第5章「白紙の手帳」その4


僕らは初日のテストが終わった解放感を味わうことも特になく平木の家で勉強をしていた。


とはいえ、テストの緊張感から解放された僕の体は一気に脱力感を覚えた。


いざ、世界史の問題集を開いたはいいが、頭に文字が入ってこない。


平木はそんな僕にわき目もふらず、問題を解いている。



しかし、その姿を見たところで見習う気力もわき出てこなかった。



僕はもう平木の圧倒的な知識量に差を感じてしまったのだ。



実は中間テストの二日前に世界史の小テストがあったのが



五十点満点で平均点二十五点という難易度の高いテストだったが、



ただ一人、満点をたたき出したクラスメイトがいた。



それが今、僕の目の前にいる少女、平木尊だ。



世界史の横山先生はひっきりなしに平木をほめていた。



おそらく、満点をとらせる気などなかったのだろう。



授業中ということもあってか、クラスの皆が平木に注目にしていた。



そこには嫉妬と羨望のまなざしが向けられていたことを感じた。


しかし、平木はそんなことには一切興味を示さずに、


赤丸しか存在しない解答用紙を折りたたみ、それを机の中に放りこみ、


読書を始めていた。


一回でもいいから、こんな風に皆が価値あるものを雑草のごとく、


放り捨てたいものだ。


今の僕なら、まずは友だちにそれとなく自慢して、世界史について雄弁に語るほど、


人としてのせせこましさを前面に押し出すだろうな。


これは僕のコンプレックスの裏返しということは分かっていた。


だってしようがないじゃないか。


この歳になってくると、誰かからお世辞抜きでほめられることなんて


ほとんど無くなってくるのだから。

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