第32話 一人はぐれて……


「はぁー、ありゃ強い。流石は成長体って事か」


 ランダムにリスポーンしたけども、ここはどこら辺だろうか。現在地を確認する為に詳細マップに切り替え、最大表示にする。アル達はマップの比較的上の方、つまり北側に固まって表示されている。そして俺は反対側の下の方、つまり南側の端の方に表示されていた。見事なほど遠距離にリスポーンしてくれやがった。

 あ、死ぬと一定時間の行動値の回復量減少ってなってる。これがデスペナなわけか。そりゃ死ぬのにメリットがあるゲームで死んでも一切のデメリット無しじゃやりたい放題だしな。


「ケイよ、ゲームなのに無駄にカッコつけ過ぎじゃないのか?」

「うぅぅ……、気を遣ってくれたのは嬉しいけど、ケイさん1人で死ぬ事はなかったじゃん!」


 距離が離れていてもPTメンバーの声だけは届く。そしてさっきからアルとハーレさんからのお小言が続いている。いや、折角だし仲間の為に身を張って「俺をおいて先に行け」とかやってみたいじゃん? ゲームだから実際に死ぬ訳じゃないし。


「悪かったってば。折角3人合流したばっかなのに、またバラバラってのも嫌だろ?」

「まぁその気持ちも分からんでもないけど……」

「そりゃそうだけどさ! ねぇ、ヨッシもなんか言ってよ!」

「……ごめん、ハーレ。原因の一端は私にある気がするから何も言えないよ……。ケイさん、ありがとね?」


 あ、やっぱりヨッシさんにもバレるか。サヤはすぐに察したしなぁ。ヨッシさんの昨日の暴走とその後の落胆ぶりを見たらやっぱりまだバラバラになるのは避けたかった。全員のリスポーン位置が決まっていたならあの場でみんなで全滅でも良かったんだけどな。いや、全滅自体は良くないけど。でもポイントも手に入ったし、ランダムでさえなければ積極的に死にに行っても……。


「まぁ、気にすんな! マップ埋めながらそっち戻るって」

「ケイさん、待ってるからねー! 戻ってきたら、あのツチノコにリベンジしよう!」

「そうだね。あのツチノコ、次こそは仕留めるよ!」

「今回は私は何にも出来なかったから、次こそは!」

「って感じで、3人が気合入ってるからぼちぼちレベル上げながら帰ってこいよ」

「気合入ってたのってアルもだからね?」

「だからサヤさん、なんでバラすかね!?」

「他人事みたいに言うからだよ」


 サヤとハーレさんとヨッシさんが気合が入ってたのは口調から分かったけども、アルも気合入ってたのか。情報サポートといっても初見の相手だと情報が全くないからな。アルも何も出来ずに悔しかったのかもしれない。


「あ、そうだ。さっき食べられてリスポーンした事で分かったことあったんだ」

「ほう、それはどんな内容で?」

「ヨッシ、死んでもただでは起きないね! それでどんな内容!?」


 アルとハーレさんが即効で食いついている。見事な入れ食いだ。やっぱりこの2人は新情報が大好きだな。まぁ気になる気持ちもわかるけど。


「はいはい。えっと、『巣作り』でリスポーンの位置設定したじゃない? 実際に死んだら、復活場所はランダムか設定した場所か選べるね。ただし、復活は3回までで3回目に巣が壊れるってさ。そうなったら再設置しないと駄目みたい」

「ふむ、条件付きなのか。という事は、設置回数にも制限あったりするのか?」

「うん、1日1回までだってさ」

「なるほどな。好き勝手に死にまくるってのもやりにくい訳だ」


 『巣作り』系のスキルを手に入れれば1日3回までなら任意の場所で復活出来るけど、それ以上は制限が有るってことだな。それでも任意で選べるのはいいな。


「なぁアル? 死にまくって近くに出るまでランダムリスポーンするのもありか?」

「あー、その手があるか。かなり運任せになるけどありっちゃありだな」

「でもさ、そんなに簡単にケイを死なせる相手いるかな?」

「ん? それなら魚でもいればなんとかなるけど」

「……マップを見た感じ、ケイのいる辺りに水場は見当たらないよ?」

「……え、マジで?」

「埋まってる範囲でだけどね」

「あ、ほんとだ。川はマップの北側に流れてるんだね」

「ケイ、その案は駄目っぽいぞ」

「……そうみたいだなー」


 改めてマップを見直せば、サヤの言う通りに水場らしきものは見当たらない。水が無けりゃ当たり前だが魚はいない。魚以外で俺にダメージを与えたのは今のところはあの火を吐くツチノコだけ。良い案だと思ったのにリスポーンする為に死ねないならばどうしようもない……。そこそここっちの方のマップも埋まっているけど、空白地帯もないわけではない。そこに魚がいる可能性に賭けるか……?


「しゃーないな、情報共有板で聞いてみるか」

「おー頼むわ。俺は一応マップを埋めつつそっちを目指すよ」

「ケイさん、みんなで待ってるからねー!」

「おう、ありがとよ! でもいつ到着するかわかんないから、そっちはそっちで好きにやってて良いぜ」


 俺に合わせてLv上げを一旦中止とかしてもらう必要はない。水の補給が出来ないのが厳しいけど、一応は水で攻撃も出来るからな。後ポイントもそこそこ貯まってるし、後でなんか新しいスキルも見繕うかな。


「そうか。ならこっちはこっちでやっとくわ。で、みんなどうするよ?」

「あ、ごめん。私、そろそろログアウトしないと」

「結構、時間経ってたんだ。私も一回落ちないと駄目かも」

「あ、もうこんな時間なのか。俺はもう少しは大丈夫だけど」

「私もまだ大丈夫かなー!」


 時間を気にしていなかったけど、そろそろ午後6時になろうとしている。早い家ではもう夕食の時間だ。サヤとヨッシさんは一旦ログアウトする必要があるようだ。これはゲームなんだからあくまでもリアル優先。食事はちゃんと取らないとな。我が家は7時頃なのでまだ大丈夫。


「アルはどうすんだ? 1人暮らしって言ってたろ?」

「誰か飯食って戻ってきてから食ってくるわ。ずっとは無理だけど今日中くらいはPT維持しといた方が良いだろ」

「お、それは助かるな」

「そうだね。今日は夜もプレイ出来るから、食べたら戻ってくるよ」


 今日はサヤは用事はなさそうで普通に夜も続きをやるみたいである。サヤと入れ替わりでアルが食事休憩といったところか。全員がログアウトしてしまえばPTは解散になるため、そうならないようにアルが調整してくれるらしい。流石に夜はみんな寝るから明日までPT維持は無理だろうけど。


「私は今日はちょっと夜は無理。ごめんね!」

「別にリアルを優先でいいぞ?」

「そう言ってもらえると助かるよ。今日は色々ありがとね! それじゃまた今度ね!」

「おう、またな、ヨッシさん!」

「ヨッシ、また明日ね」

「またねー!」


 そして何やら用事があるヨッシさんは今日はログアウトしていった。昨日と違い今日はまたねと言うことも出来て良かった。昨日のヨッシさんの落ち込み方は凄かったからな。


「それじゃ私も一旦ログアウトするね」

「おう、また後で!」

「サヤさん、また後でねー!」

「別に急がなくても調整するからのんびりしててもいいぞ」


 そして、サヤもヨッシさんに続いてログアウトしていった。VRゲームはどうやっても食事しながらのプレイとか出来ないからな。食事時にこうなるのも当然といえば当然の流れだ。あまりに飲まず食わずでいればセーフティが働いて強制ログアウトされるようにもなってる。


「さてと、Lv上げもしにくくなったし情報収集と行きますかね」

「おっ!? いいですねぇ、アルさん! 私も見ようっと!」

「お、任せたぞ、2人とも!」

「「任された!」」


 お、息ぴったりな事で。一応流し見できるように情報共有板を表示してから移動開始しますか。


 木    : 情報求む! コケの殺し方!

 クジラ  : えっ!? 木の人、コケの人と喧嘩でもしたの!?

 サル   : 物騒な情報を望んできたね。何があったんだ?

 草花   : コケの殺し方か〜。焼いてみるとか?

 トリ   : 何処に火があるのさ? ここは食べられるべき!

 木    : あ、流石に言い方間違えた。ちなみにその2つ以外で頼むわ。

 シカ   : そういや火といえば、火事があったとか聞いたけど?

 トリ   : え、マジで? それどこ情報?

 シカ   : フレ情報。まぁ割とあっという間に鎮火したみたいだけど。

 木    : あー多分それ、俺のPT絡みだ。というかコケの件もそれ絡み。

 リス   : あれはびっくりしたもんね!

 クジラ  : あれ? 木の人とリスの人ってPT組んだの?

 リス   : 友達の友達がPT組んでて、そのまま一緒にやってた! コケの人、凄かったんだよ!

 オオカミ : ほう? エリア分断されて合流してから色々あったんだな、リスの人。



 相変わらずすぐに脱線してるな。そして、アル、もう少し聞き方何とかならんのか!? いや、聞きたいことは間違っちゃいないけど、その聞き方はないだろう。もしかしてわざとか!?


 オオカミ : まぁいいか。火事がコケの人絡みってどういう事だ?

 木    : 『黒の暴走種』と遭遇した。しかも成長体。

 サル   : なに!? もう成長体が出たのか!?

 シカ   : 幼生体の『黒の暴走種』でも強いって話なのに、それが成長体って……。

 リス   : あ、ちなみに幼生体の方ならPTのみんなで倒したよ! MVPはコケの人!

 トリ   : 色々と気になるので詳細を下さい! 俺は幼生体なら発見したけどガブリと食われたさ! ちなみにネコだった!


 サル   : あーネコ相手にトリじゃなぁ……。ドンマイ!

 リス   : 私達が遭遇した幼生体はフクロウだったよ! 私も食べられかけた!

 クジラ  : 俺は幼生体なら2体倒したよ? というかいつの間にか食ってた。

 トリ   : ……流石はクジラ。スケールが違う……

 オオカミ : クジラの人は楽しめるようになってて何よりだ。それで木の人、成長体の方はどうだった?


 木    : 成長体の方は厄介だぞ。火を吹くツチノコだ。

 シカ   : 火を吹くツチノコ!? なにその新情報の塊!? そんなのいたの!?

 トリ   : オフライン版に欠片もなかったモンスターだね。……それで火事か。

 クジラ  : え、もしかして、そのツチノコと戦ったの?

 リス   : そだよー! あのツチノコ、絶対に倒してやる!

 オオカミ : あー木の人、詳細を頼む。

 木    : 分かった。簡単に言うぞ。PTの1人が不意打ち即死。その後、コケが囮で他のメンバーは離脱。コケだけ単独でランダムリスポーン。それでコケがかなり遠くに行っちまってな。


 草花   : 火で焼くのは駄目ってのは既にそれが原因で死んだからってことでいい?

 木    : あぁ、その理解でいい。食われる方は魚がいたらいけるらしいんだが、リスポーンした位置の近くに水場がなさそうでな。


 オオカミ : なるほど、大体分かった。遠いからもう一回死んでランダムリスポーンし直そうって訳か。コケの人はまだリスポーン任意設定スキルは未取得か? 条件まだわかってないんだっけか?


 木    : まぁそうなるな。ちなみにあれ、Lv10で取得っぽいぜ? そっちも情報あるけど、まずはコケの方が先な。


 クジラ  : まだ情報があるというのか! 流石、コケの人と木の人のコンビ!

 リス   : コケの人凄いよー! 新情報あちこちから拾ってくるし! 私のリア友も凄いけど!


 なんかますます俺は書き込みにくくなってないか? そしてハーレさん、そんなに持ち上げるのはやめて!? なんか身悶えしそうなんだけど!

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