第4章「異常の中の普通」その13
「それは知っているさ。テストまであと一週間ってことくらい」
「だったら、さっさとはじめなさい。
分からないところがあれば、教えてあげるから」
急に優しくなったな。
いや、厳しさの中に見えるほんの優しさに
心の中がおだやかに波打っていた。
これがギャップ萌えってやつなのか。
「今日はずいぶんと優しいな」
「私はいつも優しいわよ」
前言撤回。チャンスがあればおもいっきり馬鹿にしてやろうと
思った自分に嫌気がさす。
すると、考えているようだった顔から意外な言葉が聞こえた。
「これが私にできるせめてものお返しだから」
数学の問題を解いている伏し目がちの平木はとても美しかった。
そんなことを想っている彼女は僕を大きな存在と思っているのかな。
でもそれは違うよ、平木、僕に恩義なんて感じないでくれ。
君のために君を助けたんじゃない。
きっと自分なんだ。
意外な言葉には答えが欲しかった。
聞かない。いや、聞けない。
心の中では冷静に語れるが、聞く度胸はない。
今日は金曜日、いつもとは違う過ごし方。
僕は鞄の中の教科書とノートを取り出した。
そして、その言葉に対して僕は口を開くこともなく、ペンを握った。
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