第10章「沈黙の祭り」その6


「お疲れ~。みんな、順調に進んでる?」



西山が帰ってきた。


教室のドアを開けて、黙って来ないあたり、一軍なんだなぁと改めて思い知らされる。


そして、彼女がいると、クラスの雰囲気がガラリと変わる。


ピリピリしていた女子たちは、西山を囲むと表情が和らいでいく。


サボっていた男子たちも、さっきまで馬鹿みたいにはしゃいでいたのに、


彼女が来ると、バツの悪そうな顔をしていた。


これを魅力と呼ぶのか、権威と呼ぶのか、僕にはわからないが、


ただ確かなのは、西山はすごいってことだ。



「羽塚くん、すごーい。一人でこれだけやったの?」


塗っていると、僕に声をかけてきた。



「塗り方も綺麗だし、もしかして美術部入ってるの?」


「皐月~、どうしたの?」


「羽塚くんがこの柱の一面塗ってくれたんだって」


「どれどれ?見せて」


「本当だ、綺麗~、平木さんと変わらないぐらい」


そりゃ、そうだ。平木が教わったんだから。


「羽塚ってこんな特技あったんだぁ」


「だったら、もっと早く言ってくれればよかったのにぃ」


生まれて初めてだ、こんな複数人の女子から褒められたのは。


まあ、半分はまやかしだけど。



「ああ、いけない。そろそろ行かなくちゃ」


「また、委員会か?」


「うん、じゃあ、また戻ってくるね」


そう言い残し、西山は教室を去っていった。


西山が去ると、囲んでいた女子たちはあれよあれよという間に、


僕の周辺から去っていった。


まったく、なんてわかりやすい奴らなんだ。



「おい、羽塚」


僕が手を絵の具塗れにしている間、馬鹿みたいに遊んでいた小西だ。


「小西、なんだ?」


バツの悪そうな顔をしている。


「それどうやって、やんのか教えろよ」


他の連中も小西の後ろでもじもじしている。


お前らの恥いる姿なんて需要がないぞ、と言ってやりたい。



平木を一人でノートを持って行かせたこと、


西山とLINEでやりとりしていることを言ったこと、


特に、お前にはいろいろ恥をかかされたものだ。


「わかった」


まあ、これでクラスが一つになるなら、安いもんか。

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