第3章「僕たち私たち」その10


ホームルームが始まった。


今年で35歳になる秋山先生は、


体育教師と思い違いするほど、屈強な体といかつい顔つきで


教壇に立ち、言葉を発している。


しかし、見た目とは裏腹に生徒に対しては体罰的なことは一切せず、


怒る時は怒鳴りつけるよりもまずは生徒の言い分を聞くことを


モットーにしている心やさしい先生なのだ。


しかし、いやだからこそ、本気で怒った時は怖いんだろうなぁと


密かに末恐ろしく思っている。



三週間後に始まる中間テストについてと


歩きスマホについての注意を伝えた後、


秋山先生は心なしか、けだるそうだが真剣な面持ちで言葉を発した。


「実は昨日、この校舎の屋上で飛び降りをした


生徒を見たとの報告が多数挙がっている。」


その瞬間、僕は平木を見た。


何ともないように、自ら片手に持った本の文字を流暢に追い続けている。


おいおい、ふざけるな。


昨日の一件がバレたってことだぞ。



待ってましたと言わんばかりにみんながざわつき始めた。


「しかし、校舎の周りに飛び降りた痕跡などはなかったため、


ただのイタズラか、見間違いの可能性もある。


このことで何か知っている人がいたら、僕のところに報告するように。」


そう言って、先生は教室を後にした。


おいおい、そんないかつい顔して一人称が僕って…





いや、今はそれよりも昨日のことだ。


僕は周囲を見渡し、自分を見ているのではないか、


早まる鼓動を感じながら、誰の視線も感じないことで安心した。


右隣の彼女はまぶた一つ動かさない。


僕一人だけ心の中で騒いで、馬鹿みたいに思えた。

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