた岩か、これ。こっち側からの見覚えはないけど、身に覚えはあり過ぎるね。このままいけば方向的に直撃だし、それならば……。


<行動値を3消費して『増殖Lv3』を発動します>  行動値 52/55

<行動値を3消費して『スリップLv3』を発動します>  行動値 49/55


 直撃しそうになった岩をハサミまで増殖させたコケで滑らせて、受け流していく。……まぁこの状況は俺が以前やった事とほぼ同じなんだろうな。


「ほえ!? あ、誰か止めてー!?」


 そして岩を滑らせて軌道を逸らしただけなので止まることなく転がり続け……そうにないな。このままだと昨日のデンキウナギの飼育池に突っ込んでしまう。今日は初めにそれで電気の操作を取得しようかと思ってたんだから、そうはさせん!


<行動値を19消費して『岩の操作Lv3』を発動します>  行動値 30/55


 転がっていく岩を支配下に置いて、静止させていく。咄嗟の事だったから回避を優先したけど、初めからこうすれば良かったかもしれないね。


「へ? 何がどうなったの!?」


 そして周囲を見てみれば灰のサファリ同盟の人達がぞろぞろと集まってくる。あ、岩の滑落で退避してたのか。……灰のサファリ同盟がこの状況を放ったらかしにするとも思えないし、未成体もいるだろうから止められるはず。となれば、この状況はわざとか。


「あはは、流石は元祖のケイさんだね!」

「身に覚えがあり過ぎるからなぁ……。で、なんとなく予想はつくけどラックさん、これは何事?」

「ん? その子、新規のコケのプレイヤーだよ。いやー、コケだし灰の群集の日常を手っ取り早く説明するにはケイさんのあれかなーってね?」

「……え、あれをやったのか?」


 やっぱり新規のコケの人だったっぽい。初めにやらかした俺が言うのもなんだけど、あれを真似しなくても良いと思うんだけどな……。っていうか、あのルートだと崖上の畑が大惨事になってるんじゃ……?


「あ、ちゃんと事前通達はしてるし、畑も無事だからね!」

「準備がよろしい事で……。え、畑はどうやってだ?」

「いやー、実は土の操作で色々やってるもんだから、何人か昇華まで行ってね? こう、畑の前にジャンプ台的な感じで、土を生成してね」

「あー、そういう使い方もありか」


 そういや俺らも池を作った目的は土の操作のレベル上げだったっけ。戦闘以外でもこれだけ色々とやってれば土の操作で昇華に辿り着いてもおかしくはないか。というか、普通に戦闘でやるより上がりそうだ。

 ラックさんとそうして話していると、岩から離れてその辺のコケに移動して新規のコケの人が近付いてきた。久々にコケ単体での移動を見た気がする。……あ、ジェイさんのを見たからそうでもないか。


「あ、あの! よく分からないけど、ありがとうございました!」

「いいよ、いいよ。俺も前に同じ事をやらかしたし」

「え? ザリガニですよね……?」

「あー、背中にコケが生えてるだろ? そっちが本体」

「え!? そうなんですか!?」

「あはは、その辺の要素は追々ねー! それじゃ初心者講座に戻ろうかー!」

「は、はい! それでは失礼します!」


 そしてラックさんを追いかけていく新規のコケの人。うーむ、灰のサファリ同盟の初心者講座は初めて見たけど、これって大丈夫か? ちょっといきなり刺激が強……いや、思い返せば俺の時はもっと手探りだったし、応用スキルも当たり前になってきてるからこのくらいが丁度いいかもしれない……。


「えー、他の群集ではそうでもないらしいけど、灰の群集ではさっきみたいな事が日常的かつ突然に起こるので要注意! あ、やらかしても悪意がなくてちゃんと謝れば怒る人はいないからね」

「……あれが日常?」

「わー、凄いとこに来たみたい」

「あ、ちなみにさっきあっさりと岩を躱した人がコケの人ね。通称『ビックリ情報箱』で、まとめ機能にあるコケの人の専用報告欄ってのはあの人用だよー!」

「え、すご!?」

「……専用欄があるって事にびっくりだよ!?」

「はい、このくらいで驚いてたら神経持たないよー! さて、最低限の注意事項は済んだし、それぞれのやってみたい方向性を聞いて行こうかー!」

「俺は近接やりたい!」

「どっかでトカゲからドラゴンになれるってのを見たから、トカゲを引いたしドラゴンを目指す!」

「コケって何が出来るんですか?」


 今、灰のサファリ同盟で講習を受けている新規の人はコケ、トカゲ、キツネの3人みたいだね。って、ちょっと待った! 俺のあだ名が何故最低限の注意事項に入っているんだ!? これは厳重に抗議しておかないといけない気がする!?


「ケイ、多分真っ当な対応かと思うよ?」

「うお!? サヤ、いつの間に!?」

「あはは、初めからかな? 私が受け止める役目だったんだけど、いつまで経っても転がってこないからさ?」

「サヤも関わってたんかい! 他のみんなは?」

「んー、そろそろ来るんじゃないかな?」

「ん? 別行動なのか?」

「うん、ちょっとハーレからの頼まれ事でアルとヨッシは出掛けてるよ。目的のものは手に入ったって連絡あったから、ハーレはログインしたらすぐに飛んでいったかな」

「ほう?」


 どうやらみんなは俺がログインする前から既にやってたみたいだね。あ、もしかしてハーレさんって俺を起こしに来てあれに遭遇したのか? うーむ、それなら少し悪い事をした気もする。

 いや、でも朝飯食べる前に害虫駆除はしたくないんだよな、気分的に。……変なタイミングで出てきたあれが悪いという事にしておこう。


「あ、ケイさん発見ー!」

「ケイさん、おはよう」

「おう、ケイ! ハーレさんがーー」

「アルさん、それ内緒のやつ!?」

「ほほう、ハーレさん。一体何を企んでいるんだ?」

「あぅ!? なんか警戒された!?」


 アルは小型化したクジラの牽引状態の共生式浮遊滑水移動である。まぁまだアルだけでは森林深部で木の上を飛べないなら、そっちの移動になるか。

 それにしてもハーレさん、俺に知られたくなさそうって感じだけど何をしようとしているんだ? もしかしてさっきの逆襲か!? よし、それなら次は無くなるけどその覚悟は出来ているだろうね?


「ケイさん、ケイさん。逆だから、そんなに警戒しないで大丈夫だよ」

「ヨッシまでー!?」

「ハーレってばケイを起こしに行って帰って来ないから、ログアウトして確認してみたら『調子に乗って怒らせたー!?』ってメッセージで慌ててね?」

「あぅぅ!? なんでみんな言っちゃうの!?」

「いや、渡すにも理由の説明がいるしな。ほらよ、ケイ」

「……ん? なんで、水球?」


 アルが俺の目の前に水球を出して来たと思えば、その中には一般生物の真っ赤なザリガニが1匹入っていた。……え、なんでザリガニ? そりゃこれを捕まえに行くつもりではいたけどさ。


「ハーレ、ここは素直に言っといた方が後が楽だよ?」

「うぅ!? ……さっきはごめんなさい。それと始末もありがと」

「あーなるほどね。……俺もちょっと意地悪が過ぎたな、悪かったよ」


 流石にハーレさんもあれで起こしたのは悪かったと思ったのかもしれないね。まぁ俺は俺で若干やり過ぎた気はするからここはこれでお終いにしておこう。


「それじゃ早速使わせてもらおうかな」

「ザリガニは多少なら地面に置いといて大丈夫だよな?」

「ま、多分大丈夫だろ。アル、よろしく」

「おうよ。折角捕まえて来たんだから逃がすなよ?」

「大丈夫だって。すぐに俺の水で捕獲し直すから」

「ま、それなら心配要らないか」


 アルが水球から解放した後のザリガニを俺の水球で捕獲し直して、デンキウナギの飼育池に放り込めば良いだろう。昨日のザックさん達の様子を見た感じでは一般生物同士では死なないように設定されてるみたいだし、デンキウナギから電気のダメージを与える。

 そしてその後に救出したザリガニに生の魚でも与えれば回復するだろうから、ロブスターでマッチポンプが取れるはず。それで電気の操作が取得出来るのは確認済みである。


「アル!」

「おう!」


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 29/55 : 魔力値 173/176

<行動値を3消費して『水の操作Lv6』を発動します>  行動値 26/55


 発動したままになっていた岩の操作を解除して、魔法産の水球を生成。アルが解除した水球から逃れたザリガニを再度捕獲する。うん、この程度は楽勝だ。水棲の生き物を閉じ込めたところで、これじゃダメージにもならないしね。

 さーて、これから新スキルの取得といこうじゃないか! うーん、電気は欲しかったのは間違いないけど、また育てるものが増えちゃうな。ま、取るだけでも取っておこう。


「ラックさん、ウナギ使わせて貰うぞー!」

「え? ケイさん、ちょっと待ったー!?」

「あれ、なんか駄目だった?」

「えっとね、一応手間がかかってるから飼育用の餌か、進化の軌跡を対価として貰うことにしてるんだよ。ザックさん達への運搬手数料とかもあるからね」

「なるほどね。餌って小魚とかでいい?」

「うん、問題ないよ。あ、でも今ならマッチポンプの取得実演って事でも構わないけど?」

「あー、それもありと言えばありか」


 さっきの新規の人達も興味津々でこっちを見ているし、白い線のある移籍組も興味ありそうにしてるからね。ふむ、小魚なら提供しても問題ないけど、どうせ見られる事になるならそれでもいいか。……見られるのとか結構今更になってきてるしね。


「それじゃ実演で良いよ」

「よし来た! 新規の人達や移籍組でまだ見てない人おいで。マッチポンプの実演やるよ!」


 そして興味津々な様子で周囲に人が集まってきた。まずはザリガニを弱らせるとこからだな。池の上まで水球を移動させて、水球を解除。

 ザリガニはなす術もなく、デンキウナギの飼育されている池へと落ちていく。そしてバチッと音を立てて電撃を受けていた。まぁプレイヤーにはダメージはなさそうな範囲の威力っぽいけど、一般生物にはそこそこの威力があったようだ。死んではいないけど瀕死だね。


<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『同族の命を脅かすモノ』を取得しました>

<増強進化ポイントを3獲得しました>

<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『電気を扱うモノ』を取得しました>

<スキル『電気の操作』を取得しました>

<ケイ2ndが『魔力制御Ⅰ』『電気の操作』により、『電気魔法』を取得しました>


 よし、無事に電気の操作と電気魔法の取得完了。厳密にはコケでは取れてないけど、俺は支配進化だからロブスターで取れていればコケでも使えるから問題なし!

 さてと、狙い的にはこれで充分だから無理にマッチポンプを取る必要もないんだけどどうしようか。……よし、ちょっと試してみるか。


「ラックさん、癒水草を1つ貰っていいか?」

「ん? あれは単体では回復性能は無いよ?」

「ま、単なる思いつき。駄目なら駄目で別に良いし」

「ケイさんがそういう時は何かありそうだしねー! うん、使っていいよ!」

「ありがとな!」


<行動値を3消費して『水の操作Lv6』を発動します>  行動値 23/55


 とりあえずザリガニをデンキウナギの池から救出して、癒水草をハサミで切って確保してくる。さて、合成すれば回復効果を増加させるこの癒水草だけど、俺の勘が当たっていればもしかしたらあのスキルが手に入るかもしれない。まぁ単なる勘だけどね!


 採集した癒水草と小魚を弱ったザリガニの前に置いてみれば、食べ物として認識したのか交互に食べ始めて回復していっている。お、どことなく元気になる速度が早い気がするね。ふむふむ、わざわざ交互に食べるという事は意味があるって事か。


<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『同族の救世主』を取得しました>

<融合進化ポイントを3獲得しました>

<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『活力を与えるモノ』を取得しました>

<スキル『治癒活性』を取得しました>

<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『マッチポンプ』を取得しました>

<スキル『魔力値増加Ⅰ』を取得しました>


 よし、勘が当たった! 性質が似ているから可能性はあると思ったけど、大当たり! ……これが唯一の手段とも思えないし、アイテムを与える事で得られる称号って他にもありそうな気がしてきた。

 水棲に癒水草以外にも同系統のアイテムがあるんじゃないか? ちょっと余裕があれば探してみるのも良いかもしれないね。


「ケイ、どうだったかな?」

「ふっふっふ。『治癒活性』を手に入れた!」

「おいおい、マジか!?」

「わー!? そんな条件あったんだね!?」

「……昨日、勿体無い事しちゃった?」

「ヨッシ、気にしても仕方ないかな」

「ま、それもそうだね」


 とりあえずコケには役には立ちそうにないけど、ロブスターには使い道もあるだろう。持っておいて損はないはず。良い情報が手に入ったし癒水草の価値も上がりそうだ。灰のサファリ同盟のみんなには量産を頑張って貰わないとね。


「あはは、やっぱり新情報が出たね。みんな、ケイさんの場合は高頻度でこういう事があるのが『ビックリ情報箱』の由来だよ」

「……始めたばっかだから、いまいちどう凄いのかが分からない」

「いやいや、この水準の情報を1人で何回も上げてるんだよ!?」

「……なるほど、こりゃ専用の報告欄が必要になる訳だ」

「凄いっぽいんだ?」

「あぁ。たまになら誰にでもあり得るけど、何度もとなるとな」

「へー、そうなんだ」


 移籍組と新規組で反応が全然違うね。ま、その辺は仕方ないのかな。……それにしてもそのあだ名は完全に定着してるんだね。もうそれに関しては諦めよ……。

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