10話 何もしてないのにフラれたぞ
と、言うわけで3人のエルフと合流した。
改めて互いに自己紹介からである。
「俺はラシードの子ベルク、この森で100年以上生活するのが目標だ」
「私はスケサブロウ・ホネカワ。ベルクからはスケサンと呼ばれている」
スケサンが名乗るとエルフたちはなんとも言えない微妙な表情を見せた。
「ホネカワ様は、その――」
「スケサンと呼んでくれ。見ての通りスケルトンだ」
スケサンはリーダーの女の疑問を遮り、スケルトンだと自己紹介しているが……通常のスケルトンはしゃべらないし、鹿の体でもない。
彼女らの戸惑いは増すばかりだ。
「たしかにスケルトン……? あなたの祖霊なの?」
「いや、ご先祖さんじゃないな。友達さ」
女の言葉に答えると、スケサンが「ふむ、友か」などとまんざらでもない顔をしている。
「で、そっちはバーンだな。アンタは?」
俺が名を訊ねると女はハッと我に返ったようだ。
まあ、スケサンはインパクトあるからな。仕方ない。
「私はアシュリン、こっちは――」
「コナンです」
コナンはほかの2人よりやや年上のようだ。
痛めた右肩を固定するために右手を吊っている。
髪が中途半端に縛られてボサボサなのが目につくが、恐らくは右手が上がらないのだろう。
ほかのエルフたち同様に金髪で青い瞳だ。
「とりあえずは全員分の家を用意したいが場所から探す必要がある」
俺は長雨の影響で家が流されそうになり、引っ越しを考えていたことを告げる。
水位が下がったとはいえ、まだ排水溝には水が溜まっていた。
「なるほど、たしかにここは川に近すぎて危ないですし、これからの季節の川辺には
「あまり水辺から離れると不便す。でも、せめて川の流れからは隠れる形がいいかもしれないっすね」
コナンとバーンが意見を述べ、スケサンも「ふむふむ」と頷いている。
ちなみにリザードマンとはトカゲ型の獣人だ。
強くて賢いとされるが、独特の文化や習俗を持つので他種族と折り合いが悪い場合も多い。
「リザードマンがでるのか。略奪でもするのか?」
「いえ、狩りです。彼らは人も補食します。ベルク様なら問題はないかもしれませんが――」
俺の疑問にコナンが答える。
たしかに、ひ弱な彼らでは固い鱗を持つリザードマン相手は厳しいだろう。
エルフの里が川から少し離れていたのはこうした理由があったのかもしれない。
「たしかに、常に俺が守れるわけじゃないしな。少し離れた場所で平らな土地を探そう」
俺が同意すると、バーンとコナンはほっとした表情を見せ、アシュリンは「ま、守ってもらう必要はないぞ」と小声で抗議していた。
まあ、無視でいいだろ。
「うむうむ。土地の事情に詳しい者がいると違うであろう?」
「全くだな。俺たちじゃ、ちょこっと離れた場所に建て直すくらいだったな」
仲間が増えたことでスケサンも喜んでるようだ。
(洞穴で放置されていたんだからな……人と接したいのかも知れないな)
エルフたちはスケサンを怖がっているが、そのうち仲良くなってほしいものだ。
「家を建てる場所に心当たりはあるか?」
「そうすね……コナンはどうだ?」
俺の質問を受けたバーンがコナンにふる。
こいつは要領がいい。
「やはり、最適なのは放棄されたエルフの里――」
「だ、ダメだ!」
コナンの言葉を遮り、アシュリンが声をあげる。
この女、いちいち非協力的というか……すげえウザいぞ。
ぶん殴ってやろうか。
だが、当のコナンは「落ち着いてください」と冷静だ。
「最適なのは放棄されたエルフの里ですが我々には広すぎますし、心情的にも避けたいところです」
俺はアシュリンを無視して「そうだな」と同意した。
「川のこちら側で、平らな土地を探すか」
「ええ、建てるといっても数軒ですし、すぐに見つかりますよ」
とりあえず、まとまった。
腹ごしらえとして川魚の燻製を火にくべ、全員で食べる。
エルフたちは遠慮してたみたいだが、食い物の分配は集団生活の揉め事の1つだ。
俺も含めて衣食住はなるべく平等にしたいと思う。
「そんじゃ、適当にうろついて新しい場所を見つけるか」
こうして、俺の2度目の引っ越しが始まる。
嬉しそうなスケサン、協力的なエルフ2人、ふてくされてるのが約1人いるが……まあ、なんとかなるだろう。
☆★☆☆
当たり前の話だが、森とはいえ全てが緑で覆われているわけではない。
木が生い茂っている場所もあれば、まばらな部分もある。
俺たちが探すのは少し開けていて、川からさほど離れない場所だ。
「ここはどうすかね?」
「ふむ、悪くないがやや低い。窪地は長雨が心配だ」
こんな感じで皆で意見を出し合いながら候補を探すこと数ヶ所。
ほどよい場所を見つけることができた。
開けているとは言い難いが、平らでやや高くなっている。
「少し狭いですが、木を切れば拡張できそうです」
「うむ、小屋がいくつか建てばよいのだ。先々不都合があれば移動すればよい」
エルフたちとスケサンが場所を決めたようだ。
「スケサン様は建築にお詳しいのですか?」
「様はいらぬ、スケサンと呼んでくれ。建築というより地形を見る
エルフたちと打ち解けてスケサンも嬉しそうだ。
(なんというか、見かけのわりにコミュ力高いんだよな)
一方の俺とアシュリンは少々手持ち無沙汰だ。
場所選びに知見がない俺は出る幕がないし、アシュリンはなんだかこちらを見てふくれ面をしている。
俺がチラ見すると、目が合った彼女はプイッと目をそらした。
さすがにチョットいらつくぞ。
「なんだよ?」
俺が声をかけると、アシュリンはビクッと身をすくませながらもキッとこちらを睨みつけてきた。
「な、なれなれしくするなっ! わ、私のか、体を好きにできてもそれは生きるために嫌々なんだぞっ! 私はオマエを恨んでるんだからなっ!」
それだけ言うとうずくまってメソメソ泣きはじめた。
情緒不安定すぎるだろ。
そりゃちょっとは美人だなとか、顔を殴って悪かったなとか、おっぱい小さいなとか思ってたけども、なにもしてないのにフラれるってどうなんだ?
「はあ、なにをしとるんだオヌシは」
スケサンがため息をついてるが、いまのは俺のせいじゃないだろう。
エルフ2人も「あちゃー」みたいなジスチャーでこちらを見ているが、誓ってなにもしてないぞ。
「ありのままいま起こった事を話すぜ。俺は話しかけたと思ったらいつのまにかフラれていた。なにをいっているのかわからないとは思うが、俺にもまったくわからないんだ」
事実、なにもしていないのだからどうしようもない。
すかさずバーンが「すんません」と割って入る。
コナンも「申しわけありません」と俺に頭をさげた。
「バーン、アシュリン様と食料を集めてきてくれ。ベルク様はよろしければ私と建物の材料を集めにいきませんか?」
「ふむ、ならば私も狩りを手伝いに行くか」
なにやらそのまま仕事の割り振りが決まる。
気にしてもしかたないし、俺はアシュリンを無視してコナンに付き合うことにした。
「建材にはちょっと心当たりがあるんですよ」
「そうか、なら任せよう。
コナンは「もちろんです」と頷き俺を先導する。
片腕でも危なげはない。
森に慣れた歩きだ。
「すいません。アシュリン様が失礼しました」
「ああ、少し驚いたな」
俺がぼやくとコナンは「すみませんでした」と再度謝罪を口にした。
「あの方はいまの族長の姪で里でも1番の弓取りでした。おそらく次の次の族長になるか、立派な
「なるほど、筋目がよかったんだな」
コナンは「はい」とうなずいた。
「まあなあ。それが一転して鬼人へ生け贄あつかいだからな。取り乱しても無理ないな」
「ご理解、ありがとうございます。バーンも内心では
俺は『別に理解したからって腹がたたないわけじゃないぞ』と言いかけたが、そこは我慢をした。
アシュリンの態度のことでコナンに当たるのは筋違いである。
「お前さんはどうなんだ?」
俺が訊ねると、コナンは意外なことを聞かれたと言わんばかりの表情を見せた。
「お前さんに忸怩たる思いってのはないのか?」
「なるほど。私は――それほどありません」
コナンは右肩を触り寂しげに笑う。
「この肩ではもう弓は引けぬでしょう。狩人としては役立たず、里では厄介者として生きていくのみ」
これには納得した。
少人数の生活で力仕事のできない若い男の待遇は半人前以下だろう。
「私の場合は……里を出たのはある意味で幸運だったのかもしれませんね」
コナンはニヒルに口を歪めるが、そこには一種の諦めがあるようだ。
森で体が利かなくなれば生きていけない。
これは人も動物も変わりがないのだ。
「ふん、俺は火の粉を払っただけだ。同情はせんぞ、片腕でも働けよ」
この場合『働けよ』とは『一人前に扱うぞ』という意味がある。
別に慰めではない。
俺は片腕でも無類の強さを発揮した戦士の話を知っている。
片腕なら片腕なりに工夫し、一人前の戦士であればよいと考えるのが鬼人だ。
それを感じとったのか、コナンは「ありがたい話です」と嬉しげに笑った。
俺たちは川を渡り、エルフの里にたどり着く。
里は柵や家を崩した完全な廃墟になっていた。
他者に再利用されないためだろう。
「ここに建材はいくらでもありますからね。必要な量を運んでしまいましょう」
俺は木材を物色し、コナンは屋根に使う草を籠に集めていた。
(なるほど、この作業は里に未練のあるアシュリンやバーンには酷だな)
俺はコナンという男の気遣いに感心した。
きっとこれからも頼ることになるだろう。
■■■■
リザードマン
人間のような骨格をしたトカゲの亜人。
リザードマンにも細かい分類はあるが、おおむね水辺を好む性質がある。
卵生だが、他種族との交配が可能かは不明。
体が鱗で覆われており、大きな尻尾を巧みに使うために優れた戦士を排出することでも知られている。
あまり感情を出さず、理知的な者が多い。
反面で独特な文化をもち、他種族とのトラブルも多い。
リザードマンは左利き。
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