第13章「空いた学び」その2


九月一日、僕は一ヶ月半ぶりに朝のホームルームを受けていた。


久々に座った最後列の窓際の席は何だかしっくりこないが、教師から離れている分、まだ夏休み気分を味わえた。


秋山先生は壇上で話をしていた。


「みんな、久しぶり。充実した夏休みを送れたか?


まぁ、それはともかく秋学期は忙しくなるぞ。


一ヶ月後には文化祭、中間テスト、球技大会、イベントが盛りたくさんだ」


さっきまで緊張感のあった雰囲気が


「文化祭」や「球技大会」といったワードが出てきて、少し和らいだように感じる。


秋山先生が教壇から去り、束の間もしないうちに一限目が始まった。


数学Aだった。


関原先生が数学を己の個展を開いた芸術家のように、話すそぶりをしている。


僕は外の景色を見ていた。


いつもなら右隣の席ばかり気にしているのに、


花火大会以来、僕らの間には言葉をつっかえさせる、壁のようなものが生まれた気がする。


怠惰も通り過ぎれば、何だか虚しくなってくる。


話しかけることができなかった。


受話器がない電話機のように、


僕の右隣には平木という少女の存在が見えるだけで、話しかけることができなかった。

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