第185話 2枠目の進化


 Lv10に到達したので、ロブスター用のリスポーン位置設定のスキル『巣穴作成』を取得した。今回はアルのクジラには流石に巣は無理そうである。どっかこの周辺の岩場にでも設置しておこう。……よし、設置完了。サヤも隣にリスポーン位置の設定をしていた。タツノオトシゴは『住処選び』となっているらしい。


「これで準備完了かな? ケイは大丈夫?」

「準備自体は大丈夫だな。後は肝心の進化先だけど……」


 幼生体でそれほど時間をかける気はないから無ければ普通の単純強化の進化をするつもりだけど、どうせなら条件付きの進化先の方が嬉しいんだが……。とにかく、今ある進化先の確認をしよう。


【進化】


 増強進化ポイント 24P 

 融合進化ポイント 21P 

 生存進化ポイント 24P 


《変異進化》

 現在、進化可能の経路は存在しません。


《転生進化》

 『殴りロブスター』

 進化階位:成長体

 進化条件:Lv10、『鋏強打』を取得、増強進化ポイント6、生存進化ポイント4

 ハサミによる殴打能力を重点的に強化したロブスター。通常よりも巨大化したハサミを持ち、攻撃性が高くなっている。


 『強化ロブスター』

 進化階位:成長体

 進化条件:Lv10、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2

 通常のロブスターが全面的に少しずつ強化された姿。無難ではあるが劇的な変化はしていない。


《複合進化》

 現在、進化可能の経路は存在しません。



 変異進化は無しで、転生進化が2種類か。それならこの単純な強化じゃない条件付きの『殴りロブスター』に決定だな。……というか無難ではあるって書かれてる進化はあまり選びたくない。


「よし、標準以外の進化先は出てる! そういやサヤの方はどうなんだ?」

「えっと、候補はあるにはあるかな。でもその前に森林深部へ行って陸地への適応進化をしてこようかと思ってるんだけど、行ってきて良い?」

「あー、死んでのランダムリスポーンか。そういう事なら問題ないぞ」

「ありがと。それじゃ行ってくるね」

「おう、いってらっしゃい」


 死亡での適応進化は幼生体が25回で成長体が50回みたいだから、やるなら成長体に進化する前の方が良いだろう。俺は共生進化時に特性の種を使って『共生適応』で生存可能にする予定だから問題ない。

 サヤは多分、情報ポイントを節約したいというところかな。PTメンバーの一覧を見てみればサヤのHPは0になったり、復活したりを繰り返してる。これが25回済めば陸地適応のタツノオトシゴの誕生だ。


 さてと俺は俺で進化していこうか。すぐ近くにナギの海原へのエリア切り替えもあるから、そっちに行って成長体に殺されてくるかな。操作しているうちにコツを掴んだ尻尾による跳ね方で一気に移動しよう。前が見えない代わりにこの移動は割と早い! どうせまだ暗くて視界が悪いしね!


<『始まりの海原・灰の群集エリア5』から『ナギの海原』に移動しました>


 無事にナギの海原へと到着した。こっちのエリアは割と浅瀬のエリアかな? 夜目がまだないから暗いけど、さっきまでよりはほんの少しだけど暗さはマシ。そしてこっちのエリアには一般生物の魚や海藻がいっぱいいる。森林深部よりも一般生物が多い気もするけど、これはただ単に森林深部ではうまく見つけられてないだけか?

 とりあえずその辺の考察は後回しにして、まずは敵探し……よりはちょっと実験といこう。ウツボには効果があったけど、他の敵にはどの程度の効果があるものか試しておきたい。……切り替えエリア付近では流石に迷惑だろうから、少し距離をとって……よし、このくらい離れたら大丈夫かな。


 あ、そういや競争クエストの勝利での支配エリアではプレイヤーの位置確認が可能なんだっけ。ここのマップを開いて……全体像は全然埋まってないから分からないけど、近場には他のプレイヤーはいない。そこそこ離れた所に灰色の光点が集まっている。なるほど、これは確かに便利だし安全だ。

 それじゃ実験開始! 多分、これに関しては試してる人は結構いるとは思うんだけどね。


<インベントリから『海の小魚』を取り出します>


 さて撒き餌タイムだ。……これ、半分に切ったりしたら匂い拡散していったりしないかな? 何事も実験あるのみ! やってみよう。インベントリから取り出した小魚をハサミで真っ二つにして、その辺に放り投げてみる。大量にやってみたい気もするけど、とりあえず1匹だけでお試しだな。


 少し待てば一般生物の魚が集まってきて、バクバクと食いついている。暗いせいで正確にはどんな生物が集まっているのか分かりにくいけど、撒き餌そのものは効果ありのようだ。黒の暴走種はパッと見た感じじゃ分からない。っていうか、夜目の取得はまだかー! そろそろだと思うんだけど。


<規定の条件を満たしたため、スキル『夜目』を取得しました>


 あ、そう思ってたらちょうど取得が出た。視界も悪いから早速使おう。


<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します>  行動値 19/19 → 18/18(上限値使用:1)


 夜目を発動すれば、一気に視界が良くなった。やっぱり夜の日はこれがないとね。明るく見えるようになった先には色々な種類の魚が群がっている。緑のカーソルばかりだから、黒の暴走種はまだいない……? 擬態持ちでなくてもパッと見で分からないのもいるみたいだから、地味に獲物察知は重要か。

 サヤとか持ってそうだけど、なんで持ってないんだろうね? クマにあれば便利過ぎるから? ハーレさんのリスの危機察知も含めて考えてみたら、食物連鎖とか関係してそうな気はする。ま、とりあえず今は進化の為の敵探しだ。その辺の検証は後にしよう。


<行動値を2消費して『獲物察知Lv2』を発動します>  行動値 16/18(上限値使用:1)


 さて、反応はどうだろう? あ、黒い矢印が俺の方に向かって……って背後か!? くそっ、油断して思いっきり攻撃を食らった。え、っていうか完全に尻尾を食われてるんですけど……。全快していた残りHPが【HP:761/1580】になっているから、今の一撃で半分以上持っていかれた!

 あ、尻尾が無くなってるから動きのバランスが悪い!? 背後に敵がいるというのに! 進化の為とはいえ、敵の姿くらいは確認しておきたい。何とかハサミで這うように向きを変えて、敵の姿を確認してやる。さぁ、どんなやつだ! ロブスターの俺を食ってきたからには捕食系の種族だとは思うけど。


<成長体・暴走種を発見しました>

<成長体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>

<規定条件を満たしましたので、称号『成長体・暴走種の発見』を取得しました>

<増強進化ポイントを3獲得しました>


 そこにいたのは、食い千切った俺の尻尾を飲み込んでいるウツボの姿であった。おいおい、またお前か……。このウツボも残滓化してないってことは、もしかしてウツボって厄介なの? もしくは餌で誘き出さないと出てこない種族とか?


 そういやロブスターの同系統の伊勢エビとウツボって共生関係じゃなかったっけ? ……まぁ普通の生態から外れてくる成長体からはリアルの知識を基準にするのも危険かもしれない。現に思いっきり尻尾を食われて、更に食おうと狙ってきてるしね。

 元々進化の為に死ぬ予定ではあるけど、ただ食われるだけってのも気に入らない。とりあえずまだ使うタイミングのなかったスキルを試してみようか。


<行動値を1消費して『脱皮Lv1』を発動します>  行動値 15/18(上限値使用:1)

<HPを50%回復します> HP 1551/1580

<防御が80%低下します>


 脱皮を使ってみたけど、防御80%減少ってひでぇ!? いや、食われた尻尾は生えてきたけどさ! 元々の防御でも一撃で半分以上持っていかれたのに防御80%減少もしたら、これって攻撃受けたらヤバイんじゃ……? ……なんかウツボが嘲笑ってる気がするけど、気のせいだよな!? うおっ、突っ込んで一気に食う気だ!?


<行動値を2消費して『体当たりLv2』を発動します>  行動値 13/18(上限値使用:1)


 よし、緊急回避は成功! しかし逃してくれる気もないようでウツボも再突進してきた。……いいさ、ここは進化の為に食われてやろう。だけど、次に遭遇した時は俺の経験値にしてくれる!


 防御80%も減っていれば耐えられる訳もなくウツボの餌食となり、俺はポリゴンとなって砕け散っていった。


<複数の進化先が存在します。進化を実行しますか? 進化 / リスポーン>


 死んだ事で進化するか進化せずにリスポーンするかの選択が出てきた。そういや転生進化は初めてだったっけ。転生進化はこういうメッセージになるんだな。とりあえず目的通り進化を選択していこう。


<進化先を選んで下さい。『強化ロブスター』『殴りロブスター』>


 ここで進化先の選択か。予定通り『殴りロブスター』を選択していこう。一応ここでも進化先の条件表示も確認できるみたいだね。予め確認はしてたから必要はないけど、当たり前といえば当たり前の仕様か。


<『殴りロブスター』へと転生進化します。宜しければ了承を選択してください>


 これが進化の最終確認かな? 了承を選べば進化開始になるんだろうし、了承選んで進化開始だ! お、景色が切り替わった……? いや、ここはリスポーン位置に設定した岩場か。このタイミングで位置が変わるんだ。


<増強進化ポイント6、生存進化4ポイントを消費して『ロブスター』が『殴りロブスター』へと進化しました>


 よし、これで成長体への進化は完了。ちょっと進化後の具合を確かめてみよう。自分で分かる範囲ではハサミが明確にゴツくなっている。はさむ目的よりも鈍器に特化したような感じ。色は変わらずかな? 少し動かしてみた感じではサイズは少し大きくなった気もする。


「あ!? ケイさんが進化してきた!?」

「本当だね。ケイさん、こんにちは」

「お、ハーレさんにヨッシさんか。ログインしてきたとこか?」

「そうだよー! さっきは傘の連絡ありがとね!」

「礼ならサヤに言っとけ。サヤから聞いたからこそだしな」

「そういえばサヤは? 先にログインしてたと思うんだけど」

「サヤなら陸地の適応進化をしに森林深部に行ってるぞ」

「あ、そうなんだ。だからここに居なかったんだね」

「サヤは適応進化させてるんだ!? 私もクラゲでしてこようかな!」


 ハーレさんのクラゲもしておいて良い気もする。幼生体ならそう時間はかからないと思うから、そろそろ終わってる頃だとは思うけど。あ、隣のサヤのリスポーン位置にも変化があるから、これは進化してきたか?

 適応進化を終えて戻ってきたサヤのタツノオトシゴの色は青みがかった灰色から薄っすらとした緑色に変わっていた。あれ、土属性で茶色っぽくなるかと思ったけど、思ってたのと色が違うな?


「あ、みんな揃ってたんだ」

「サヤ、おかえりー! 進化はどうだった!?」

「あはは……。やっぱり適応進化って目立つよね」

「そりゃ、ランダムリスポーンしまくる訳だしな」


 森の中でタツノオトシゴが死にまくっていれば、目立って当たり前ではある。まぁ小さいから迷惑にもならないだろうけど。遭遇すれば2枠目の選択肢に増える事も考えればびっくりはしても悪い話でもない。今までは大半が仲間の呼び声での適応進化が主だったから見かけた事はないけども、これからはどんどん増えてくるだろうしね。


「どんな風に適応進化したのかな? あれ、陸地適応って土属性じゃないの?」

「ん? その言い方だと違うのか?」

「あ、違ったね。風属性になってるかな」

「え、マジで?」

「そういえば適応進化した際に『空中浮遊』も取得してたような……?」

「なんか東洋系の竜にでも成長しそうだね! 私のクラゲも風属性にならないかな!?」


 サヤが適応進化後の状態を確かめていけば、何やら俺の適応進化の時とは違った結果になっているようである。

 確かに、タツノオトシゴなら地面を歩くよりは空中を泳ぐ方がイメージ的には合っているような……。……種族によって適応進化の種類は違うのか? もしかしたら種族の大きさの問題?

 これは検証する事が増えた。後で情報共有板で情報が出てないか確認しておかないと。……常闇の洞窟で会ったクラゲの海月さんはもしかしたら風属性での適応進化だったのかもしれない。後でハーレさんにも陸地の適応進化を試してみてもらおうかな?


「サヤー! なんて種族になったの!?」

「種族名は『カゼノオトシゴ』になったよ」

「竜要素がどっか行ったー!?」

「まぁ、うん、そんなもんだろ」


 風属性のタツノオトシゴがカゼノオトシゴと来たか。ヒノノコと同じような感じで特徴は分かりやすい名前で良いんじゃないだろうか。サヤの方の進化も気になるけど、自分の方も確認していこう。

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