第11章「確かな憩い」その5
一学期最後のホームルームを終えて、
宿題のプリント束をもらった僕らは、二人で教室を出ようとした。
みんな、今まで見たことないようなしわ瀬そうな顔をしている。
夏休みへと向かい、期待と夢を膨らませているのだろう。
しかし、教室は教科書や文房具、白いチョークの文字一つない、
なんとも味気ない部屋に様変わりしていた。
廊下はいつもの放課後よりも大勢の人がにぎわっていた。
テストの解放感と明日から夏休みという事実が人間をここまで幸せにするのか。
単純というか短絡的というかはわからないが、
夏休みをただの長期休暇と思っているなんて、幸せな人たちだなぁと思う。
下駄箱で靴を履き、校舎を出ると、蝉の鳴き声と外の熱気で頭が一瞬ズキズキした。
たとえ十二時だろうと、先月は日を見上げて、まぶしく感じることはなかった。
しかし七月になるとどうだ。
体育の時間にグランドに座ると尻が暑いし、干した洗濯物は二時間足らずで乾く。
校門を見ると、コンクリートがメラメラと陽炎が立っていた。
「暑いな」
思わず、口にしてしまった。
「ええ、そうね」
あいづちを打ってくれた。
しかしそういう割には、平木は未だに長袖を着ている。
それに外を歩いていても、顔色一つ変えず、汗一つかいていないように見える。
おそらくどこかの砂漠で生きてきたのだろう、この少女は。
なら、僕は砂漠に不時着したパイロットか。
彼女は星の王子様のように僕に夢を思い出させてくれるのかもしれない。
「夏休みは何をするんだ?」
声が教室にいた時より出ない。これも暑さのせいなのか。
「さあ、まだ決めてない」
平木はさざ波ほどの揺れも感じない呼吸で話している。
さすが裏でクラスの男子に氷の女王と呼ばれていただけのことはあるな。
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