第13話 群集クエスト


 再びログインした俺を待っていたのはいったんだった。くす玉の垂れ幕ではなく、普通の一反木綿のような感じである。初回が特別仕様だっただけか? てか、なんでいったんが出てくるんだ?


「あ、ログインのキャラ選択か?」

「そうだよ〜。あと注意事項だけど、出来るだけ強制ログアウトは避けるようにしてね〜?」


 キャラメイクの時のようにいったんの胴体?部分には『強制ログアウトはエラーの原因になるから出来るだけ避けてぇぇぇええ!!』となにやら切実なメッセージが……。運営の人、なんかトラウマでもあるのだろうか?


「次からは気を付けるよ。そういや強制ログアウトした後にログインしたら何処からスタート?」

「ログアウトになった場所だよ。ログアウト不可の場所以外なら、基本的に自発的でも強制でもスタート位置は変わらないよ〜」


 ほうほう。基本的にそのままの場所って訳か。まぁ拠点も何も無いしそうなるよな。そしてログアウト不可の場所もあると。あ、そうだ。これも聞いておかないと。


「なるほどね。そういやログアウトしたらPTはどうなるんだ?」

「お、もうPT機能使ったの? やるね〜!」

「いいから教えてくれ」

「はいはい〜。えっとね、PTリーダーが解散させるか、メンバー全員がログアウトで自動解散だね」

「そうか、ありがとよ」


 サヤとはPTを組んでいたけど、アルとは組んでいなかったよな。ログアウトする直前の様子だとサヤはもうログアウトしているかもしれないし、PTは解散になっているかもな。


 それにしてもなんだろう? あの掲示板でのやり取りを見たら自然とお礼の言葉が出ていた。AIはAIで大変なんだなと、思わずそんな気持ちになってくる。あの友達と一緒にプレイ出来なかった人の書き込みが強烈過ぎた……。


「……なにさ? その大変そうな人を見る目は?」

「いや、掲示板では大変そうだなって思ってな」

「……掲示板? あれ? 一部ログがない……って閲覧不可!?」

「……」


 そして『あっ!? 教えちゃ駄目!? 折角ロックしたのに、仕事が増えるー!!』と表示される。……これは運営の人が入力してるんじゃなくて、思考がそのまま垂れ流されてるだけなんじゃないだろうか?

 ともかく運営によってあの部分はロックがかけられたらしい。知りたくもなかった裏事情だ。どうもいったんは胴体部分の運営の言葉は認識していないようだ。

 そして、いったんは俺を疑わしげに見つめてくる。やめろ、そんな目で見てくるんじゃない! 俺は悪い事は何もしていない!


「……知らないほうがいい事もあるんじゃないか?」

「……まぁ理由があってこうなってるんだろうけどさ。はぁ、AI使いの荒い運営だなぁ……」

「いったん、頑張れよ」

「うん、ありがとう」


 そんな変なやり取りを経て、俺はキャラ選択でコケを選んでゲームの世界へと移動したのであった。まぁまだコケしか使えないけども。



 ◇ ◇ ◇



 そしてログアウトした鬱蒼と茂った森の中へと戻ってくる。サヤの姿は見えず、アルは変わらず植わっている。


「お、ケイ。戻ったか!」

「おうよ。サヤはやっぱりもうログアウトした?」

「ケイがログアウトしてすぐになー。どうも7時半に両親と出掛ける予定でもう少し前に落ちる予定だったのに、すっかり時間忘れてたらしいぜ」

「なるほどね。次から一緒にやる時は先に予定確認しといてタイマーでもセットしといた方がいいか」

「それが無難だろうな。ゲームも良いけど、リアルを適当にしていいってもんでもないからな」

「そうだな。それはそれとしてちょっと掲示板覗いてきたけど、情報いるか?」

「お! 気が利くじゃねぇか! 是非とも聞かせてくれ!」

「それじゃーー」


 適当に情報を選別しつつ、簡単に掲示板で見た事を話してみる。アルは興味深そうに相槌を打ちながら聞いていた。アルは何気に聞き上手か?


「その感じだと、そのおっかない書き込みはあのハチのプレイヤーの可能性が高そうだな。そりゃ管理用AIが漏らした情報を元に爆走してるなら罰則もなにもないわな……」

「そりゃそうだな。でも、暴走はともかくとしてマップ解放条件を満たしてくれるかも? 情報公開してくれるかわかんないけど」

「……どうも周りが見えなくなるタイプっぽいし、それは期待薄だと思うぜ?」

「……ごもっともで」


 確かにアルの言う通り、思い込みで突っ走るヤツは周りのことを考慮しない。身内にそのタイプが1人いるから身を持って知っている。


「それじゃ、約束してた通り植物系同士の情報交換でもするか!」

「お、待ってました! とりあえず初期スキルのーー」


<規定条件を達成しましたので、群集クエストを開始します>


 いざアルと情報交換を始めようと思ったら、唐突にそんなメッセージが視界に表示された。……群集クエスト?


「群集クエストってなんだ?」

「いや俺も知らねぇ。群集っていうとあれだろ、キャラメイクの時に所属選択であったやつ」

「……それに関わるクエストって事か?」

「まぁ詳細も出てくるだろ。ちょっと待とうぜ」


 細かな事がさっぱりわからないので、俺とアルは続きの情報を待つ事にした。すると目の前に半透明でぼんやりと人型をしている事が分かる程度の幽霊みたいなものが現れた。そして、その存在が語り始める。


『やぁ『灰の群集』の同胞達よ。私は『灰の群集』の長であるグレイだ。新たに得た実体のある身体にはそろそろ馴染んだ頃であろう』


 名前、そのまんまだな。そういや、このゲームそういう設定だった。知的生命体のいない未開の惑星に肉体を持たない精神のみの生命体が宿るというものだ。そしてそれは俺らプレイヤーの事である。要はグレイは俺たち『灰の群集』所属プレイヤーの親玉ってことになる訳だ。


『まだ馴染んでいない者もいるだろうが、まずは聞いてくれ。君たちは新天地に降り立ったがまだまだその地の情報は少なく、孤立している者もいる筈だ。そこでまず地図を作ることに決定した』


 そういう流れか。初期地点がランダムだったのもマップが初期から解放されていないのもこのイベントの為か! もしかして掲示板でいったんの漏らした情報はこのイベントの開始フラグのヒントだったって事になるのか?


『なに、全てを一から作れとは言わないし、既に大まかな情報はこちらで用意した。君たちには現地で見て回り、その情報の精査をして欲しいのだ。範囲は後ほど配布する地図を見てくれ』


 ふむふむ、つまりは歩いてマップ情報を埋めていけと言う事か? 結構大変そうだな。あ、だから個人のクエストじゃなくて群集で行うクエストって事なのか?


『悲しい話だが我らは3つの派閥へと分かれてしまった。私には争う意志はないが『赤の群集』や『青の群集』はそうではないだろう。だからといって全てを渡す訳にはいかない』


 確かに『灰の群集』はどっちつかずの集団って感じの説明だったな。なるほど、3つに群集が分かれているのは同群集の中では協力プレイ、そして他群集との対戦プレイを両方兼ねているという訳だ。なるほど、確かにこれはオフラインでは出来ないな。オンラインだからこそのイベントだろう。


『集まった情報は『灰の群集』では共有する予定だ。そして貢献度の高い者には何か報酬も用意しよう。それでは健闘を祈る!』


 そうしてグレイは姿を消した。ふむふむ、大体の趣旨は理解した。マップの解放条件が変わったのは予想していたけど、大々的なイベントになっているとは思わなかった。群集内では共有って事は植物系モンスターでも利用できるって事になる。やるな、運営!


 あ、でも折角のイベントなのにサヤはログアウトしちまってるか。どのくらい時間がかかるかわからないクエストだけど、開始のときに居合わせられなかったのはちょっと残念だな。


<群集クエスト《地図の作成・灰の群集》が開始されました>

<『未完成の地図・灰の群集』を手に入れました>

<マップ機能が一部解放されました>

<『灰の群集』用、情報共有板が解放されました。ぜひご活用ください>



「なるほど、マップ解放はこう来たか」

「条件は変わってると思ったけど、まさかこんな感じのクエストだとは思わなかったな」

「クエスト開始条件は、ケイから聞いた掲示板の情報を合わせると群集内のプレイヤーの総移動距離とかか?」

「……かもね。って事は暴走ハチって迷惑だけど、地味に貢献度高いのかも。とりあえずマップ開いてみるか」

「そうだな。まだ動けないけど現在地くらいは知っておきたいぜ」


 俺とアルは揃って解放されたマップを表示していく。


<マップを表示します。現在地:始まりの森林深部・灰の群集エリア2>


 マップ表示は大半が薄っすらと輪郭が見える程度で詳細はよく分からないが、これまで通った所と思われる場所は濃い目の灰色で塗り潰されていた。これはエリア中を塗り潰せということか。

 現在地は、マップの上部の端に近い。エリアの中では結構端っこの方にいたんだな。


「始まりの森林深部か。始まりなのに深部なんだ?」

「後についてる灰の群集エリア2ってのも気になるな? エリア2って他にエリア1とかあんのか?」

「海のクジラの人とか居るみたいだし、いくつか始まりの場所があるのかもよ」

「そういやそんな事も言ってたな。それでどう動く?」

「折角のイベントだから参加するつもりだけど、アルを放置ってのも気が引ける……」


 正直言えば、今すぐ飛び出して行きたいが流石にアルを放置してはいけない。


「んーならPT組んでおくか? PTメンバーなら距離を無視して会話出来るってヘルプにあったし、解放された情報共有板とやらを俺が見て有益な情報を探るから、ケイは全力でマップ埋めに行ってくるか?」

「なるほど、そういう手があるのか!」


 これも協力プレイの一環ということなのかもしれない。動ける者は動いてマップを埋め、動けない者はそのサポートをする。そういう事なのだろう。サヤが居ないのが少々残念だけど、ログインしていない時にイベントがあるというのもオンラインゲームだからこそだ。仕方ないと思うしかない。

 すぐに終わるとも思えないし、次に時間が合った時に一緒にやればいいさ。


「ケイ、ここの座標覚えとけよ! ほれ、PT申請!」

「わかってる。よし、承諾!」


<アルマース様の率いるPTが結成されました>


 PT申請を承諾し、アルとPTを結成した。マップにも現在の場所に印を付ける。うん、いくつか任意の場所にマーキングは出来るようだ。PTメンバーのアルは表示されてるけど、他のプレイヤーの表示は無しか。この辺もなんか条件ありそうだな。


「それじゃ行ってくる!」

「おう、行ってこい!」


 さてと目標はとにかくマップ埋め。まずはソロで動くから全力で群体化と群体内移動を使う事になりそうだ。熟練度稼ぎも捗りそうである。よっしゃ、初イベント、頑張るぞ!


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