第18章「迫り来る選択」その3


こんなことを言えば、おそらく女性陣に怒られるだろうな。


「あ~、そろそろ勉強始めた方がいいかもね」


西山はそう言うと、鞄から数学Aの問題集とノートを取り出した。


「羽塚くんも勉強する?」


「あ~、僕はいいや」


ここで教科書とノートを開いて、勉強しても恥をかくだけじゃないか。


平木はパンと本を閉じて、僕と西山の会話をさえぎった。


「羽塚くん、強がるのはやめなさい。


本当は勉強しなきゃと思っているのに女子三人に負けている事実を受け入れたくないという、


あなたのプライドが邪魔して勉強しないのは分かってるのよ」


こいつは僕専用のエスパーなのか。


結局、僕はその日、平木、西山、東海あずみの三人に教わりながら、テストの勉強をした。


正直これだけ女の子に囲まれれば、楽しいものだと思っていたけど、


自分よりも頭のいい人間に囲まれるのは、妙な気持ち悪さを感じる。


特に何の特技もない高校生にとって、勉強くらいしか自分の価値を示せる方法がない。


特に男となれば、就職をして一生働かなきゃいけない。


だから学校の勉強ができなければ、この先良い就職先に就くことさえできない。


なのに女の子に成績で負けることは自分が無能であることを突きつけられているようで、


僕の中にある劣等感が今にも暴れ出しそうな気分になった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る