第87話 纏属進化


 とりあえず目の前の地下湖の水が、海水か淡水かどうか確かめていこうじゃないか。

 確かクジラの人が前に海流の操作を取得したと情報共有板で言っていた。そして俺自身も進化の過程で無くなった「淡水適応」という淡水と海水を区別しているようなスキルを持っていた事もあった。推測にはなるけど、多分海水だと水の操作を受け付けないんじゃないかと思うんだよな。という事で早速実験。


<行動値を4消費して『水の操作Lv5』を発動します>  行動値 21/25(上限値使用:3)


 ちょっと距離があったけど、気になっていた『視覚延長Ⅰ』を水の操作に反映できないか試したら上手く行った。倍率は水の操作のLvに依存だから5倍までか。結構な距離あるな。

 『視覚延長Ⅰ』は視界で範囲指定する系統のスキルには反映出来るのは良い情報だ。ただし距離が離れれば操作の制御も難しくなるみたいだから、あんまり遠過ぎても使い勝手は悪くなりそうだけど……。まぁそれは仕方ないかな。

 『視覚延長Ⅰ』で水の操作の支配指定も範囲を伸ばして、地下湖に向かって発動する。大きな水の流れは特にないから、普通の水ならこれで操作出来るはずだけど、やっぱり支配可能な範囲は表示されない。間違いなく普通の水ではないな。


 それじゃ、次は増殖で直接水中に行ってみますか! えーと、ちょうど良さそうな場所にコケはないかな? この洞窟内だとコケを探すのにどうしても群体化の指定の赤い表記に頼る必要があるね……。

 群体化以外での移動方法もなんか考えてみた方が良いかもしれない。ここに来て痛感したけど、移動範囲が元々存在するコケに左右され過ぎている。まぁその辺はぼちぼち考えるとして、今は今のことをやろう。


<行動値を3消費して『群体化Lv3』を発動します>  行動値 18/25(上限値使用:3)


 さて、ちょうどいい場所にコケがあればいいけど……。お、湖に近い場所にコケを発見。天井部から壁面沿いに水が滴り落ちている場所って事はあれは淡水か? 場所的には結構良い場所だな。


<行動値を3消費して『群体内移動Lv3』を発動します>  行動値 15/25(上限値使用:3)


 現在地からはちょっと距離があるので、Lv3で移動。さてと、ここから増殖で湖の中へと突っ込んでみようか。


<行動値を1消費して『増殖Lv1』を発動します>  行動値 14/25(上限値使用:3)

<熟練度が規定値に到達したため、スキル『増殖Lv1』が『増殖Lv2』になりました>

<増殖速度が上がりました>


 お、増殖がLvアップか。よしよし、色々と今日は順調だな。さて、増殖したコケが湖へと突入した。これで一体どうなるかな?


<環境不適応の為に、群体数の一部のコケが弱りました>


 環境不適応って事はこれはやっぱり淡水じゃないな。……あ、コウモリ連中が俺に気付いたのか飛び立った……。おい、ちょっと待て、それと同時に地下湖が波立ち始めたのはどういう事だ? なんか地下湖の中から灯りが出てきた……?


<成長体・暴走種を発見しました>

<成長体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>


 水飛沫を上げながら地下湖の中からなんか出てきた!? 陸に上がって来たのは……アンコウ? なんかデカいけど……。いきなり出てくるなよ、びっくりするだろ。というか、陸地を歩くな!? ……とりあえず識別で確認しようか。


<行動値を1消費して『識別Lv1』を発動します>  行動値 13/25(上限値使用:3)


『光灯アンコウ』

 種族:黒の暴走種

 進化階位:成長体・暴走種


 あーはいはい。また成長体だし、その名の通りになんか光ってる訳ですね。この洞窟の中って幼生体はいないのか。って考えてる内に、アンコウがなんか突っ込んで来てるし!? いや、ちょっと待て、アンコウさんよ。その速度は陸地で魚の動く速度じゃないぞ!?


<黒の暴走種、光灯アンコウに捕食されました。群体数が30減少しました> 群体数 870/2500

<生存進化ポイントを1獲得しました>


 おいこら、アンコウがコケを食うのかよ! あーもう、進化が進んできたらもう現実の生物の常識は通じないか! 


<黒の暴走種、闇コウモリに捕食されました。群体数が30減少しました> 群体数 840/2500

<生存進化ポイントを1獲得しました>

<黒の暴走種、闇コウモリに捕食されました。群体数が44減少しました> 群体数 796/2500

<所属ボーナスにより上限回数が一回追加されます。生存進化ポイントを1獲得しました>


 え、ちょっと待って、お前らも食うのかよ!? ……なんか数が減って1匹あたりが大きくなってないか、コウモリ。こうもあっさり食われるとなると、ここって気付かれたらコケでも全然安全圏じゃないな……。


 こうなってしまえば逃げるか戦うかしか残っていない。とりあえず、地下湖に突っ込む直前までいたコケに退避だ。このままじゃ狙われ続けるだけだし。


<行動値を3消費して『群体内移動Lv3』を発動します>  行動値 10/25(上限値使用:3)


 あ、移動したのにアンコウもコウモリもこっち見てるし、近付いて来てるよ。一回気付かれたらこいつらは駄目なのか。逃げに徹しても良いけど、折角だしあれを試してみよう。


<『進化の輝石・樹』を使用して、纏属進化を行います>


 インベントリから取り出して使用した『進化の輝石・樹』が緑と茶の混ざったような光を発して、俺を包み込んでいき、光の膜によって球体状に覆われていく。ほうほう、こんな演出なのか。

 これ、外から見たら卵みたいに見えるんじゃないかな。少しの間を開けて光の膜が霧散していく。これで進化完了かな。


<『水陸コケ』から『水陸コケ・纏樹』へと纏属進化しました>

<『群体化』『群体内移動』『群体化解除』が一時的に使用不可になります>

<『根脚移動』『根の操作』『樹木魔法』が一時スキルとして付与されます>

<群体数がHPへと置き換わります>


 ちょっと待って、纏属進化ってスキル編成が変わるのかよ!? ……よし、重要な時にぶっつけ本番で使わなくて良かったと思おう……。元々予想がつかないって理由で選んだんだから文句を言うのもあれだけど、流石にこの変化は予想外過ぎるわ!


 それにしても何がどう変化した? あ、水面に姿が映ってるからちょうどいいや。あーコケが球体状になっていて、そこから木が生えてるな。木は木だけどなんか苗っぽい。球体のコケの下部からは根がちょろっと出ていて倒れないように支えになっている。……コケが木を纏ったというより、木がコケを纏ったように見えるな。

 まぁ木を纏うコケが想像出来ないからこれは別に良いけど、思った以上に見た目が変わった。なんだっけ、こういうの何処かで見た事がある。あ、そうだ。苔玉とか呼ばれてる観賞用のやつだ。もしくは盆栽から鉢を退けて、鉢の部分を全部コケにした感じ。


 色々検証したいとこだけど敵も複数いる事だし、呑気にしてはいられない。時間をあまり掛けずに状況把握だ。急に姿が変わった俺に警戒して、アンコウとコウモリが距離をとった今のうちに把握しないと。


 付与されたスキルの構成的に、移動には根脚移動を使えって事か。それぞれのスキルLvは……どれもLv3か。Lvだけは引き継ぐようになってるのか? ……いや、たまたま使えなくなったスキルとLvも数も同じだけで元々Lv3での付与の可能性も捨てきれない。HPと群体数は置き換わるってなってたけど、スキルは置き換わるとは表示されなかったしな。

 ……後で氷の進化の輝石を持ってるヨッシさんに確かめてもらう事にしよう。


 ともかくスキル構成が変わるのにはびっくりしたけど、移動方法を変えられるのは朗報だ。さっきも別の移動方法を考えてたとこだしな。ただし、これだと時間制限もあるから他の手段も考えておく必要はありそうだけど。


「ケイさん、何やったのー!? 群体数がいきなりHP表記に変わったよ!?」

「あ、ホントだね。ケイ、何やったのかな?」

「2人とも気になるのは分かるけど、今は邪魔になるんじゃ……?」


 あ、PT組んでるからそっちの表記も一緒に変わったのか。まぁ今まで群体数とかいうのだったのがいきなりHPに変われば気になって当たり前だよな。それにさっき迄なら困っただろうけど、もう敵にはバレてるし喋っても問題ないか。


「敵に見つかって戦闘になってるから、ヨッシさんの心配は大丈夫だぞ」

「えっ! 戦闘中ってそれはそれで大丈夫なの?」

「いやー多分駄目かな。纏属進化したら色々変わり過ぎて戸惑い中……」

「あ、『纏属進化』を使ったんだ。それで変化があったってことかな」


 会話したいとこだけど、悠長な事も言ってられないな。とにかく移動手段が必須だ。群体化が使えない以上は根脚移動を使うしかない! 確かあれって行動値半減ってアルが言ってたよな……。それでもそれしかないし仕方ないか。


<行動値上限を3使用して『根脚移動Lv3』を発動します>  行動値 10/25 → 10/22(上限値使用:6)


 あれ、アルが言ってたのとなんか仕様が違う!? いや、上限値半減よりは遥かに良いけども。とにかくその辺の詳しい事は後回し。コケの塊の中からニュっと太めの根が数本生えてきた。これで歩けって事か。


 うお、闇コウモリが突撃してくる!? 逃げろー! あ、意外と早く走れるぞ、これ。とりあえずコウモリの突撃は回避成功。これは木系じゃなくて草花系の根脚移動に近いのか……? 昨日のボス争奪戦の時に草花のプレイヤーがこんな風に走ってたような……。

 よし、これなら操作感は変わるけど何とかいけそうだ。オフライン板では植物系の操作だってやったんだから、全く始めての操作感ってわけでもない!


「ケイさん、どういう状況ー!?」

「ハーレさん、悪い! やっぱり後で! 余裕ない!」

「うん、分かったよ!」


 流石に進化後の特徴の把握をしながら、戦闘してさらに雑談までする余裕はない。うわっと!? 危ない危ない。またコウモリが突撃してきていた。よし、なんかアンコウが待機状態に入っているのが不気味だけど、コウモリは何とか避けられる範囲内の動きだ。ちょっとこの進化形態への慣らしに付き合ってもらおうか!



 しばらく回避に専念してみて、この纏属進化の特徴は大雑把にだけど掴めた。普通の移動手段があるだけで、回避しつつ行動値の回復が出来るというのはいいな。この進化の利点かもしれない。……むしろ行動値がないと何も出来ないのがコケの欠点と言うべきかしれないけど……。

 ともかく、そろそろ反撃と行こうじゃないか。……そういや今度アルがいる時に試してみようと思ってたけど、もしかしてこの状態なら使えるかもしれないな。ちょっとやってみるか?


<行動値1と魔力値4消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 21/22(上限値使用:6): 魔力値 50/54


 魔法産の水を洞窟の地面にばら撒く。魔法産の水は操作しなければ少ししたら消滅するけど、それには少し猶予がある。だからこそ試してみたかった。そして今は纏属性進化のおかげで樹木魔法が自分で使える。


<行動値2と魔力値8消費して『樹木魔法Lv2:スタブルート』を発動します> 行動値 19/22(上限値使用:6): 魔力値 42/54


 樹木魔法Lv2にも水魔法Lv2と同様に速度指定があったけど、追加速度はなし。そして魔法産の水に重なるように発動する。目論見が上手く行けば……。


<『複合魔法:ルートランス』が発動しました>


 よし、単独による複合魔法の発動成功! 円錐状に絡み合う槍のようになった根が、コウモリ目掛けて地面から猛烈な勢いで迫っていく。よし、直撃だ。HPもそれなりに減った! って、分裂しやがった!? やっぱりこのコウモリは分裂するやつかよ! 広域殲滅が出来る魔法はまだ持ってないぞ……。

 それにしても威力的には複合魔法にして、本家の木のアルのスタブルートと同等くらいか。本家よりは弱く設定されてるっぽいな、これは。


 なんか待機状態になってたアンコウも攻撃の溜めの動作っぽいのに入ってるし、ここはやっぱりまだ無理かな……? とりあえず、死ぬまでは全力で戦ってやるぜ、こんちくしょー!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る