第92話 見せて貰おうか、貴国のナイトウィザードの性能とやらを!

『手慣れたものだな』


会敵後、白兵戦に至るまでの過程にいて、様々な魔法を撃ち込まれるのは相手にらず定石じょうせきなので、少なからず実戦を経験した者達は徐々に回避手段を修得している。


完全に躱せないまでも装甲を削らせる程度に留め、各部の損傷を最小限度に抑えており、どの攻撃も致命傷には至らない。


俺も前衛組の皆に倣って、ベルフェゴールの左剛腕を振り抜き、高速で飛翔してきた焔弾を跳ね除ける。


『うぅ、衝撃で痛いのとか、私はちっとも慣れないけどね……』

『悪かったな、次は腕盾を使う』


騎体との感覚共有によるフィードバックを受け、やや恨みがましい声を出したレヴィアに一言添えていれば、唐突に側方から爆音が響き渡った。


『くそッ、盾で受けちまった!!』

『… ディノ君、それは普通だと思うけど』


念話装置越しに届いた声から察する限り、専用兵装の中型盾に複数取り付けられた反応アクティブ装甲アーマーを温存したかったのだろうが、言葉にまったリーゼの指摘は正鵠せいこくを射ている。


本来、転移前の地球でイスラエルが戦車用に開発した “火薬仕込みの装甲” は指向性のある爆発をって、攻撃を相殺する防御手段だ。


(こっちだと、もはや叩き付けている印象しかないけどな……)


本末転倒な光景に口端が緩んだところで、斜め前方に位置するスヴェルF型二番騎が背部バースト機構を噴かせ、残り少ない敵勢との距離を一息にける。


『馬鹿なッ、巨大騎士ナイトウィザードの動きじゃないぞ!』

『ふふっ、貴殿が遅いのです』


外部拡声機で皇統派の騎士と言葉を交えながらも、基本的に猪突猛進いのししな性格のレインは乗騎の腕盾を構えさせて吶喊とっかんし、敵勢の一翼を担うエイドス領所属と思しきグラディウスに体当りをかました。


アインシュタインいわく “質量×速さの二乗” が生み出した衝撃により、咄嗟とっさかざした腕盾ごと弾かれていく敵騎を逃さず、追撃の戦斧ハルバードを薙ぎ払う。


『ぐッ!?』

『ッ、うぁ…』


首筋に喰い込んだ斧刃が頭部を断つ感覚に耐えられる筈も無く、操縦者たる騎士と魔導士が意識を手放した事で、頭の無い敵騎デュラハンは地響きを鳴らして荒地にたおれた。


僅かに遅れて背部バースト機構を軽く噴かせた俺も同型騎に迫り、突き出された西洋式の薙刀グレイブに対してベルフェゴールの上半身を捻って躱しつつ、右掌に把持はじしたサーベルの切っ先で相手の首元を穿うがつ。


『ッ、ぐぅううッ!!』

『大人しく、昏倒していろ』


必要なら一切躊躇ためらわないが、無為むいに殺めるのも本意ではないため、傷口をえぐり広げて疑似眼球に向かう神経節を人工筋肉ごと破壊し、その反動で騎体と繋がる者達を気絶させた。


『貴様ッ!!』


近場にいた敵方の一騎が薙刀グレイブを振りかざして半歩踏み込んでくるも、機先を制して振り抜かれたスヴェルF型一番騎の戦斧ハルバードが横合いから胸部に直撃して、操縦席の付近をぐしゃりと潰していく。


『うぁ… 容赦ないね、ザックスさん』

『いや、俺達が甘すぎるだけだろう』


小さく呟いたレヴィアに応えるかたわら、少し退いて戦況を見渡せば月ヶ瀬兄妹ルナヴァディスのベガルタや、藍髪の騎士が搭乗するガーディアも前線に到達していた。


恐らくは薙刀グレイブが制式兵装であろうニ騎のグラディウスが迎え撃ち、それぞれに鋭い袈裟斬りを放ったのだが……


見切りに長けたロイドは柳生の系譜らしく後の先を取り、斜めに踏み込んで躱しながらもベガルタを独楽こまのように回転させ、きらめかせた刃で無防備な延髄を切断する。


対照的にあらさが残るディノは一度切り結んでから、ガーディアの中型盾で強引に殴り付け、残っていた反応アクティブ装甲アーマーと諸共に胴体を爆散させた。


『はぁっ… もっとスマートにできないの?』

『小言は後にしてくれ、


いつの間に愛称で呼ぶようになったのやら、騎体と人工筋肉を介して一緒に繋がるレヴィアの食指が微かに動いたものの、交戦中なので黙殺して皇統派の徽章きしょうを付けた敵騎の牽制に傾注けいちゅうする。


初手の攻防で五体の主力騎を瞬殺されたエイドス領の騎士達は腰砕けとなり、長柄の武器を騎体に構えさせたまま攻めあぐねていた。


『来ないなら、此方こちらから仕掛けるのみ……』

『ん、そういうの好きだよね、クロード』


『この後にリグシア領の連中も控えているからな』


前衛組を二騎編成に分けて左右の残敵へあてがい、自身は新任騎士の二人が乗るクラウソラスの引率で遅参したゼノス団長と合流して、麾下きかを従えた指揮官用らしきグラディウスの重装型とあいまみえる。


いびつな黒銀の騎体、リゼルの騎士王と見受ける』

相違そういない、貴殿は?』


『エイドス領の騎士長、ベルトラン・ウォルノだ』


名乗りを上げた御仁が自騎の右肩に戦槌を担がせ、左肩に取り付けられた厚い大盾をベルフェゴールに向けた。


皇統派の立場だと騎士国の行為はアイウス帝国への内政干渉に他ならず、言いたい事は多々あるのだろうが、戦場ゆえに飲み込んで刃を交える腹積もりのようだ。


心遣こころづかいに感謝を… 斑目まだらめ蔵人くろうど、推して参る!』

『見せて貰うぞ、貴国の巨大騎士ナイトウィザードの性能とやらをッ!』


えると同時に地を蹴った重装騎は上質な人工筋肉だけ選別して組まれているのか、又は操縦者の騎体同調率が非常に高いのか、体躯に似合わない想定外の加速を見せる。


中途半端に躱そうとして弾き飛ばされるよりも、真っ向から受け止めた方が損害は少ないと瞬断した俺は騎体右腕のアームシールドを構え、重心が低くなるように腰を落とさせた。

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