第4章「異常の中の普通」その5


僕はなんて面倒くさい奴だろう、と少し自分が嫌になる。


でも、そんな自分が愛おしいのも確かだった。



こんな無駄な思考に遮られながらも


何とか、授業内に書き終えることが出来た。


次の時間は英語だった。


この授業は現代社会の山寺とは違った面倒くささがある。


担当の矢崎先生は日本の英語教育について疑念を抱いており、


従来の「書く、読む」英語から「話す、聞く」英語にシフトして


授業をする、と一回目の授業に宣言した無駄に暑苦しい女教師なのだ。


そのせいか授業時間の半分はペアで長文を読み、最後に確認テストをやらされる。


今日も長文を解読した後、平木と読むことになった。


初めにも言ったが、一週間ほど前まで僕の右隣の席に平木はいなかったので、


僕は一人で長文を読む羽目になっていた。


あの時の矢崎先生の僕を憐れむ目は、今でも目の裏側に焼き付いている。


意図的に独りにさせられることは恐怖だが、


偶然にも独りにさせられることは「仕方がない」の一言で済まされるほど、


無慈悲で残酷だ。

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