第16話 三位一体、一蓮托生

 ともあれ、一度決まってしまえば物事は動き出し、各々がやるべき事に取り組んでしまうため、イザナをお忍びで街へ連れ出せとは言い難くなってしまう。


「次の機会にした方が良いのかしら?」

「大破したクラウソラスの五番騎とか、本格的な修理が必要だからね……」


「私と兄様の二番騎もです」

「「ひぅッ!?」」


 のぞき見の最中、突如背後から掛けられた声にレヴィア達が振り向いた先、廊下へ差し込む陽光に輝く銀糸の髪を垂らし、小首を傾げたエレイアがたたずんでいた。


「お姉様方、一体何をなされているのですか?」


「え、えっと……」

「謁見の間から義父の笑い声がしましたので、少し気になったのです」


 しれっと受け流したフィーネに向き合い、胡乱うろんな視線を向けつつも銀髪碧眼の娘は用件を済ませる。


「ジャックス班長が修理上がりのK型をクロード王用に再調整するそうです」


「という事はレヴィアが必要なのですね」

「ん~、私が現状のままクロードとペアで良いのかなぁ」


 どこかでイザナに申し訳なく思い、赤毛の魔導士が表情を曇らせたところで、背後から聞き慣れてきた当人の声が届く。




「…… お前以外と組む気は毛頭ないんだが、他の魔導士とも組んだ方が良いのか」


 謁見の間付近の廊下で話し込んでいたレヴィアに声を掛けながら、俺は無造作に伸ばした手で柔らかい赤毛を撫で付けた。


「あぅ~、でもK型は “光の矢” が “いんすとーる” されてるから、魔法適性のあるリーゼさんと乗った方が調整は簡単になるかも?」


「おいおい、勘弁してくれ……」


 それだと再びディノから相棒を奪ってしまう事になるだろうと溜息しつつ、発音が多少おかしくとも聞き覚えがある“インストール”という言葉に反応し、隣のゼノス団長へ視線を向ける。


因果の涯地球から来た稀人まれびと技師どもが使う専門用語だ。寧ろ陛下の方が知っているんじゃないのか?」


「既知の意味合いと同じか確認したい、説明を頼む」

「まぁ、それなら……」


 軽く頭を掻いた団長殿の説明は当たらずも遠からずで、騎体に魔法を組み込む事をインストールと女狐殿が称し、それがゼファルス領に集められた稀人まれびとの技師達に浸透して定着したらしい。


(まぁ、分からんでもない話だな)


 それよりも余り意識して無かったが、第一世代の騎体クラウソラスに組み込める魔法は一つだけで、出力調整はできても二つ目の魔法が搭載できないようだ。


「因みにレヴィア、俺達の騎体に搭載されていたのは?」

「えっと、範囲攻撃を優先した“エアバレット・バースト”だよ!」


「私と兄様の騎体は見たでしょうけど、単体制圧特化の“ライトニング”です」

「L型はフィーネの得意魔法“ストーンヘンジ”だ」


 気軽に応えてくれた皆に確認した限りでは騎体と魔導士に密接な関係があり、専属騎士はほど縛られた印象では無いものの、実際は魔法と剣技の複合的な要因で戦闘様式が定まってしまう。


(三位一体、一蓮托生か…… っと)


 やや思考に意識を割いていたら、いつもの如く控え目に騎士用軍服の袖を引かれ、上目遣いのレヴィアと視線が絡む。


「で、K型の件はどうするの?」

「ふむ、今回は使つもりだ」


 国防の必要性から全六騎のクラウソラスを含む戦力の内、ゼファルス領まで引き連れていく騎体や随伴兵は半数以下に制限するつもりだ。


 その事から省みて道中の危険を避けるため、無駄に目立つ装飾が施された王専用騎を持ち出したくは無い。なるべく、こっそりと出掛けて速やかに帰還するのが最良だろう。


「大体、陛下の考えている事は分かるが…… もはやK型は用済みか」

「あぁ、向こうで第二世代の騎体を俺達用に調整してもらうからな」


「ならばクロード王、他の騎士が乗れるようL型仕様にでも改修するか?」

「残念ながら、貴重な戦力を遊ばせておく余裕など我が国には無い」


 少々話し込んでいる間に、いつのまにかゼファルス領訪問に関する事前相談を終えたライゼス達も近くに来ており、此方に合わせて自然な形で話を切り出してきた。


「そうして欲しいが…… 書類上の裁可は必要か、ブレイズ?」


「通常の騎体なら騎士団長の権限で十分だが…… 王専用騎は必要だな、直ぐに文官に用意させよう」


 二つ返事で了承した魔術師長殿が立ち去ってから暫く後、此方もフィーネ達との雑談を終え、レヴィアや団長殿と共に騎体の整備工房へ歩を進めていく。


 なお、駐騎場奥に作られた煉瓦造りの工房は内部が吹き抜けとなっており、同時に二騎までの収納が可能だが……


「いずれ機体が増えるなら拡張が必要かもな」


「う~、でも土地が無いよ、クロード」

「此処を確保する時も、城務めの連中に移り住んでもらったんだぞ」


 当然、後発的な存在である巨大騎士を想定して王都の街づくりがされている訳でなく、これ以上の工房拡張は難しいのだろう。


「妥当な案だと郊外に施設を造るかだな……」

「あ、それお父さんも言ってたよぅ」


 既に代替だいたい案があるとするなら、ブレイズに任せれば良いかと判断して格納された巨大騎士、クラウソラスK型を仰ぐ。


 視線の先では補修済みの胸部装甲が大きく開かれ、操縦席が取り外されて背部排熱機関と直結した心臓部、及び埋め込まれた魔導核が剥き出しになっていた。



騎体情報:クラウソラス


ずんぐりとした全高16m程の第一世代に属する巨大騎士であり、指揮官用のL型・貴人用に装甲を厚くしたK型が存在する。主兵装は重厚な鉄剣だが、精霊門破壊に際して、爆薬を仕込んだ破砕兵装“雷槍”がニーナ・ヴァレルより供与された。また、火・風・土・水の基本四元素に加え、カスタマイズすれば光・闇・雷・無などの属性魔法もインストール可能だ。


現在、開発国であるアイウスと同盟諸国に普及している騎体がこれに当たる。



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