第89話お宝お披露目inヴァイト州州都競技場
溜まった仕事や報告の消化に勤しんだ翌日はダンジョンクエストの成果お披露目の日となった。
午前は昨日やり残した案件を処理するのに費やし昼食を挟んでからの開始となる。どうせ量的に数時間かそこらで終われない可能性高いから翌日やるのも見越してだ。
場所は冒険者ギルドではなく、去年格闘技大会を開催した州都野外会場改め州都屋外競技場。
ギルドは通常営業な上に今回は収穫量がエグイ。しかも全見せするわけではないとはいえ確認の為に双頭竜も出すとなるとギルド内の解体作業場じゃ全て貸し切りにしても狭すぎる。
夏場なら問題あるが今はまだ冬の季節なので屋外で確認と査定を行うことに。
そして周囲の目からなるべく隠しつつ大量の魔物を一気に出せるスペースを有する都合の良い場所。となると現在未使用な競技場ぐらいしかないのだ。
あそこなら客席や壁がちょうどよい目隠しになる。建物内に入り込んだり高い所から双眼鏡で覗くとかでもしない限りは見られることもない。
警備には私兵部隊と部族部隊を中心に招集に即座に応じられた兵士を合わせて五〇〇程が入る事に。
俺らみたいな偉い人も居てうちんとこのド畜生二人とその乗り物の目を盗んで白昼堂々強奪にくる馬鹿なぞ居ないだろう。そもそも情報差ほど出回ってないから来ようがない。
だから別に数百人も警備に回さずともいいんだが何事も形式が伴うものだ。
手つかずのダンジョンを踏破しただけでなく、宝もボスもSランクともなれば普通騒ぎになる一大事だ。物々しくすることでその騒ぎに付加価値をつけるわけだよ。それが回りまわってこの地の評判高める事にもなるわけで。
まぁいわゆる一つの箔付けみたいなもんですわ。
去年は幾多の激闘が繰り広げられたリングも既に撤去されており今では何もない広場となってる会場内。
先日とは違う意味で興奮と歓喜を自重しているヒュプシュさんらギルド関係者らに出迎えられた俺達は広場のど真ん中に立っていた。
ギルド関係者以外ではリヒトさん達地元貴族組も同席していた。
滅多に観られないものを拝む機会は多少の忙しさよりも優先されるものらしい。現代と違って娯楽の種類もないと話のタネに成りそうな物には喰いつくものか。
しかしその場にはヴェークさんは不在であった。彼の家族が当主の代理として参加してるが、やはり当面は要塞建設の方に集中したいということかねぇ。
俺としては助かるけど程々に家族サービスはした方がよろしいのでは。と、現代日本人感覚で思ってしまうが口にはせずにヴェークさん一家からの説明に黙って頷くのであった。
ちなみに悉く断ったとはいえリヒトさん達以外にもダンジョン踏破の話をどこかで聞きつけた富裕層や商人から問い合わせがあったという。どれほどかというと見物人募集したら金払ってでも参加したがる人ら多そうなぐらいには。
確認と大まかな査定が終えれば公式に発表されるが、それはそれとして間近で見たいと思う野次馬根性は古今東西どこにでもある人の性ともいえよう。
焚火で暖を取りつつ俺は眼前で行われてる準備をぼんやりと見物してる。
設備のある場所で行うのではないから相応の準備は必要になる上にマシロとクロエの魔物討伐はワンパンKOの代わりに死骸の損傷が酷いという評判は王都経由で知られている。
特に双頭竜の状態に関しては一昨日最低限伝えた事のうちの一つに入っていた。報告したときのヒュプシュさんの天国から地獄へ落とされたような顔面蒼白っぷりはそりゃ見てられんやつだったよ。
竜種でしかも格が低いわけではない双頭竜は血の一滴肉の一欠片も無駄に出来ないともなれば地面に取りこぼすような真似はなんとしても避けたいとこだろう。
未使用新品ならなんでもよいということで昨日一昨日で州都内から綺麗な布がかき集められた。
俺の方からも去年の部族討伐のときに使いきれず倉庫に仕舞ってた布を九割ぐらい提供した。全部ではないのは万が一使う事態に備えてというやつで。
どうせ零れるの避けられないなら綺麗な布に吸わせてそれで売ってみようという魂胆らしいな。そしてそんなのでも買う奴が居るだろうからこの世界の竜種系素材の貴重さ半端ないな。
ちょっと確認だけでコレなので、これが解体ともなれば然るべき専用の解体所で数少ない専門家を幾人も招集して慎重に執り行われる。今回みたいな損傷激しいやつだろうとそれはそれで流出を避けるためにやはり同様の措置が取られることだろう。
ただまぁどこにでも専門の解体所と専門の解体係居る訳ではない。
そもそもSランクの魔物討伐なんて容易く出来るクエストでもないしSの中から竜種と遭遇する確率なんて限りなくゼロに近い数字なわけだ普通。
しかし小国ならともかくある程度規模の大きい国だともしもに備えて冒険者ギルドが必ず最低限でも専用の道具と専門知識持った者が一名揃える事が義務付けられていたりする。万が一というわけだな。
ウチの国は上寄りの中ぐらい。なので王都と商都に普段は埃被り気味だがそれぞれ専門の解体所があり、王都の冒険者ギルドにはドラゴン解体経験のある専門知識も持った職員が二名居る。
商都の方は専門知識持ちが一名駐在してるだけだが、なにせ王都に勝るとも劣らない人の出入りが多いとこなので商都中探せば解体経験者の一人ぐらいは見繕ってきそうなので問題はない。
つまりあれだ。商都に赴く理由が一つ増えちゃったわけですよ俺的には。
討伐した本人は塩漬けしても微塵も気にしないだろうが本人以外は例え見るも無残な死体だろうが宝の塊みたいな存在を是非とも手に入れたいわけで。
解体及び査定や取引諸々で支部同士さぞ白熱した事態になりそうだ。
というかなるよね絶対。そして俺絶対同席させられてるよね。
場合によっては今後の事に絡んでくるとはいえあぁ面倒くさいわ。
数か月後の未来に思いを馳せてるうちにヒュプシュさんが声をかけてきた。どうやら準備が終わったようだ。
「それでは早速ですが双頭竜の確認を」
「わかりました。おいマシロ、クロエ」
俺の呼びかけに二人は気怠そうに「はいよー」と返事しつつバイクと共に広場中央へ歩み寄る。
そこは新品の布地を幾重にも敷き詰められており風で飛ばされないよう至るところに重しが乗せられている。
用意されたそこにマシロはバイクのアイテムボックスから薄紙でも取り出すような気軽さで双頭竜の頭部部分を引っ張り出してみせる。
それぞれ顔半分が焼け爛れた無残な姿をしたドラゴンの顔が姿を見せた時周囲は騒然となった。覚悟していたとしても実物拝めば驚きもするか。
「こ、これがSランクのドラゴン……」
「すげぇ俺初めて見るわ。いや多分今後死ぬまで目にするかわからねぇわこれ」
「死んでると分かっていても近づくのを躊躇う程の迫力は流石というべきか」
「これほどの損傷を負わせるとは節令使様お抱えの冒険者は恐ろしいな」
「あぁ……こ、これがキレイな顔吹っ飛ばされてなければどれほど完璧なことか……!」
身分問わず双頭竜を見た人々らが口々にあれこれ言い合ってる。
そしてヒュプシュさんは悲痛な呻き混じりの率直なコメントのたもうてた。
数十mのデカさなので二つ首だけでも敷いてた布の殆どを占拠してしまっていた。
絶命直後にほぼ時間停止状態となるボックスに入れられたからか、出した瞬間に焼け爛れた皮膚が幾つかボロボロと地面に落ちていく。ついでそこから滲む血なのか他の体液なのか分からないぬめっとしてそうなモノも滴ってきた。
その光景に我に返ったヒュプシュさんが慌てて左右に居る職員らに号令をかけ出した。
ギルドマスターの急かす声に職員らは分厚い本を手にしつつ双頭竜の頭部へと近づいていく。
クラーケンの時と同じだ。ランクの低いよく見かける魔物ならまだしも、高いランクの魔物となれば真偽や判別の確認は慎重となる。動くお金の額が大きいし事の次第では信用問題に発展しかねないから仕方がない。
恐る恐る本と同じぐらい分厚い手袋で触りつつページをめくっては交互に見比べていく。
見物人であるリヒトさんらも息を呑んで緊張感溢れる場を見守っている。それに感応してないのは俺とマシロとクロエぐらいだ。
周囲の重苦しいひと時を他所にマシロが欠伸堪えつつつぶやく。
「別に双頭竜とかじゃなくてもいいよー。所詮どいつもこいつもデカいトカゲっしょー」
「くくく、変わりなき有象無象の爬虫類。ユニヴァース無きジャイアントキリングの手軽なハント」
「ドラゴンを雑魚認定するのも出来るのもお前らぐらいなんだからそういう事言わないの」
「正確に言えばクロエぐらいよほぼワンパンKOで楽勝なのー。私だと少し手こずったわよ確実にー」
「……少しなんだ。倒せるには倒せるんだお前もピンで」
この世界のSランク冒険者だって命懸けで討伐するような存在だというのにつくづく出鱈目すぎんだろ君らさ。
などと他愛ない会話してると緊張に顔が強張ってる職員の一人が俺らの所へやってきた。
「確認完了しました。現在ある資料と照らし合わせみたところ、ほぼ双頭竜と見てよろしいかと」
「そうか。では双頭竜ということで話を進めていこう。もし再度確認するなら王都ないしそちらの総本部から応援を呼んで立ち会ってもらうことにする。ギルドマスターもそれでよろしいか?」
「えっ、あっ、はい私も異存はありません。ひとまずはそれでお願い致しますわ」
頷くヒュプシュさんは報告に来た職員に双頭竜引っ込まれた後に皮膚や体液が付着した布の回収を慎重に行うように命じていた。
血肉や骨などアレコレ買取不可能だが付着した一欠片や一滴ぐらいならなんとかなるという魂胆だろう。それはいいけど買う奴はそんなの何に使うんだろうねえ?
疑問はさておき次は双頭竜以外の魔物のチェックだ。
この場で確認からの即解体即買取査定とはいかないが報告がてら実物確認はやるに越したことはないのでね。
馬鹿正直にダンジョン内で解体と素材回収してたの十三階層目までで以降はそのまんまボックスに放り込んでたからな。確認という意味では一目見れば分かる状態はありがたいだろうが解体ともなれば過労死待ったなしコースだよな。
とりあえず今日は何が出てきたかの確認してもらって、宝箱の中身と最初の階層分のドロップ品の査定ぐらいやれれば御の字ではなかろうか。
初手で双頭竜で度肝抜かれたからか、見物人らは次は何が出てくるのかという好奇心を覗かせる余裕が見受けられた。アレの後だと確かに耐性はつきそうだよね。
無言の期待に応える。というわけではないがギルドマスターに頼まれてマシロとクロエはアイテムボックスの中に手を突っ込みだす。
「えーじゃあ階層順から出してくねー」
そう言って適当に地面に放り投げだした。いきなり雑にお披露目開始したことに慌てたギルド関係者らが地面に落とされていく品々を拾っては纏めていき確認していく。
一時間半ぐらい経過して概ね出し終えた。で、以下はまず階層一桁目で出たやつだ。
ダンジョンゴブリンx二四三、ジャイアントボーンラビットx二一〇、リトルミノタウロスx九〇、ゾンビファイターx一〇八、化物大ムカデx一一〇、泥ゴーレムx九七、クロウラースライムx七七、ダンジョンイエティx五九、グレートビックラットx一三二。
DからB相当の魔物の羅列に加えて通常より桁が違う数をお出しされたヒュプシュさん達はその都度絶句してしばし呆然としては我に返り作業再開というのを繰り返し、リヒトさん達や警護担当の兵士らは普段見ないような光景に唖然として立ち尽くしていた。
これがまぁ序の口であることをすぐさま思い知らされるわけでこの場の面々。
次にカウントされたのは十階層以降で出たやつの前半。
リザードマンx九八、アイアンゴーレムx八七、ダブルヘッドドックx一三四、ダンジョンオークx一一二、レッドウルフx七七、斧手モグラ(手が大斧になってるモグラ系魔物)x三五、、ゴブリンナイトx二三、大土蜘蛛x三三、サーベルウルフx四九。
万国共通認識なB認定クラスの魔物の数々。現在解放されてるダンジョンでは最深部で出会うか否かぐらいの奴らがこれほどまで出てきてたという事実に周囲のざわめきが強くなる。
そしてこれ以降に出されたやつがある意味本番である。
顔が半分吹き飛んでるマンティコアの死体が出てきた瞬間、場は一瞬凍り付いた。リヒトさんやヒュプシュさんには事前に「SだけでなくAも出た」と最低限伝えてはいたがそんな彼らも驚愕のあまりしばし無の表情となる。
マンティコアx五、バイコーンx八、ビックアイアンゴーレムx四六、ゴブリングレートナイトx三四、一つ目オーガx四七、サイクロップスx二九、ギガサイクロップスx一〇、ドラゴンタートルx三七、ファイアーバジリスクx四一、キマイラx二四、キマイラ(タイガーヘッド)x一、スコーピオンスパイダーx一七、四つ手トロールx二四、ダンジョンポイズンサーペントx七。
Aないし辺境地域やその地での被害状況次第ではS扱いされるであろう魔物の羅列に誰もリアクション出来ずにいた。
カウント担当の職員らも最後辺りは呂律が回ってなかったし終わると同時にその場に座り込んで衝撃のあまり虚ろな目をして天を仰いでいる。多分「夢か?夢じゃないのか?」とか言いそうな感じのやつ。
警備担当の兵士達も途中から職務も忘れて魔物の山を凝視しており終わったというのに立ち尽くす有様である。
「…………ダンジョンの外に出てこられたらココ終わるわこれ」
しばしの沈黙の後、ようやくヒュプシュさんが絞り出すかのような掠れた声でつぶやいた。その顔には冬場にも関わらず冷や汗が幾つも伝っていた。
ダンジョンマスターの率直なコメントに同意してるのか周囲も無言で頷きあっている。リヒトさんら地元貴族組の妻子も異様な光景と空気に不安そうに顔を見合わす羽目になってる。
大量の高級素材と目される物が積みあがってる光景に喜ぶ空気ではない。
俺ですら改めて魔物の姿と数を確認して「よく生きて帰れたな俺」と心底思ってしまったよ。王都の最難関ダンジョンに勝るとも劣らないじゃないか住み着いてる魔物が。そりゃこんな重い空気にもなるわ。
これに加えてこれから宝箱の中身をお披露目と報告せにゃならんとは。
こっちは純粋に金銀財宝だし事前報告してた剣と比べたらパンチ弱いから衝撃度合い低いだろうから大丈夫。と思いたいなぁ。
でもとりあえずこの場の面々が茫然自失から立ち直るのを少し待つしかないか。
周囲の空気など完全に無視して数え終わったものを雑にアイテムボックスに放り投げて仕舞い込むマシロとクロエの姿を見ながら俺は腕を組んで困惑の唸り声を上げるしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます