第18章「迫り来る選択」その4


この状況が惨めで惨めで仕方がなかった。


しかし、家に帰って勉強するわけでもない。


何も打ち込めないなら、ここにいることで役目を果たせるかのしれない。


それなら惨めでもここで勉強している方がよっぽど意味はあるはずだ。


でも三人に比べてペンの進む音が明らかに遅いし、


僕がペンを置いて問題の解き方を考えている間にも、三人は軽快にペンを動かして、ノートが黒鉛で埋まっていく。


鹿鹿


数式や記号を見る度に、僕の将来で絶対に使わないことは分かる。


まだ二問しか解けていない数学の問題集とノートを閉じて、世界史の教科書を開いた。


別に歴史が好きってわけじゃないけど、横山先生の影響なのか、


人がどうしてこういう道を辿たどったのか、それが気になる。


人の行動の連続体が歴史だ、今そんなことを思いついた。


「羽塚くん」


平木は問題集を見てペンを動かしているのに、僕の様子がわかるようだ。


「ん、どうした?」


「数学から逃げるのは止めなさい。理系に行くには数学が必要なのよ」


「僕が理系に行くっていつか言ったか?」


「理系の方が就職の時に有利になるし、将来の選択肢も増えるのよ」


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