第6章「西山皐月」その13
教室のドア付近で僕に声をかけたのはあの西山だった。
それまでの平常な心が予想を反した事態に急にあわただしくなった。
「びっくりした。忘れものっ、忘れものっ」
誰もいないものとみなしていたので、
教室が彼女のせいでいつもどおりの一年三組の教室になってしまった。
しかも人と話す準備もしてなかったので、驚きが言葉にも態度にも出てしまった。
西山は僕の顔を見ながら、こちらまで近づいてきた。
「へぇ、意外」
三十センチものさし二つ分くらいの距離感で僕の行動に関心しているようだった。
何を関心することがあるのかはわからないが、
西山は僕と話しかけているこの状況に
違和感を覚えないのかはなはだ疑問に思えた。
「何で?」
とりあえずなぜそう思ったのか聞いてみた。
「何か羽塚くんはいつもポーカーフェイスだから、
抜け目がないっていうか、ピリピリしてる感じがしてたの」
そういう風にみられていたのか、僕は。
まぁ、一軍から見れば二軍以下の人間は暗い奴に見えるんだろう。
一軍は学校は何もしなくても楽しいものだと思っている。
僕にとって学校は楽しい時もあれば、嫌な時もある。
十の割合で分けるとすると前者が二で後者が八くらいだ。
そんな僕が君のように毎日笑って過ごすことなんてできるわけがない。
もしここでそりゃ学校ってつまらないからなぁ、
と答えたら彼女はきっと冗談だと思うだろう。
しかし本気なのだ。
結局自分の信じているものに外があることを信じないんだ。
僕は一刻もはやく忘れ物を秋山先生に届けようとしたがよくよく考えれば、
それは西山についさっき届けるように頼まれた日誌だ。
それを忘れたと気づかれればさすがに怒られるだろうと思い、
取り出そうとした日誌を机の中に置いたまま、西山と話すことにした。
「西山は何でこんな時間まで?」
これ以上何も聞かれないように話題を西山の方へずらした。
「私は委員長会議だよ。羽塚くん知らないの?
今日の終活でも話したはずだよ」
すこしムスッとした面持ちで、僕を見た。
「ごめん、ごめん」
「ううん、冗談だよ。羽塚くんは真面目なんだから」
「今日は体育祭の最終リハーサルの打ちあわせだったの」
「リハーサルにも打ち合わせがあるのか?」
「うちの高校はイベント事に力を入れているから、先生たちはリハーサルでも本気なの。
そのせいもあってか、学級委員の大半が体育会系でさ。
今日も新たに種目を増やそうとか無茶を平気で言いだすから大変なの」
そりぁ大変だろうな。
ノリや勢いに任せる連中は自分の常識や価値観が
万国共通かのごとく他人と関わり、接するのだから。
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