第31話 進化の強さ
ツチノコと相対してしばらく。ヨッシさんとアルは俺たちの集中力を散らさないために会話を控え、俺とサヤとハーレさんはツチノコと睨み合いを続けていた。
「ケイさん、今!」
「おう!」
<インベントリから小川の水を取り出します>
<行動値を4消費して『水の操作Lv3』を発動します> 行動値 8/13(−1)
ハーレさんの合図で、サヤの前面に水の塊を展開する。ツチノコの突撃以外の行動は基本的にはそれほど速くない。この周辺のコケは群体化したのでツチノコの位置自体は割とすぐに分かる。
そうやって俺が位置を特定し、ハーレさんの『危機察知』でタイミングを合わせてサヤへと突撃してきたツチノコの前に水で防壁を作った。しかしそんなものはお構いなしにツチノコは水を貫通し、サヤの腹部へと激突する。
「ってぎりぎりかよ! サヤ、大丈夫か!」
「……なんとかね。でも両手が痺れるかな……」
「威力、とんでもねぇな……」
サヤは今の一撃をなんとか咄嗟に両腕で防御していたようだ。だが、防御の上からでもダメージは通っているようで防御越しでもHPを1割削られていた。
「サヤさん、口開けて」
「ん? こう?」
「ほいっと!」
「あ、果物だね。ありがとう」
ハーレさんは先程採っていた果物とは違う小粒な果物を自分も食べながら、サヤの口元にも小粒の果物を投げ入れていた。果物はHP回復アイテムなので、決して戦闘中にふざけている訳ではない。ちょっと前にみんなが食べてた果物は種が大きかったが、小粒の果物は種ごと食べられるようだ。戦闘中にはこれが向いているだろう。
しかし回復量はそれほど多くはないし、無限にある訳でもない。勝ち目がないのは分かりきってるけれど、他の攻撃手段も探っておきたい。
少しツチノコと戦ってみて分かった事がある。隠密性と瞬発力に優れていて、その速度が強大な威力となっているのだろう。そして突撃という攻撃の性質上、攻撃は直線的である。
かといって傾向が分かれば対応できるかといえばそうでもない。圧倒的に俺達の反応速度も防御力も足りていないのだ。群体化で位置を探った上でハーレさんの『危機察知』を加え、水を緩衝材代わりにして、サヤが防御しても1割は削られるのだ。
「……正直、効くかどうか怪しいけどやるだけやってみるか」
<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します> 行動値 7/13(−1)
<行動値を1消費して『毒生成Lv1』を発動します> 行動値 6/13(−1)
群体化で位置を把握しているツチノコに向かって移動し、毒生成を発動する。毒生成の欠点は核の部分に触れる必要がある事だな。スリップみたいに群体化したコケならどこでも出来ればいいのに……。
それはともかくとして、俺の毒生成にツチノコは気にした素振りは見せたが弱体化した気配は一切ない。くそ、やっぱり不発か。だが、行動パターンには変化があった。
「こいつ、俺に気付いたか!?」
ツチノコに睨まれた気がした。そして飛び上がって、空中で体勢を立て直す。素早く突撃する以外にもこんな挙動が出来るのか!? そしてなにやらツチノコの色が赤っぽくなっていく。
「火を吐くってありなのー!?」
「うわ!? !?」
「ケイ!?」
「あ、くっそ! こっちは『同族同調』が解除されやがった!?」
<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します> 行動値 5/13(−1)
<黒の暴走種、ツチノコに燃やされました。群体数が143減少しました> 群体数 957/1100
<生存進化ポイントを1獲得しました>
まさかツチノコが火を吐いてくるとは思わねぇよ!? 危うく焼かれるとこだったぞ。てか魚に食われた時と同じようにポイントくれるのか。ありがたいけどそれどころじゃない!
アルも周辺の木が燃えた事で『同族同調』が強制解除になったみたいだし、植物系の天敵じゃないのか、こいつ!
<黒の暴走種、ツチノコに燃やされました。群体数が234減少しました> 群体数 723/1100
<生存進化ポイントを1獲得しました>
って、延焼してんじゃねぇか!? やばい、このままじゃ燃え尽きる!? 水だ水!
<インベントリから小川の水を取り出します>
<インベントリから小川の水を取り出します>
<黒の暴走種、ツチノコに燃やされました。群体数が223減少しました> 群体数 500/1100
<所属ボーナスにより上限回数が一回追加されます。生存進化ポイントを1獲得しました>
<インベントリから小川の水を取り出します>
<インベントリから小川の水を取り出します>
<行動値を4消費して『水の操作Lv3』を発動します> 行動値 1/13(−1)
今の操作範囲の限界量である水を1つにまとめて操作してようやく消し止められた。でも群体数は半分以下に減ってしまっている。これじゃ思ったようにツチノコの位置が把握出来ない! 途中で行動値が少し回復してたからぎりぎりなんとか消し止められたけど、もうほぼ行動値が尽きて殆ど動けない。
「ケイ、群体数かなり減ったみたいだけど大丈夫?」
「あー大丈夫じゃないな、元々のコケが減ったら俺の行動範囲狭くなるしな……。あと行動値がほぼ無い……」
「燃費の悪い大技を結構使ってたもんね。それじゃ私が回復までの時間を稼いでくるよ!」
「私も行くよ、サヤさん!」
行動値の消費が多い行動をし過ぎた。ただ、それでも火を吐くという攻撃手段を使わせたのは上出来だろう。オフライン版にはヘビのモンスターはいたが、ツチノコはいなかったし、火を吐くヘビはもっと進化した先のやつだった。少なくとも成長体では見た事はない。
ツチノコは完全に姿を隠すことはなくなった。火を吐く直前の赤い色は元の地味な土気色に戻っていた。そして攻防が再開されていく。
「あぁもう! 全然当てられない!」
「きゃ!」
「ハーレさん!?」
サヤとハーレさんは奮戦していたが、ことごとくサヤの爪による攻撃は躱され、ハーレさんの木の実の投擲は尾で打ち返される始末。そして打ち返された木の実がハーレさんに盛大にぶつかった。HPはかなり危険な域まで減っている。ここらが限界か。
「ハーレさん、サヤ、2人ともアルとヨッシさんのとこまで逃げろ」
「ケイさん!? なんで!?」
「……ケイ?」
折角3人が合流出来たんだ。ここで死んでバラバラになるのはまだ早いだろう。幸い、俺にヘイトを向ける方法はさっき分かった。コケが残っているうちにやれば足止めは俺だけでもなんとかなるだろう。行動値も少しは回復したしな。
「いいから、俺が攻撃したらすぐに逃げろよ?」
「……うん、わかった」
「え!? なんでサヤさん!?」
サヤは俺の意図を察してくれたようだ。頭の上にいるハーレさんを逃げれないように拘束している。なに、これはゲームなんだからそんなに心配する必要はないさ。
全員のリスポーン位置が設定出来た後ならみんなで突撃で全滅しちまってもいいんだけど、今やるとまたランダムでバラバラになるからな。その役目は俺が1人で引き受けよう。
よし、お誂え向きにツチノコが俺の群体化したコケの上に来た。狙うなら今だ。
「今だ! 逃げろ!」
「ケイさん!?」
<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します> 行動値 5/13(−1)
その俺の叫びを合図にサヤは逃げ出した。ちゃんとハーレさんも連れて行ってくれている。さて、ツチノコさんよ。サヤ達は追いかけさせないぜ。俺の相手をしてもらおうか!
<行動値を1消費して『毒生成Lv1』を発動します> 行動値 4/13(−1)
逃げるサヤ達を狙おうとしたツチノコが俺の毒を受け、標的を切り替えてくる。やっぱり毒は効かない上に気に入らないときたか。狙い通りじゃねぇか!
ツチノコは再び火を吐く為か、飛び上がり体勢を整える。さてと、ここからは俺1人の戦場だ。しっかり狙えよ? 俺は簡単には捉えられんぞ?
<行動値を1消費して『一発芸・滑り』を発動します> 行動値 3/13(−1)
サヤ達の逃げた方向とは逆方向に『一発芸・滑り』でツチノコを誘導する。しまった、再登録をし直すのを忘れてた。まぁそれでも充分に動けるだろう。
移動前のコケがツチノコによって焼き尽くされる。ふっ、ツチノコよ。そこにはもう俺はいないぜ。そら、さっさと見つけて追いかけてきやがれ!
そして何度か同じ事を繰り返していく。マップの簡易表示を見ればサヤ達は既に結構離れている。PTメンバーが表示されるのはありがたい。これだけ離れればもう大丈夫だろう。
<行動値を1消費して『一発芸・滑り』を発動します> 行動値 0/13(−1)
「さて、これで正真正銘の手詰まりだ。でも、俺は負けたとは思わんぞ?」
あと回避可能なのは『一発芸・滑り』の登録内の2回分。でも目的は果たしたから充分だ。ツチノコも出し抜かれたのがわかっているのか、虚仮にされるように逃げ回られるのに苛立っているのか、動きが荒々しい。周りはツチノコの吐いた火により、火事で大惨事だ。もう無事なコケ自体も少なくなっている。
ツチノコが火を吐く。移動で逃げる。
ツチノコが火を吐く。移動で逃げる。
ツチノコが火を吐く。もう逃げられない。
コケが火で焼かれていく。
<群体が全滅しました>
<生存進化ポイントを5獲得しました>
<ランダムリスポーンを実行しますか?>
初めて全滅したけど、選択肢が出るのか。リスポーン位置の指定が出来るようになれば、ここで選択できるようになる訳か。まぁ今はここではいを選ぶしかないな。そういや、復活用のアイテムってあるんだろうか?
こうして俺はツチノコに敗れ、初の全滅となった。そのうちリベンジしてやるから覚悟してやがれ!
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