第6章「西山皐月」その14


西山は何かを閃いたかのごとく、


「ちょうどよかった、羽塚くん、明日ってひま?」


ぼっちの僕にとって、休日に用事なんてあるわけがない。


「ああ。特に予定はないかなぁ。」


そういうと、西山はほっとしたように、


「よかった。あの、もしよかったら今週の土曜日、付き合ってくれない?」


「どういうこと?」


意味がよくわからない。


西山が僕を誘う理由なんて一日考えても見つからないだろう。


「もうすぐ体育祭じゃない?


今日そのことを学級委員会で話し合っていたら、


そのあと各クラスで自分たちの教室で打ち上げをする流れになって、


クラッカーやら仮装を用意しなくちゃいけないの」


まったく、まだ始まってもいないのにどうして終わった後のことを考えている?


打ち上げなんて各クラスで勝手にやるもんだ。


そんなことを公の場で決めることじゃないだろうのに。


きっと彼らの脳は体育祭とか文化祭とか卒業式という単語を聞くと、


アドレナリンが分泌されて興奮作用を引き起こすんだろう。


蔑視しているように聞こえるかもしれないが、


僕は彼らのような人間は格段嫌いってわけじゃない。


行動力とか人脈の広さはすごいと思うし、


そういう力が社会で必要なことはなんとなくわかる。


しかし周囲を巻き込んだ行動というものは


価値観を押し付けることになりかねないと思ってしまう。


それが正しいのか間違っているかはここでは置いたとして。



「ダメかな?」


会話の間がさっきよりもずいぶんと長かったためか、


西山は僕が嫌がっていると思っていたんだろう。


なぜ僕なのかを心の底から聞きたかったが、やめておいた。


それよりもこの誘いを受けるか、受けないかだ。


受ければ僕の貴重な退屈さに満ち足りた放課後が潰れることになる。


しかし西山と友だちくらいの仲になることができれば、


今後僕のクラスの立ち位置が有利になるかもしれない。


たとえ遅刻しても、みんながにこやかな顔で迎えてくれるかもしれない。


それに受けなければ、恥をかかされたとしてひどいいじめにあうかもしれない。


まあ西山がそんなことをする人間とはとうてい思えないが。


とりあえずクラスメイトと仲良くなるきっかけになるかもしれない利点に重点を置いた。



「わかった。いいよ」


そう言うと、一限の休み時間の時とまったく同じ笑顔で


「ほんと!?ありがとう」


安堵と歓喜が混じった可愛い笑顔だ。


その反応を見ると逆に完璧美少女として生きてきた


西山は異性に誘い事を断れたことがあるのだろうか、と気になった。

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