第11章「確かな憩い」その16
すると、脇腹に鈍い痛みを覚えた。
同時に一昨日、この痛みを味わった記憶があることがわかった。
うすろに見た景色には細く白い足があった。
おそらく、いや十中八九、僕の妹だ。
「こんなとこで寝ないでよ」
彩はいつもの半袖短パンに、なぜかエプロンをつけていた。
テレビを見ると、十九時だった。四時間くらい寝ていたのか。
「晩御飯できてるよ」
この台詞だけ聞いたら、萌えるのだが。
それと、寝ぼけているせいで反応が遅れたが、僕は驚いた。
羽塚家の食事はいつも母が作っており、
他の者が干渉したことは僕の記憶が正しい限りなかった。
キッチンテーブルを見ると、
二つの皿にハンバーグ、ポテトサラダ、コールスローが並べられている。
匂いから察するに、母の作り方をそのまま真似たようなレシピだ。
「お前が作ったのか?」
「そうだよ。いらないなら、取り上げるけど」
そっぽを向いて、僕の白米をお椀によそってくれた。
なんだよ。普段、横暴なくせにこんな一面があったとは。
こっちまで恥ずかしくなる。
炊き立てのご飯は熱すぎたけど、急いでかきこんだ。
「母さんと父さんは?」
「何言っているの?今日の朝から二人で旅行に行ったじゃない」
呆れた面持ちだったが、仕様がないじゃないか。
僕には知らされていなかったんだから。
おそらく父と母は僕の家事能力に期待していないんだろう。
「なぁ、お前は僕に期待しているか?」
「はぁ、寝過ぎて頭がおかしくなった?」
呆れた顔がさらに呆れたように鼻で笑って見せた。
「ああ、そうだな」
温かい言葉はいらないんだ。
言葉を証明するのはいつだって言葉ではなく行動なのだから。
…やっぱり僕は特別になれないな。
その時、ついでくれた炊き立てのご飯が冷めていくのがしっくりきた。
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