第11章「確かな憩い」その14


それから二時間ほどして西山は先生に用事があるらしく、


教室で別れを告げて、職員室に向かっていった。


僕は特に学校に用事もなかったので早々と教室から去り、


下駄箱で上履きから靴に履き替えた。


校門に向かい、グランドを見ると、陸上部が馬鹿みたいに走っている。


今日の最高気温はたしか35℃近く、人と抱き合っている方がまだ涼しい気がする。


こんな中、見えない何かに押されるようにひたすら走っている。



そこには先ほど下駄箱で話しかけてきた少女もいた。


どうやらこちらに気づいたようで、ずっと僕の方を見ている。


彼女が一人になったところで、僕は声をかけた。



「小嶋さんだっけ?」


この子からは声をかけられた驚きや緊張がみじんも感じられない。


まるで僕を待っていたような態度だった。



「何か言いたそうね?」


「西山は誰にでも優しい奴じゃないよ。


昔はそうだったかも知れない。


でも、最近は笑った顔が作ったものじゃない気がするんだ。


嫌いな奴には嫌な顔をするし、


少しずつ良い子から離れていこうとしてるんだ」



先ほどの彼女同様、他人に対して断言してしまった。


「…と思う。わからないけど」


わずかな罪悪感を感じたので、訂正しておいた。


頭をかいて、下を見ていたのでわからなかったが、


彼女はくすりと笑っていたように見えた。



「君はきっと特別だよ」

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