第6章「西山皐月」その8


いやよくよく考えれば、西山を憧れることはない。


あんな体験をしたのは世界中探しても僕一人だろうし、


僕の方がすごいんじゃないのか?



いや、自慢するようなことではないことはわかっている。


僕は一ヶ月ほど前、誰にも言えないようなぶっ飛んだ体験をした。


悩み部屋だ。


日々の忙しさで忘れていたが結局、平木と屋上で行った以来


何の手がかりも得られずにはや一ヶ月が経ってしまった。


あれからも特に変わったこともなく、平木も悩み部屋について何も言わないので


僕も出来る限り興味を持たないようにしている。


彼女の過去や家族のこと、その他もろもろ一向に聞けない状況にある。



当の本人が触れていないのに、僕がつつくのもおかしいし、失礼だろう。


それにできることなら、あの時の自分の行動はあまり思い出したくない。


僕は人に自分の意見を押しつけるのは好きじゃない。


自分の考えが人前で正しいと言えるほど、立派に生きてきたつもりもない。


それでも時々、自分がすごい人間だと錯覚してしまう時がある。


いや、錯覚してしまいたくなる時がある。



きっと何も持っていない自分がまた嫌になりそうだから。


僕は布団にうずくまり、早く朝が来ることを待った。

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