77話 人間はずうずうしいぞ
岩礁を回り込んだ先にはなにやら建造物が確認できた。
防壁のようなものがあり、中は確認できないが人間の拠点で間違いないだろう。
「どうする?一旦隠れるか?」
「いや、あちらからもこちらの姿を確認しただろう。このまま進むぞ、捕虜役は戦が始まるまで大人しくしておれ。射手は矢戦に備えよ」
スケサンは俺を船尾に追いやり、バーンとフィルに弓の支度を指示した。
「リザードマンは戦闘に参加せず、槍を構えて姿を見せるだけでよい。オヌシらに被害が出ると帰れなくなってしまう。しっかりと身を守れ」
船酔いにへたばっている者もいるが、次々に出されるスケサンの指示を受け皆が戦闘態勢に入る。
そうこうしているうちにも舟は進み、拠点がハッキリと見えてきた。
人間の拠点は木の城壁に囲まれているようだが隙間も目だつし、中途半端に高さがズレている。
いかにも急ごしらえといった感じだ。
城門と櫓があり、櫓はこちらに気づいてなにやら拠点内に合図を送っている。
「気づかれたな。上陸するか?」
「うむ、偽装の効果は十分だな。敵か味方か判断がつかぬようだ。今のうちに上陸するのがよかろう」
舟はそのまま適当な浜に上陸し、バラバラと皆が舟から下りる。
「ベルクよ、これよりはオヌシが進退を指揮せよ。城壁を乗り越えて制圧する」
「よしきた。バーンとフィルは櫓の見張りを狙え!残りは俺に続けぇ!!」
指揮の切り替え、この辺りは阿吽の呼吸というやつだ。
俺は槍を持ち、盾を掲げながら先頭を走る。
拠点を攻めるのにモタモタすれば的になるだけだ。
ここで敵襲だと気づいた人間たちが騒ぎだしたがもう遅い。
門が閉まり、まばらに矢が飛んでくるが、それだけだ。
「怯むな、走れ!走れ!」
俺は味方を励まし、先頭を走る。
そして適当なところで槍を「オリャア」と、ぶん投げた。
槍は城壁に突き刺さり、俺はそれを足がかりによじ登る。
俺を食い止めようとした男の首に矢が突き立った。
助けてくれたのはバーンか、それともフィルか、いちいち確かめている暇はない。
「敵は少ないぞ!!かかれえ!かかれえ!」
城壁の中にはほとんど敵がいない。
倒したものも含めて10人いるか否か。
不意を突いたので鎧も着けていない。
俺は城壁を飛び下り内側から城門の制圧に向かう。
見ればスケサンも投げ縄を使って城壁を乗り越えて、そのまま櫓の制圧に向かうようだ。
城門の内側では数人の敵が固まっている。
俺は剣を抜き、盾を構えながら飛び込んだ。
「オラアッ!死ねえ!死ねえっ!」
乱戦では技もクソもない。
俺は敵のど真ん中で狂ったように怒鳴りながら剣と盾を振り回した。
俺の腕力で殴ればどこに当たっても人間は倒れる。
狙いなど必要ない。
「畜生!まともにやりあうな、離れろ!離れて囲め!」
勢いのまま数人ほど倒すと、指揮官らしき初老の男が俺を囲むように指示をだした。
だが、もう遅い。
俺を囲む4人を、さらに囲むように味方が集まってきたのだ。
足の早いトラ人や、ネコ人、古いオオカミ人の里から参加したオオカミ人、数は増える一方だ。
「降参する!武器を捨てる!」
初老の男が「お前らも武器を捨てろ」と指示をし、しぶしぶ他の人間も武器を地に落とした。
「ここが襲われた事実を受け入れろ。冒険者なら生き残る確率が高い選択をするべきだ」
初老の男は仲間を諭すように声をかける。
ためらっていた者もこの言葉に武器を放り投げた。
完全に無防備、こうなればこちらも手を出しづらい。
「ふん、無抵抗を気取られたら殺せんな。よし、人間どもを探して集めろ。1人でも抵抗したら全員殺せ」
俺のこの言葉が利いたのか、残る人間どもは抵抗することなく捕虜となった。
意外なことに、双方に死者はなし。
まあ、人間の中にはいまにも死にそうなヤツはいるが。
捕虜の中には女も混じっているが、全員を裸にして数珠繋ぎにする。
人は裸にされると抵抗する気力が萎えるのだ。
「お前さんが
初老の男が訊ねてくるが、もはや抵抗の意思はないようだ。
俺が「そうだ」と答えると瞑目し、大きく息を吐いた。
「降参を許してくれるとはありがたい。身代金か?それとも奴隷にされるのか?」
この言葉に俺は鼻白む。
改めて『降参を許してくれて感謝する』と聞かされて一気に殺しづらくなってしまった。
この男、自ら武器を捨てたことといい、なかなか嫌らしい。
こちらが手を出しづらくなるツボを心得ているのだ。
そして、捕虜は略奪品である。
この男のいう通りに連れ帰ってもいいのだが、ごちゃ混ぜ里に奴隷は必要ない。
もちろん流通していない金銭で身代金など論外だ。
(さて、どうしたもんかね)
里に連れ帰るにも、自発的に来るならまだしも、無理やり連れていって悪さされたらかなわない。
「ベルクよ、迷うな、殺せ。逃がしては禍根を残すぞ。人間どもはわざとらしくオヌシに慈悲を乞うが、この場から離れればすぐに忘れて歯向かうだろう」
「なるほどねえ……まあ、そういうトコはあるよな。人間てやつは」
イヌ人との争いで捕虜をぶち殺した時みたいに尋問に抵抗するとか、分かりやすい反抗がないと殺しづらいのは事実だ。
聞き出すような情報もないし、正直めんどくさいことになった。
「殺すのだ。この拠点には畑はない、つまり定期的な補給があったのだ。放置すれば拠点を再建されるだろう。コヤツらを殺し、増やしたスケルトン隊でここを占拠することは可能だ」
スケサンはあくまでも殺せと主張する。
これは人間たちに怒っているからだろう。
「そうか、ならオオカミ人の里の者たちにも意見を聞こう。彼らがガイの遺恨を晴らすのならば俺も遠慮はないからな」
俺が水を向けると、オオカミ人の里から参加したイヌ人たちは落ち着かない様子でキョロキョロと周囲を見渡した。
どうやらいきなり話をふられたので動揺しているらしい。
「ふむ、ならば古き里よりの戦士も交えるのがよかろう」
「そうだな。他の者はここにあるものを全て奪え。そこに舟もある、それも使うぞ」
話し合いの間、ぼーっと待っていることはない。
俺たちは俺たちで作業があるのだ。
徹底して破壊し、片っ端から奪いまくる。
水も、食料も、衣類も、武器も、全てだ。
「なんか変なのいましたけど、連れていきます?」
「ん? ニワトリじゃないのか? 連れていけばいいじゃないか」
なにやら皆がニワトリ見てビビってるらしい。
なにが気になるのだろうか?
(そういえば森でニワトリ見たことないかも……? いないのか?)
ニワトリなんて、どこにでもいそうなだけに意外である。
うまく飼育できれば生活も豊かになるだろう。
縛られた人間を無視して略奪を行っていたが、不意にイヌ人たちが俺を呼び止めた。
結論がでたのだろう。
彼らの出した結論は『リーダーを含む4人の処刑』だ。
受けた分を復讐するということらしい。
「うむ、目には目を、歯には歯を、という言葉もある。無難なところだな」
人間どもはピーピー騒いだが、俺たちには耳を貸す義理はない。
すでに息絶えていた重傷者は2人。
この分はオマケで差し引き、さらに2人を殺し初老の男を含めて4つの死体を並べた。
「さて、残りは7人か。どうする?」
「放っておけ、運がよければ助かるだろうさ」
スケサンは素っ気ない。
「そうっすよ。俺たちはもっと少ない人数で始めたっす。7人いりゃなんとでもなるっす」
バーンもスケサンと同じ意見のようだ。
エルフは縄張り意識がかなり強いので、テリトリーを荒らした人間に強い嫌悪感があるようだ(すでにオオカミ人の里は身内扱いなのだろう)。
まあ、俺だって初老の男の話術にやられただけで、人間どもに思い入れがあるわけではない。
しかし、俺たちは真っ裸で縛られてなかったわけだが……まあ、そこはどうでもいいだろう。
「この死体も積み込んでくれ。持ち帰ってスケルトンにするとしよう」
この不気味な言葉を聞いた人間どもは失禁するものがでるくらい震え上がった。
だが、スケサンはもう生き残りに興味はないようだ。
あらかた奪った後は建物や城壁をぶち壊し、火をかける。
少なくとも、この拠点を再利用できないようにするためだ。
「まあ、頭数はいるし、なんとでもなるか?あとは人間の神とやらに助けてもらうんだな」
俺は縛られたままの人間に別れを告げ、その場を去ることにした。
なにもない廃墟に全裸で縛られる状況はなかなか厳しいだろうが、そこは彼らの問題だ。
「よし、帰るか。再建しても無駄だぞ、定期的に見に来るからな」
それだけ言い残し、俺たちは略奪品で満載された舟を7隻で海に出る。
行きより舟は増えたが、それ以上に荷物も増えた。
リザードマンたちの泳ぎも少々遅いようだ。
「うまく行ったじゃないか」
「いや、今回はあちらが無警戒だっただけだ。人間どもの征服欲は凄まじい……あの場所にはいずれ人間の町ができるだろうさ」
どこか諦めたようにスケサンが呟く。
(いずれは人間のものになる、か)
スケサンの言葉が、いつまでも耳に残った。
■■■■
ニワトリ
人類はごく古い時代よりニワトリを家畜としてきた歴史がある。
卵や肉を食用とするだけでなく、朝を告げる鳥として、吉凶を占う闘鶏をとして宗教的な意味を持つこともある。
また、羽を利用した工芸品、鶏糞をもちいた肥料などにも利用され、人との関わりは密接で複雑。
飼育は放ったらかしの半野生でも大丈夫だが、ケージくらいは作ってやりたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます