第130話 何はともあれ、エルフの村が焼かれる法則性について

『巻き込まれている当事者としては非常に遺憾だが、意識集合体とやらの出方が分かったところで抗い続けるしかない、何か手はあるのか?』


『そんな都合の良いものがあったら、妾達も絶滅危惧種になっておらんわ』

『ですです、いて言えば……』


 透かさず、女王の複製体に同意したミアが後部座席より言葉を添え、虎の尾を踏まないように大陸西部の戦線を維持しながら、並行して常識でははかり知れない偽神ぎしんの意向も探るべきと似たような発言を繰り返す。


 立ち塞がる壁は乗り越えるなり、打ち砕いていく主義なので不満が顔に出ていたのか、乗騎の疑似眼球にのみ映る人工精霊は困り顔で銀糸の髪をげた。


『まぁ、この時代にける主役は貴様らだ、好きにするといい。妾の見立てだと猿人ニンゲン族は彼奴等が求めるに近しい、今回の神槌しんついは不要な枝葉を切る剪定せんていに過ぎず、完全に殲滅される事もないだろう』


 必要なことは伝えたとばかりに軽く片手を払い、ふわりと浮かんだまま脚を組み替えると、深いスリットから露出している蠱惑的な太腿に肘を乗せた姿勢で頬杖など突く。


『“魂の盟約” がある限り、千の言辞げんじを交わしても戦いは避けられん。切ないものだな… せめて手心を加えてくれると嬉しい、我らは手加減しないが♪』


 偽神ぎしんの精神干渉を受けるまでもなく、亜空間に浮かぶ “永劫の森” の閉鎖性に病んで闘争へ活路を見出している白エルフの騎士達や、嗜虐趣味を持つ侍女のように奇特な人材も取りそろえていると聞かされて、思わず重い溜息が出た。


 この先も戦場でう以上、余り遠慮するなという暗喩あんゆ含みの諧謔かいぎゃくに呆れていれば、話しの流れで此方こちらが確保した有翼騎にも触れてくる。


 幾度かの戦闘でベルフェゴールに搭載されている自律AI型の魔導核こと、獅子核レグルス・コアの意思を感じた事により、薄々気付いていたが… くだん鹵獲騎ろかくきを自国で運用するのは難しいようだ。


『やはり、“機械仕掛けの魔人マギウス・マキナ” はつかい手を選ぶのか』

『うむ、ラムダ達に義理を立て、沈黙している間は梃子てこでも動かないと思うぞ』


『実際、うんともすんとも言わなかったので記憶領域Memoryを調べている内に、大族長の置き土産を発見したのです!』


 やや誇らしげな声で技術者の例に漏れず、説明好きなミアがしゃべり出して現状に至るまでの経緯や、躯体の状態について懇切丁寧に教えてくれる。


 因みに有翼騎の飛行能力は白鳥核アルビオレ・コアついになっているため、残念ながら異なる魔導核を繋げても、制御できずに墜落するのが関の山らしい。


 弓術にけた琴乃ことのあたりを騎種転向させて、上空から標的を射抜かせる目論見もくろみは儚く水泡に帰してしまった。


『致し方ない、歩行させる程度は可能なのか?』

『ん~、取りあえず、ミラと大破した騎体の魔導核を抜いて接続してみるのです』


 若干、思案しつつも答えてくれたミアに頷いて一区切り付けると、気付かぬ間に姿勢を整えていたファウ・ホムンクルスが改めて言葉を紡ぐ。


白鳥核アルビオレ・コアには妾も居座っているゆえ、双子エルフらの隠れ里に預けて欲しい、向こうにも話があるのでな。あと、これは蛇足だが…… もしかすると、偽神ぎしんに圧倒的な物量戦を仕掛ける余裕など無いのかもしれん』


 “話半分に聞け” と前置きして語られたのは過去と比べて、かなり短い期間で猿人ニンゲン族への侵攻が起きている点であり、戦力の再生産が追いついてない可能性を示唆しさしていた。


 前回の不死族が滅ぼされてから、まだ八百年しか経ってないとうそぶいてくるも、短命な人族の感覚では上手く理解が及ばない。


『栄えた種族ごと根絶するため、膨大な数の異形が必要だったのは想像できても、いささか根拠に乏しい気がするな……』


およそ数千年の間隔で偽神ぎしんの裁きが下ると考えれば、異例なのは理解できよう。更に補足しておくと一つ手前の獣人達も、我らが姿を消して千二百年ほどの短い年月で淘汰されておる』


 その折には権勢を誇った獅子族や黒狼族から、温厚な山羊族まで分けへだてなく狩り殺されて、猿系統の獣人だけが生き残ったという。


 やがて猿人ニンゲン族の原種が生まれると、呪術にひいでた彼らの一部は “肉体があるから死ぬのだ” と悟り、富裕層を中心に霊体もしくは骸骨の姿へ変貌していった。


かたが意識集合体に近いだけあって、不愉快だったのだろうな。軍門に下らなかった不死人達は全て魂魄を砕かれたが、奴らのしぶとい抵抗で妾達も結構な被害を受けたし、手駒に使った異形どもが激減していたのは記憶にある』


『当時、私達の部族も戦禍に巻き込まれて、隠れ里を焼かれたのです』

『…… そうか』


 一瞬だけ、創作物ラノベにありがちな、焼き討ちされて逃げ惑うエルフらを想像するも、即座に打ち消して脱線し掛けた思考を留める。


 “滅びの刻楷きざはし” の保有戦力に関する希望的観測は言われた通り、よもやま話の扱いで心の片隅にしまい込んでおき、様々な情報を与えてくれた女王の複製体に対して、てらうことのない謝意を捧げた。


して恩に着ることもないぞ、地上で暮らす同胞はらからのためだ』


『あぁ、分かっている。共に歩めるよう、精々尽力させて貰おう』

『ふふっ、面白い奴だな、貴様は……』


 屈託なく微笑んだ小さな淑女レディが燐光となってほどけ、虚空にえるとミアの躯体制御で疑似眼球から、自身のに視界が切り替わる。


 身体にまとわり付いた人工筋肉も解除されたので、新鮮な空気を求めて操縦席の外へ出れば、待ちぼうけを喰らったミラが不機嫌そうにたたずんでいた。

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