第7章 海を楽しもう
第168話 海原と森林深部の違い
「さて、これからどうする?」
「とりあえず散策して地形を把握しておかないかな? もう少しで6時にもなるし」
「そうだね。私もサヤと同意見かな」
「あ、そっか。もうそんな時間なんだね! それじゃ、こっちの群集拠点種のヨシミさんから色々貰ってから6時まで散策だね!」
「途中で晩飯挟むならそれが良さそうだな。地形も把握はしておきたいし、2枠目は晩飯後が良さそうか」
「よし、それじゃその方針で行こう! まずは群集拠点種だ!」
とは言っても、群集拠点種を経由して転移してきたので目の前に群集拠点種はいる。あえて群集拠点種の種族は聞いていなかったけど、これは見事なものだ。うん、素直に凄い。ただ、これが何なのかはいまいち良く分からない。
「この群集拠点種は凄いかな!」
「物凄いデカい海藻だな。海底から海面までずっと伸びてるのか」
「凄いね! 何の海藻なんだろ!?」
「これはジャイアントケルプが元ネタだろうな。へぇ、海の群集拠点種ってのはこうなってんのか」
「ジャイアントケルプ……? アルさん、何それ?」
「簡単に言えば巨大なコンブだな。確かリアルで世界最大の藻類だったはずだ」
「へー! コンブなんだ!?」
アルが元ネタとなる物を知っていたようで簡単に説明してくれた。へー、そんなデカいコンブがリアルで存在してるのか。オフライン版ではここまで壮大な海藻って居なかったけど、オンライン版は作り込みに気合が入っているみたいだ。
目の前に広がるのは、海底から伸びる巨大な海藻である。そしてエン同様に淡い光を放っていて、周辺の他の海藻も同様に光っていた。周辺より浅い場所だが海底の方は少し暗く、その暗い海底も海面付近も平等に照らしている様子もエンとはまた違った感じで神秘的である。ここの群集拠点種も見応えあるな。これは是非とも追憶の実を貰っておかなければ!
『ようこそ、エンの地の人たち。わたしはヨシミ。以後よろしく』
「あ、ヨシミさん、よろしく!」
『わたしの事はヨシミでいい。こっちは色々と新鮮な筈。困ったことがあれば言って』
「あ、それじゃこっちの帰還の実って貰える!?」
『うん、灰の群集なら大丈夫。はい、みんなどうぞ』
ヨシミがそう言うとコンブの茎の辺りからコブのような物が5個ほど生成され始め、それが光りながらある程度の大きさになってから千切れ、俺たちの目の前へとそれぞれ移動してくる。海エリアだとそういう風になるのか。
<『帰還の実:始まりの海原・灰の群集エリア5』を獲得しました>
そしてエンから貰った時と同様に自動でインベントリに入ってきた。どれどれ、詳細を見てみよう。
【帰還の実:始まりの海原・灰の群集エリア5】
所持しているだけで死亡時にリスポーン位置に『始まりの海原・灰の群集エリア5』の『群集拠点種』を選ぶ事が出来る。また通常時、任意に使用して『群集拠点種』へと移動が出来る。
使い捨てで所持制限1個。ただし『群集拠点種』にて再取得が可能。(1日1個まで)
今までのはエンの場所専用だったけど、こっちはヨシミ専用の帰還の実って事だな。うん、これがあればいつでも狙った時にここに来れる訳だ。まぁ経路が確立されて転移も可能になったからそっちで移動すればいいんだろうけど、あって損するものでもないか。
「追憶の実もくださいな!」
『いいよ。はい、どうぞ』
「ありがと!」
そして追憶の実も帰還の実と同様に生成されて、各々のインベントリへと入っていく。これは時間がある時にいったんに使わせてもらおう。終了したイベントのイベント開始時のセリフとかはどっちでもいいけど、群集拠点種の誕生は是非とも見たいからな。ほぼ変わらないだろうけど、一応詳細チェックしていったんの所に送っておこう。
【追憶の実:始まりの海原・灰の群集エリア5】
始まりの海原・灰の群集エリア5にて発生した、終了した過去のイベントの特殊演出の再現映像を見る事が可能になる。
ゲーム内フィールドではなく、ログイン場面にて使用可能。
うん、内容に大差なし。さて使用してログイン場面へと送っておいて、これで完了。
『陸地の人達が来始めたから、ちょっと補助が必要みたい』
周りを見てみれば、陸地のプレイヤー達が次々と転移してきている。そして俺がやらかしたミスと同じで海水で弱ってる虫のプレイヤーや、弱っていく植物系のプレイヤーの姿がチラホラと見受けられる。動物系のプレイヤーは動きにくそうだけど、泳いではいた。……多分テンションが上がって、準備せずに一気に転移してきたんだろうな。人の事は言えないけども……。
『対処してみるから、少し待ってて。グレイ、聞こえる?』
「え、対処出来るんだ!?」
『うん、うん、そう。あるんだね?』
そしてヨシミは誰かと会話する様に相槌を打っている。……グレイって言ってたし、会話相手はグレイか。一体何が起きるんだろうか……? あ、どこからともなく光の球が飛んできてヨシミの中へと吸収されていった。そして脈打つように、ヨシミの放つ光が強くなる。
『うん、今届いた。ありがと。グレイに対処の為のスキルを用意してもらった。私のとこの人達、上手く避けてね? 【エアフィールド】』
「地面から空気が湧き出してるのかな?」
「なんかドーム状になっていってるね!?」
その言葉と共に、ヨシミの根本から少し離れた海底から白い泡のようなものが湧き出してきて、それがどんどんと増えていき、集まって何やらドーム状の物が生成されていく。エアフィールドって名前からしても、あそこは空気の塊か!? その後、ヨシミはある程度の広さになったその場所へと続く様に海藻の一部を伸ばしていった。
「おい、しっかり避けろよ!」
「陸地のプレイヤーが来たらそりゃこうなるか!」
「これって私達が他のエリアに行ったら、逆に海水の水場が出来るのかな?」
「どうなんだろうな? これが一段落ついたら行ってみるか」
「確かに確かめといた方がいいか」
「……これ、あそこの中でログアウトしてた場合どうなるんだ?」
「……ざっと見た感じ海藻系は居ないな?」
「ここなら、いつも誰かいるからその時対処すればいいんじゃない?」
「ヨシミもいるんだから、そのまま放置ってことも無いだろ」
そして海エリアの人達は雑談しながらも、その空気のドームの生成に巻き込まれないようにうまく移動していた。陸地に上がっても多少は大丈夫そうなカニのプレイヤーとかはその場に残っていたりもするけども。そうしているうちに、結構な広さの空気のドームが完成した。
『うん、完成。今来てる陸地の人達はあそこに行って? 大丈夫にしたから』
「……すげぇな、群集拠点種!」
「そうだけど、とりあえず動けてない人達の対処が先かな!?」
「だな。手分けして運んでいくか」
「だね! でもこの光景もびっくりだよ!?」
「まさか、早めに行くとこういう事があるとはびっくりだけどね」
俺も同じ事をやらかしたけど、陸地プレイヤーの転移直後の多数の溺れるプレイヤーが出るとは想像していなかった。……いや、これ演出っぽいのがある以上は運営としてはこの状況を想定した上でわざとだな……。とりあえず海エリアの人達と協力しながら、弱っているプレイヤー達を空気のある場所へと移動させていく。
「ケイさん達、もうこっちに来てたのか」
「お、ソウさんか。そっちはどう?」
「とりあえずこっち側で1回合流予定。他の奴は俺も含めて移動操作制御で海水を使った移動方法があるんだが、シアンの奴だけは巨体過ぎて1人の海水の操作じゃ水が足りなくてな? 元々海水のあるとこだけを埋めるって予定だったんだよ」
「あ、そうなんだ。……移動に制限がかかるのが色物種族の宿命か……?」
俺はコケに依存しすぎた移動方法で制限がかかり、クジラは大き過ぎて海水の操作じゃ水量が足りないのか。クジラが陸地の移動をするには何か浮かぶ手段か、小型化が必須……? イルカの人が何処かに嵌れば小型化は手に入るとは言ってたから、無理という訳ではないね。そしてそこにクジラの人のPTも転移してきた。
「わっ!? これ、何事!?」
「お、シアン、戻ってきたか。丁度いいから手伝え」
「え、手伝うのは良いけど、この状況は何!?」
「全く違う新エリアへの進出時の特殊演出ってとこだろうな。とりあえず弱ってる人達をあっちのドームまで連れてけ」
「少し見ない間になんか出来てる!? うん、とりあえずあそこに連れていけばいいんだね」
「そういう事だ」
戻ってきたら動物系プレイヤーが多数泳いでいて、虫系と植物系のプレイヤーが沈んでいく光景を見れば流石に驚くだろう。森林深部エリアで言えばエンの近くで大量の魚や海藻が水揚げされた状態って感じになるんだろうか……? ……この状況を考えれば有り得そうな光景だな。というか、もしかしたら今頃の森林深部はその状況の真っ最中の可能性もありそう。……ま、そっちは今はいいか。
そしてしばらく海エリアの人達と協力して身動きが取れずに弱って沈んでいくだけの植物系と虫系のプレイヤーをシアンさんが背に乗せて、ドームへと運んでいく。動物系のプレイヤーは自力で泳いで移動している人が大半だった。一部、水の操作で水球移動している草花のプレイヤーとかもいた。海水は駄目でも淡水なら大丈夫なんだろう。
「いきなり溺死の危機とか勘弁してくれ……」
「クジラの人ってか、海エリアの人達、助かった!」
「いやいや、このくらい気にしなくて良いって」
「ってか、向こうは向こうで同じような事になってそうだし」
「……大体の奴が海水の操作を持ってるとはいえ、レベルを上げてない奴は結構いるしな」
『うん、ごめんね。先に下準備をしておくべきだった。これからはここの中に転移するようにしたから』
「いや、こっちの不注意だし良いって」
「まぁなー。ちょっと考えたら分かる話だし、俺らも迂闊すぎた」
『そう言ってもらえると助かる。改めて、ようこそ海へ』
その声に歓声が上がっていく。いきなりドタバタ騒ぎはあったものの、これで本格的に海エリアへとやってこれた訳だ。そうしている間にもドームの中へと新たに転移してくる人達もいる。どういう状況で歓声が上がっているのかよく分からないみたいで首を傾げてはいるけども。そりゃさっきまでの光景を見てなければ、そうなるか。
「そういやこれからケイさん達はどうすんだ?」
「ん? 晩飯休憩までしばらく散策する予定だけど?」
「それなら、俺が案内しようか!?」
「……おいおい、シアン。不安になる事を言うのはやめてくれ……」
「ソウ!? 案内しようって言っただけなのに、なんで!?」
「……よし、それなら俺も同行する。みんな、1回休憩でいいか?」
「僕はいいよ。結構ぶっ続けでやってたからそろそろ休憩したかったしね」
「いいんじゃない? 次は別ルートも埋めに行くんだし、休憩も必要でしょ」
「だな。俺も賛成」
「同じく。まぁシアンには付き添いは必要だろうしな」
なんだろう、海エリアではシアンさんは危険物扱いなのか? まぁ、地形をよく知っている人が案内してくれると言うなら、ありがたい話ではある。この後で海エリアで2枠目を作る予定だし、地形の事前確認はしておきたい。初期エリアのマップは初めから全部埋まってるので、1枠目よりは色々と楽だろうけどね。
「それじゃ、少しの間だけど案内をお願いするよ」
「シアンさん、ソウさん、よろしくね!」
「案内はありがたいね。よろしく、シアンさん、ソウさん」
「こっちこそよろしくね! 俺としてもコケの人のPTとは直接話をしてみたかったんだよ!」
「そうなんだ? まぁ俺もちょっと話してみたかった」
「お、それは嬉しいね! とりあえず、みんな俺の背中に乗って! 移動大変でしょ!?」
「いいのか?」
「いいよ! その方が色々と楽だしね!」
「そういう事なら、お言葉に甘えさせて貰うわ」
「そだね! クジラの背中だー! いやっほー!」
「お邪魔します……はちょっと変かな? お願いします?」
「それじゃクジラ観光便、出発しまーす!」
「……どことなく不安もあるが、まぁ仕方ないか」
みんなでシアンさんの背中の上に乗り、移動していく事になった。アルが背中にしがみつき、みんなはアルの上ではなく、アルを背もたれにする様な感じで位置を調整している。そしてソウさんはどことなく不安そうである。俺としてはクジラの人は前々から気にはなってたからね。折角の機会だし色々と話していこう。
他の陸地のプレイヤー達が若干羨ましそうに見てくるけども、それは知らない。移動したいのならば常闇の洞窟へ行って海属性の進化の軌跡を手に入れてくるか、もしくは適応進化を発生させればいい! さて、海エリアの探索開始だー!
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