第263話 バラバラの戦い


 みんながバラバラになって赤の群集と共闘を繰り返していき、そこそこ時間が経っていた。連結したPT同士ではフレンドリーファイアの危険性はない。だけどそうでない場合は邪魔になる可能性もあるので適度に離れた場所に連結した3PT毎に分かれて、灰の群集の俺らを中心にして敵を誘導して撃破を行っている。


「よし、こいつはこれで終わり!」


<行動値2と魔力値8消費して『土魔法Lv2:アースバレット』を発動します> 行動値 15/51(上限値使用:2): 魔力値 25/112


 先程から戦っていた黒の暴走種のニワトリに向かって小石の弾を3発撃ち込んでいく。ちょこまか動きまくっていたけど、こいつはこれで終わった。HPが全て無くなったニワトリはポリゴンとなって砕け散っていく。よし、次!


<ケイが成長体・暴走種を討伐しました>

<成長体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>

<ケイ2ndが成長体・暴走種を討伐しました>

<成長体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>


 周囲ではニワトリに巻き付いていた太めのツタが、地面をうねりながら這いずるように逃げていく。まぁ、黒の瘴気強化種は赤の群集人に任せているのでこれは放置。……あれ? ツタってあんな感じだったっけ?


「逃さねぇぞ! 『麻痺毒生成』『噛みつき』!」

「俺もやるよ、フラム兄! 『自己強化』『硬化』『踏みつけ』!」


 木の枝っぽく見えるヘビのフラムが毒を使ってツタに噛みつき、そしてイノシシのアーサーが踏み潰していく。お、HPが無くなったようでこっちもポリゴンになって砕け散っていった。とりあえずこれで戦ってた1つの群れは撃破かな。


<ケイが成長体・瘴気強化種を討伐しました>

<成長体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>

<ケイ2ndが成長体・瘴気強化種を討伐しました>

<成長体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>


 こうやって戦っていると次々と討伐報酬が入ってくる。今ので半覚醒を5体、瘴気強化種に至っては60体くらいは倒しただろうか。

 進化ポイントの獲得が半覚醒の発見と討伐で各種ポイント40と、瘴気強化種で120ポイントずつとなっている。しかもコケとロブスターにそれぞれになので地味にとんでもない量だな。

 これは絶対に何か使い道があるだろ。いくらなんでも自分で使うにしては貰えすぎである。……いったんの言ってた無駄遣いしないようにってのはこれの事か?


 しかし、意外とLvが上がらない。もう少しでLv5に上がりそうではあるけど、中々上がりにくくなっている。PTの連結をしているからか、このエリアは経験値も少なめなのか、1体当たりの経験値は大して多くない。

 調査クエストのエリアは経験値多めと聞いた覚えがあるから、これはPT連結のせいかな? まぁ、結構な大人数で戦っているし、その辺は仕方ないか。


 さて、少し行動値を回復させてから次を倒していこう。みんなも順調に倒して回ってるみたいだし、サクサクと倒さないとね。みんなを見てみれば1番猛威を奮っているのが巨体であるクジラのアルで、その次にサヤだな。お互いに邪魔にならないように距離を離して戦っているので、正確なところはわからないけど。

 そろそろ増援来ないかな? 効率重視で今の状態にしてるけど、いつものメンバーの方が楽しいんだよな。アウェー感が強くて少しやりにくいというのもある。いや、赤の群集は今は味方なんだけどね。


「おう、次の敵を連れてきたぜ」

「……今度は杉の木の移動種か。フラムのつもりで倒すかな」

「なんで俺!?」

「え、八つ当たり」

「そんな内容で即答するな!? さっきのヘビは俺のせいじゃないぞ!?」

「……はい?」

「なんでそこで疑問系なんだよ!?」


 いやだって、さっきのヘビって何の事だ? 苦手生物フィルタを強化する元凶ならさっきからずっと一緒にいるけど、一応それは流した話のはず。それを蒸し返すなら、ここでフラムを仕留めて鬱憤晴らしでも良いんだけど。


「コケのアニキ、さっきの敵は何に見えてたの?」

「え、何って太めのツタ……あ、苦手生物フィルタか」

「ヘビって認識なかったんかい!? ……いや、何でもない」


 なるほど、なんか妙な感じがしていたけどさっきのあれはヘビだったのか。……くそ、毎回識別するには数が多過ぎたから省けばこういう事もあるんだな。よし、フラムのせいで苦手生物フィルタを強に設定して見た目で分からなくなっているから、やっぱりこの杉はフラムのつもりで倒そう。これは正当な八つ当たりだ。


「ちょっと待て! じゃあ何に対する八つ当たりだよ!?」

「何ってPTで来たのにバラバラで動くしかない現状への不満だよ!」

「うっ、それは……」


 とは言っても、その決断を下したのは俺なので文句を言っても仕方ない。……精々フラムに八つ当たりをする程度が限界だ。うーん、やっぱり体制の整ってる青の群集との共闘に行けば良かったかな。……それにしてもオオカミ組とかラーサさん達が遅いね。既に30分くらいは経ってると思うんだけどな。


「おー、凄いことになってんな。お、ケイさん発見!」

「そうですわね、オーウル。……予想以上に凄惨な状態ですが。お待たせいたしましたわよ!」

「サヤはどこにいるかな? おーい、サヤー!?」

「……すまない、待たせたな」

「分かってますわよ! 私達も参戦します!」

「だけど、これはどうしたものか」


 そう思っていれば、増援のラーサさんのPTが辿り着いたらしい。えーと、ラーサさんがクマで、フクロウの人がオーウルさん、バラの人がローズさん、蜜柑の木の人がロックさん、海月さんがなんかスライムっぽい。……もしや、掲示板のスライムの人って海月さん!? いや、同一人物とも限らないけどさ。


 あ、その様子に気付いたサヤがこっちに走ってきて……いや違う。サヤの後ろから追いかけてくるのはでかいクモか!? 1メートルくらいもある少し緑っぽいバカでかいクモは流石にサヤは無理だったらしい。

 サヤはクモが苦手だもんな。初期エリア以外では出るとは聞いていたけど、今日まで常闇の洞窟以外では意外と遭遇してなかったんだよね。……さっき黒の瘴気強化種の中に小さめのは見たけども。


「ケイ、敵を交代してくれないかな!? 未成体が出てきたと思ったらこれでね!?」

「しゃーないか。って、こいつ未成体か!」


 ラーサさん達が辿り着いたかと思えば、とうとう未成体が出現するようになり始めたか。それがいきなりクモとは運が悪いな。……少しは行動値と魔力値は回復したけど、まだ全快には遠いのは仕方ない。


<行動値を3消費して『識別Lv3』を発動します>  行動値 27/51(上限値使用:2)


『風乗りグモ』Lv4

 種族:黒の暴走種

 進化階位:未成体・暴走種

 属性:風

 特性:浮遊、傀儡(寄生)


 風乗りってどういう事だよ!? 行動パターンの想像がいまいち分からない……。いや、そんな事を言ってる場合じゃないか。


「ガストさん、フラム、アーサー、杉の木とクモの敵交換だ!」

「ん? なんでだ、ケイさん?」

「サヤはクモが苦手なんだよ!」

「……なるほど、そういう事か。おい、お前ら! あっちのクモとその寄生してる奴を仕留めるぞ!」

「「「「おう!」」」」


「すみません、負担のある役目を押し付ける形になってしまって……」

「増援も来たから大丈夫だ。水月さん、サヤの方を頼む」

「はい、分かりました」


 敵の入れ替えのすれ違いざまにそんな言葉を水月さんと交わす。黒の瘴気強化種の中にもクモは微妙に混ざってたからな。その辺のフォローは水月さんに任せよう。


「ケイさん! サヤー! 私達はどうすればいい!?」

「とりあえずこいつ仕留めたら、PTの再編するから少し待っててくれ! 余裕がありそうなら、離れたとこの人達に声をかけて集まってもらっててくれ!」

「了解! みんな、行くよ!」

「分かりましたわ!」

「がってん承知!」


 とりあえずこれでラーサさん達は良いだろう。オオカミ組はまだっぽいけど、同じ頃に出発したラーサさん達が辿り着いたという事はもうすぐ来ると考えても良さそうだな。それじゃ俺達はこのクモの始末と行こうか! 


「ガストさん、このクモは飛ぶ可能性があるから気をつけてくれ!」

「了解だ! フラム、足止めいけるか!?」

「そこは未成体のガストの方が良いんじゃね!?」

「いや、半覚醒が未成体って事は寄生している瘴気強化種も未成体の可能性もある。俺はそっちを狙うからな」

「そういやそうなるのか。それならやるけど、効果は期待するなよ!? 『ポイズンプリズン』!」


 まだ成長体のフラムのヘビには荷が重いだろうけど、ここにいる赤の群集の人の中には未成体のプレイヤーが少ないんだから仕方ない。PTをバラバラにしてなければ拘束はヨッシさんに頼みたいとこなんだけどな。まぁ今ある手札でやるだけである。


 一応フラムの毒の拘束魔法で少し動きを鈍らせる事には成功したけど、これはすぐに破られそうだ……。あ、これってもしかしてこのまま倒せば称号利用でのスキルを取り損ねるんじゃないか!? ハーレさんのリスとかサヤは両方で風の操作を取りたがってた気もするし、これは……って気にする必要ないわ!?


 今はPT別なんだから、俺が取りたいのでなければ拘る必要もなかったよ。俺は育てるスキルも多過ぎるし、取得で思いつくものもない。今は無理にこだわる必要もないだろう。よし、気兼ねなく倒せそうだし、サクッと終わらせてしまおうか。

 ま、ずっと水のカーペットの上からだから割と一方的なんだけどね。空中からの攻撃は最高!


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 26/51(上限値使用:2): 魔力値 76/112

<行動値を19消費して『水流の操作Lv3』を発動します>  行動値 7/51(上限値使用:2)


 これでも喰らえ! って、はぁ!? クモの脚の間に水かきみたいなのが出来て、風に乗って凧みたいに飛んでいった。そんなハーレさんのクラゲみたいな事するのかよ。えぇい、水流で叩き落としてやる。


「こりゃ予想外の動きだな。ケイさん、支援するぜ!」

「ガストさん、頼む!」

「色々見せてもらってるし、かなりの無茶もしてもらってるからな。その返礼といこうじゃねぇか。『ウィンドクリエイト』『強風の操作』!」


 そして明らかに普通のウィンドクリエイトの風量とは桁違いの風が吹き荒れ、ガストさんの強風の操作で操られていく。狙いはクモの背後側で、こっちに吹き飛ばしてくるつもりか。


「うお!? 昇華の情報を知ってたから誰かが持ってるとは思ってたけど、ガストさんかよ!?」

「色々骨を折ってくれた礼だよ。だが半覚醒には効果は薄いから、仕留めるのは任せるぜ。ほらよ!」


 そのガストさんが操る強風にバランスを狂わされ、地面へと落下していくクモである。よし、ここで水流を叩きつけて地面に押し潰す! よし、これで身動きは取れなくなったしHPもどんどん減っている。とはいえ、未成体ではHPが多いから削りきれるか怪しいな……。

 こうなればガストさんの風の昇華と合わせて昇華魔法を……いや、流石にそれは無し。切り札中の切り札を使うにはまだ早すぎる。


「おっと、寄生の瘴気強化種が逃げていくな。悪い、ケイさん。俺はあっちを仕留めてくるわ!」

「おうよ!」


 ガストさんは強風の操作で自身も風に乗りながら凄い勢いで飛んでいく。逃げた寄生の瘴気強化種は動きが早かったのでどんな種族か確認する余裕はなかったけど、あっちは任せておいて大丈夫だろう。

 さて、こっちのクモは水流の操作で地面に叩きつけているけど、残りHPはまだ7割以上はある。効果時間中に削りきれるか微妙なとこか。行動値も残りが少な過ぎるし、どうするかな。……よし、ここは時間稼ぎをしてもらおうか。


「フラム、アーサー!」

「どうした、ケイ!?」

「コケのアニキ! 俺達に何か役目がある!?」

「行動値が足りないから、しばらく時間稼ぎ頼むわ」

「分かったよ、コケのアニキ!」

「仕方ねぇか。おい、無理しない程度に全員で抑え込むぞ! 時間を稼げ!」

「「「「「おう!」」」」」


 そしてフラムとアーサーを筆頭に、赤の群集の人達がクモを抑え込みにいった。さてと俺の攻撃は広範囲が多いけど、全部が全部高威力という訳でもない。……スキルを強化してからの取得にしたかったけど、元々結構進化ポイントを溜め込んでいるのでいざという時の為にロブスターの切り札を増やしておくか。


 ロブスターの取得可能スキルを確認して、何が取れるかを確認する。相性的には1撃重視の方がいいだろう。チャージ系の応用スキルにするか。

 よし、この『殴打重衝撃』とやらにしよう。『凝縮破壊Ⅰ』は無しだけど、これだけでも結構な威力になるはず。増強進化ポイント50だけど、まぁ問題ないな。


 手札は増やしたけども、まだ行動値の回復は足りていない。チラッと様子を見てみたけど、赤の群集のみんなは攻撃は捨てて回避に専念することで未成体相手にも時間を稼いでくれている。よし、もう少しくらいなら大丈夫そうだな。一応、スキル内容を確認しておくか。


『殴打重衝撃Lv1』

 特性に打撃を持つ種族の応用攻撃スキル。力を溜め込み強烈な打撃を放つ。

 チャージ系の攻撃で、溜め時間に応じて威力増強。一度使用すれば一定時間は使用不可になる。

 消費行動値はLv×10。Lv上昇により威力上昇と再使用までの時間短縮。


 ん? 物理攻撃系の応用スキルって特性が絡んでくるのか。まぁ斬撃系のスキルが使えないのに、斬撃の応用スキルが取れる訳がないようなもんか。変な仕様でもないだろう。覚えたければまず特性を手に入れろって事だな。


 そしてしばらく回復に専念すれば、行動値も魔力値も全快した。さて一気にケリをつけようか!

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