第14章「予定外の予定」その2



でも分からないままにするのも怖い。


目を瞑り、手を枕代わりにして机に頭を伏せた。


ああ、何だか眠くなってきた。


九月になって夏服が肌寒くなってきたように感じる。


窓の外を見ると、隣のクラスの連中がグラウンドのトラックをぐるぐる、


蟻の大群のように人と人が連なって走っている。


やはり動いているだけあって暑そうだ、みんな汗をぬぐっている。


彼らは「悩み部屋」のことなんて知る由もないんだろうなぁ。


それなら、僕はこの世界の秘密を知っている、「真実」を知っている人間なのか。


じゃあ、彼らは世界の秘密を知らない、「偽物」の中で生きる哀れな人たちなのか?


でも待てよ、「悩み部屋」を知っている人間は僕が知っている限り、平木と西山と僕の三人だけだ。


「僕が知っている限り」?


だとしたら知らないところで今この瞬間にも「悩み部屋」を作り出している人が存在するかもしれない。


そして一生そこに閉じ込められている可能性もある。


あるいは僕以外の誰かを頼って脱出を試みているのかもしれない。


つまり誰が「悩み部屋」のことを知っているのか、知っていないのか、分からない状態ということだ。


それなら僕が思い悩む必要はないのか?


僕以外にも存在を知っている人が大勢いるのなら、僕以外の誰かが彼女たちを助けてくれるのだろう。


この世界の秘密も解き明かしてくれるはずだ。


あいにく他人を助けるほどの立派な人格や志はこの十五年間で身に付けられなかったもんでね。


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