第7章「移りゆく時期」その9


買い出しを終えた僕らは、昼食を取ることをした。


周りを見渡すと座席には僕たちと同じ、高校生の男女二組ばかりだった。


そういえば、西山と二人で遊んでいるなんてクラスメイトにバレたら


僕は明日からどんな目に合うんだろう?


約二時間ほど歩き回ったせいか座ると、急に眠くなってきた。


血圧が下がったのかもしれない、ついでにテンションも。



「もう~、羽塚くん、買い物付き合うの初めて?」


メニューとにらめっこしていた西山が何だか不服そうにしていた。


「何で?」


「だって、全然興味なさそうだもん」


「そうだなぁ。買い物なんてろくにしたことないな」


「服とか買わないの?」


「まぁ、引き出しにある服を適当に着るだけかなぁ」


「へぇ、変わっているね」


「じゃあ、女の子とデートするのも初めて?」


これをデートに含んでいいのか、いや本人が言っているからいいのか。


「いや、どうだろうなぁ」


「もしかして平木さんと?」


「何で西山って平木を意識してるの?」


それまでのにこやかな顔面食らった顔に変わってしまった。


まずいことを聞いたか、一瞬血の気が引いた。


「えっ、そんなことないよ〜」


「そっか。なら、いいんだけどさ」


何か隠しているような口調だ。


気になるが、聞き出すのも悪いし、まだ食事も届いていないのに


しばらくの沈黙が二人の空気にとどまっていた。



「実は私と平木さん、同じ中学だったんだ」


気まずくなったのか、悪いと思ったのか、西山は衝撃の事実を僕に告げた。



「そうなの?」


「うん。三年の時、同じクラスだったんだ」


「その時から、あんなに口が悪かったのか?」


「どうだろ?平木さんがクラスメイトと話しているの見たことないから。


いつも一人でいるみたいだったよ」


何だか気の毒そうに聞こえた。


それは平木だけじゃないはずだ。


僕だって、中学や高校になって一人で過ごす時間の方が多くなった。


でも、それが他人に同情されるものほどのものなのかと問われれば、違う気がする。


一人でいることはそんなに悲しいことなのか。


まるで心臓を軽く握られたように感じた。



「だから、羽塚くんはすごいと思うよ。あの平木さんと仲良くなれるなんて」



褒めているのだろうか。


しかし、西山は僕の質問には答えていない。


僕はなぜ平木を意識しているのか、と聞いた。


同じ中学だったからって、意識する理由には少し弱い。


これ以上聞くのも億劫だったので、頼んだクリームソーダを口に含んだ。


西山も先ほど頼んだオシャレなワッフルを食べていた。


僕らはきっと理由もない沈黙に耐えられなかったのだ。

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