第115話 昨日の敵は今日の友、反撃の狼煙を上げろ

「ふふっ、準備万端といった感じでしょうか?」


『あぁ、必要な戦力は小型異形含めて想定通りに召喚できた』

『特段の支障が無い以上、後は標的を引き寄せて討つのみ』


 片側で銀髪を結い上げた侍女の問い掛けに同胞はらからの男達が意気込み、左肩うしろの付け根に備えた剣鞘と、腕盾が特徴的な藍白あいじろの騎体をひざまずいた状態から起立させる。


 やや生物的な印象もある “機械人形マキナ” の操縦者らは其々それぞれに自騎のきびすを返し、 巨大ゴーレムに憑依している地精霊ノーム達の指揮を執るべく、二手に別れて東西の大通りを進み出した。


 広場に取り残された“機械仕掛けの魔人マギウス・マキナ” を間近よりあおぎ、そばたたずんでいるシータが相方へ話し掛けようと口を開くも… 透かさず、黙していたラムダの突っ込みを受けてしまう。


『… 微妙に遅い、また嗜虐趣向で時間を潰したな』

「いえ、生き残りがいないように慎重を期しただけです、おおむね」


 蛇足の一言で故意に馬脚を見せ、噓吐きとならずに弁明した喰えない侍女は風の魔法を紡いで、まくれるスカートを押さえながら生じさせた上昇気流アップドラフトに乗り、ふわりと空に舞い上がった。


 さらに連続した気流操作も織り交ぜて、有翼騎の転送時に前以まえもって開放された胸部装甲の内で足場となる一枚へ降り立つと、もう一人の侍女が操縦席から身を乗り出し、おもむろに右手を差し伸べてくる。


「ありがとう御座います」

「どう致しまして… というか、魔導炉を稼働させて欲しい」


 有無を言わさず、内部に引き入れた動力制御のにない手をラムダは後部座席へ追いやり、古代エルフ族が開発した騎体では非常に珍しい複座型の心臓部を任せた。


 血液たるあかい魔導液の循環にともない、活性化した人工筋肉がドレス姿の侍女達にまとわり付き、三位一体の感覚共有が成されていく中で視界は疑似眼球を通したものに切り替わる。


 各部と繋がる神経節経由にて、乗り手の意思を受けたアルビレオは淡い魔力光を一瞬だけ主副四枚の翼からはしらせ、腰元に吊るしたファウ謹製 “魔石破壊のアミュレット” と腰部装甲を打ち鳴らして立ち上がった。


『魔導炉出力60%前後で安定、背部スラスター四基の制御系に異常なし… さて、私達も行きましょうか』


『ん、どさくさにまぎれて狐を狩る。全ては永劫の森に暮らす同胞はらから達の為に……』


 遥かな過去にエルフ種が “滅びの刻楷きざはし” と対峙したおり、共倒れ回避の目的で白エルフを中心とした少数の一派は理解しがたい高次の意識集合体とやらに接触して、子々孫々の精神にも喰い込む “魂の盟約” なるものを受け入れている。


 ほとんどの同輩が駆逐されている以上、その判断は間違いと言えないものの、事が起きれば盟約に従う形で戦場へおもむかざるを得ない事情もあり、“機械仕掛けの魔人マギウス・マキナ” は使い潰した精霊門から離れて都市南門に歩を進めていく。


 なお、中核都市ライフツィヒに収容しきれず、収穫済みの耕作地に駐屯していたリグシア領軍のおよそ二千四百名は一丸となって、大型種の姿がない北門より市内へ突入しようと平野を疾走していた。


「ッ、し、小隊長、これって普通に罠じゃないでしょうか?」

「分からん、したる権限もない俺に言うなッ、非生産的だ!」


「大方、奴らは南側に主力を配置したいんでしょうよ」

「リゼル騎士国とゼファルス領の連中が近くまで来ていますからね」


 つまり、現状をかんがみるに戦死した騎士長ヴァルフと代わって全権を得た旅団長及び、側近の大隊長四名は悪びれもなく “昨日の敵を今日の友” に見立て、一般兵科が太刀打ちできない大型の異形種を丸投げしたと思われる。

 

 その上で自分達は市街地の遮蔽物や狭い路地を駆使して、明らかにサイズ違いな巨躯の怪物を避けつつ、深く浸透して小型種を討滅する腹積もりなのだろう。


 騒動の渦中へ飛び込む行為だが、精霊門より継続して召喚できる戦力には限界もある事を踏まえたなら、帝都にも近しい大都市が内包している万単位の領民を救う手段として悪くない。


「突入後、半個小隊にて散開ッ、各指揮は主副の部隊長が取れ!」

「「「うぉおおぉおぉ――ッ!!」」」


 先陣を切るライフツィヒ出身者の多い旅団第二大隊第一中隊所属の精鋭らは指揮官の激にえ、都市防壁まで逃げてきた人々を押しのけて戦地へ足を踏み入れた。


 ただ、家族や恋人の救援に繋がるため、死闘にのぞむ彼らの士気が旺盛おうせいなのはかく、領内の他都市から集められた後続の兵達に同じ熱量を求めるのは難しい。


頑張らせて貰いますか」

「あくまで一帝国兵の職責を果たすのみ」


 若干、めている者達も国民を見捨てる訳にいかない軍属ゆえ、手早くニ十数名の集団に別れて喧騒の中へ身を投じると、腰元の鞘へ納めた鉄剣を引き抜いて手近な小型異形どもに斬り掛かる。


 なかば捨て鉢の突撃が奏功したのか、個々の戦力でおとるはずの軽装歩兵らは魔獣達をひるませて、反撃の爪牙そうがで死傷者を出しながらも優位に立ち廻り、人に仇為あだなす天敵の数を減らしていった。


 このリグシア領軍が採った強硬策は結果的に大正解と言え、思惑通りに隣国リゼルを含む交渉相手の巨大騎士ナイトウィザード隊が参戦して、大型異形の対処を受け持つことになる。


……………

………

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