第55話交流x格闘技大会(人集め)


 リヒトさん達から快諾を貰ってスポンサー確保した次の日、俺は執務室の机の前で腕を組んで考え事をしていた。


 スポンサーは今回これでよかろう。会場設営も今日明日にでも軍内で設営訓練ということで招集かけてもらって始めるとしよう。


 次はそれ以外の人集め。


 選手は部族部隊からも何名か出てもらう交流的に考えて。ならばこちらも軍内から数名出すことにはなるが物好きな奴は一定数居るだろうから問題はないな。


 あとは冒険者からとか一般人枠とか、名目なんでもあれば選手には事欠かないなうん。優勝賞金気前よく出せば絶対くるだろうし。


 となるとあとは大会運営の人手になるか。


 警備は兵士にやらすとして、それとは別に会場の混雑を裁く係、案内や清掃などの幾つもの係も欲しいところ。あと会場外でやるつもりの屋台村のとこで見世物やりたいからそれ出来そうな奴探さないと。


 格闘技大会だからレフリーと実況と解説も必要だな。あぁそれと当日券販売や物販販売もか。


 お金扱う系はリヒトさん達のとこから借りるか。会場内外の雑務も高額報酬掲げて応募すれば集まるだろう。レフリーもまぁルール頭に叩き込ませれば大丈夫か。


 実況に関しては少し考えがある。とりあえず口が上手く回る奴を州内で募集かけてみるのだ。


 四十五万以上も人がいれば口達者な奴もそこそこ居る筈。そいつらのアドリブ力をテストしてみて合格した奴を実況アナウンサーに仕立て上げるつもりだ。


 無論、今後の起用も考えて性格や素行面も審査基準にいれる。ゆくゆくは司会という専門職の先駆けになれるかもしれんからしっかり見極めないといかんな。


 とまぁその辺りの地味なとこはどうにでもなるけど、アトラクションとか解説やれるような奴ってどうしたものかねぇ。


 募集のビラ原稿を書き上げ、それを傍に控えていた担当役人に渡しつつ俺は思案に暮れていた。


 旅芸人の一座を幾つかスカウトして各々で芸を披露するだけでも見世物としては成り立つがもうちょいパンチ欲しいところ。メインを喰う程ではないが、会場に入りきれない客を楽しませる催し物。


 俺は前世での日本のイベントの数々を思い出しつつ、ここでも問題なくやれそうなものはないかと探してみた。


 結論として浮かんだのは大人数使った曲芸じみたダンス。サーカスとか某有名遊園地で催されてるような派手なアクションのあるやつだ。


 何故それを選んだかと言えば、人選にちょうど心当たりがあるからだ。


 俺は呼び鈴を鳴らして部屋の外に控えていた従者の一人に使いを頼んだ。ある人物を呼んできてもらうのだ。


 場所は冒険者ギルド。クエストに出てないか出てても日帰りだろうから呼ぶのは難しくはなかろう。


 やる事はまだまだあるのだから善は急げだ。





「それで、伯爵様は私達、というより私を御呼びになられたわけですか」


「あぁそうだ。私兵部隊や冒険者としてより一個人として仕事を頼みたい」


 一時間後、執務室の机の前に緊張した面持ちで立っているのはサンダーショットティームの面々。中心に居るのはリーダーのゴウロウではなく踊り子のバンであった。


 身近に専門職業としてダンサーやってる奴が居る事がこんな形で功を奏するとはな。冒険者パーティーとしてはともかく部隊としては出番少なさそうな職業だったしな。


 俺はまず趣旨を手短に説明した。なにせ思いつきからのスタートなのでまだ一部有力者や官員しか知らないのだから。


 格闘技大会とそれに連動する規模の大きい祭りを開催する話にゴウロウらは驚きを隠せずにいた。祭りそのものなら遭遇したことあるだろうが、精々村祭りレベル。節令使自らが主催ともなれば桁違うぐらい容易に想像できた筈。


 しかもその一環である催し物の責任者に自分のメンバーが添えられるということで重圧すら感じて若干青ざめだしていた。


 だが、その中でバンのみが頬をやや紅潮させて目を輝かせている。


「おぉ、素晴らしい。もし上手くいけば数千人、いやそれ以上の人々が観てくれるものになるのですか」


「そうだな。二日間開催するし、内容次第では一日に複数回やることになるだろう。州都内の住民全員に観て貰うぐらいの覚悟は持って欲しい」


「おぉ、おぉ……!踊り子を志して十数年。今のような日々も悪くはないですが、男でこのような道を選んだからには一度は夢見る晴れ舞台!しかも単身で見せてきた身が中心となって同じ踊り子らを率いるとは一生に一度の好事!!」


「実際会場を大まかに下見した上でどれぐらいやれるか確認せねばなるまいが、少なくとも三、四十人は舞台に立つぐらいの規模にはしないとな祭りの注目集めるには」


「節令使様是非ともやらせてください!リーダーもお願いします、私の一生に一度の我儘をお許しください!!どうかお願い致します!!」


「お、おうバンがここまで熱くなってるの初めて見たぞ。踊ってるときですら冷静さを保って周りをみるような奴だってのに……」


 仲間の異様な興奮状態に戸惑いをみせつつゴウロウが他の仲間の方を振り返る。


 他の仲間らもバンの思わぬ一面に面食らっていた。それもあって彼の熱意に押される形でメンバー全員が今回の仕事を引き受けることを承知することとなった。


 バンは踊りそのものは当然ながら踊り子のスカウトや指導それに集団のリーダーとしての仕事も行う激務となる。なにせ一か月半でそれら全てをやってもらうのだから。


 踊りに関しては俺は素人なので、ほぼ彼にダンスの創作をやってもらうことになる。


 それに人だってこれからだ。


 ある程度は俺の名前を出せば州都内の酒場で働く踊り子らを集めることが出来るだろうが、足りなければ運動神経良さそうな奴を引っ張って即席ダンサーにしなくてはならない。


 そんな混成集団を纏めながら素人でも短期で覚えられつつ大勢に魅せられるような踊りを考案してすぐさま練習に入らなければならないのだから、普通なら断る案件だろう。


 しかしバンはそれらを改めて言われても動じなかった。緊張はしていても怖気づいてしまうことなく興奮に顔を赤らめて大きく頷き続けていた。


 ゴウロウらにはそんな彼の補佐や世話をしてもらうことになるだろう。熱意はあるのはいいがあの調子だと倒れるまでやり続けそうだしな。


 なので当たり前だが一時的に私兵部隊としての役割は免除。冒険者業もこちらからギルドに通達して融通利かせてもらうことにした。


 ランクによって違い生じるが、定められた期間内にギルドへの顔出しやクエスト請け負わない場合罰則が待っている。投獄や死罪は司法の管轄なのでギルド単独で一番重いのは資格剥奪だ。


 かといってそこまで厳しい掟ではなく、事前に理由を報告しておけば年単位とかでない限り許される。余程でない限りは受理されるので今回のケースも当然そうなるだろう。


 彼らの当面の収入の面倒は私兵部隊所属として支払う分を幾らか割り増しにすれば問題もないので、バンらには仕事に専念してもらいたいところ。


 とりあえず練習場として適当な空き家を調達と当座の活動資金を幾らか渡すぐらいか俺が今出来そうなのは。


 あとはたまに様子見したり報告聞いたり、足りなくなった資金の補充受けたりぐらい。基本的に成果を見守るしかないだろう。


 さて果たして上手くやってくれればいいんだけど。





 などとこの十日間で起きた事を振り返りつつ俺は工事現場を見物していた。


 スポンサー集め、人集めとあちこちに声かけて準備させてとやってきている。目の前で行われてるやつだってその間に始まってこうして組み上げられてる。


 部族の面々らと兵士らは同じ現場で働きつつもまだ一緒に何かを成すにはギクシャクした空気があった。


 互いのとこで愚痴とも戸惑いともいえる反応見せてる程度で済んでるのは、節令使の俺が企画発案者であり主導してるというのもあるが平成のスキルのお陰もある。


 アイツの魅了スキルは効かない奴が周りに居るからイマイチに思えるが何気に役に立つのだ。伊達に神っぽいのに呼ばれてこっちに来た召喚者じゃないね。


 初めての顔合わせのとき、アイツが間に入りスキル発動させつつ平身低頭して挨拶まわりをしたので兵士側も必要以上に敵愾心や侮蔑を出さずに「まぁ一応よろしく」と態度を軟化させてくれていた。


 初対面の印象は大事だ。共通の目的に向かって共通の作業をすればたちまち連帯感が生まれるとかいう戯言なぞ信じてないけど、少しずつ仲間意識深まる地ならしにはなってると思いたいとこ。


 モモと共に現場見回りしてるのだって、単に彼女のお付きだからというだけではなく定期的にスキル振りまいてマイナス感情緩和に勤めてるからだ。


 うん、なんか外交とか調略とかそういう人間関係系のときに役立ちそうじゃないか。内心糞ステ呼ばわりしてたの訂正してあげないとなぁ!


 考えが行動に出てしまっていたのか、隣に立ってた平成の肩に無意識に手を置いていた。


「……こんな調子でこれからも頑張って欲しいな」


 俺の発言に平成は顔を顰めた。


「リュガさん、僕ぁ自他ともに認める糞ステ持ち主なんですから分相応な生き方したいんですけど?具体的に言うならそこそこチヤホヤされつつニートをしたいっす」


「何を言ってる。お前さんのスキルは使い方次第ではその辺の奴よりも役に立つから今後とも活用させてもらうぞ」


「使う機会あるってことは、引きこもり志望らしいっすけど、万が一危ないことやる場合あってそれの巻き添えくらうってことですか。すっげー嫌なんですけど」


「安心しろ報酬は弾む。精々余生の安楽の為のお金稼げよ」


「そういう話じゃねーと思うんですけど!?」


「五月蠅いぞヒラナリ。役に立たないよりかは役に立つ方がいいではないか。役に立つ上に厚遇もされる立場の何が不満なんだお前は」


「モモさんみてーな人には理解出来ないやつですよ!」


 そう嘆いて頭抱える平成と頭に「?」浮かべて真顔で小首傾げるモモを見ながら俺は苦笑を浮かべた。


 不幸な事故みたいなものでこんなところに来てしまったのだからせめて平穏に過ごしたいと願う気持ちはわかる。誰だって思う俺だって思う多分。


 平成が危惧するとおり今後危険を伴う出来事が生じてそれを終息させる為に動く可能性もないとは言い切れない。こんな世界のこんな情勢だから不安感じるよ普通。


 しかしあれだよ君、基本的にここに立て籠もるんだから魔物はまだしも対人でヤバイこととか早々無いだろう。


 ……ないよね?


 自分で言っておいて一抹の不安が過ったが、慌てて打ち消した。今はそれより目前の事の成功に集中だなうん。


 ひとまず現場が問題なくまわってることを確認した俺はモモと平成に引き続き監督を頼んで立ち去ることとした。


 戻ったら平常業務が待っていることだし、なにより残暑がまだ厳しいから暑くて堪らん。


 熱中症対策に小まめな休息と水分補給も言い含めてるとはいえ、もう少し涼しくなれば作業効率上がりそうなものだがな。とか考えつつ俺は州都庁へ向かって歩き出した。


 街の中心から外れてるとはいえ徒歩十数分もすれば州都庁なので俺やマシロとクロエは珍しく徒歩である。


 後ろから随行してくる護衛や従者らの気配を感じつつ歩いていると俺の隣を歩くマシロが声をかけてきた。


「ねーねー、この十日間で色々決めてるけどさー、肝心の選手集まりそうなのー?」


「さてな。賞金目当てや腕自慢目的でどんだけ集まってくるか未知数だな」


 素っ気なく返す俺にマシロとクロエが軽く目を瞠る。


「あら意外ー。もうちょい不安感じてるかと思ってたわー」


「くくく、自暴自棄自縄自縛の虚勢の陽炎なノスタルジー?」


「違うわ!あれだよ、最悪軍内から適当に選べばいいって考えてるだけだよ。素人さんに過度な期待はしない方が精神衛生的にイイからな」


 靴先で小石を蹴り上げるつつ俺は二人に語る。


「あくまで主目的は交流なんだよ。興行は上手くいけばいいなぐらいのやつなんだから」


「金出す以上慈善事業じゃねぇよ。とか言ってたくせにー?」


 その考えは変わってない。やるからには利益や結果は求めるさ。


 しかしその内容がちとばかし違う。短期的な利益か長期的な利益かだ。


 親睦深めていき、やがて交流が当たり前になっていき、その当たり前が当たり前という認識がなくなるほどに身近な存在になっていく。


 そうなればアンゴロ・エッゲ県の再開発も安心して出来るし、こちらにとって未知の領域な大山脈内の進出だって出来る。そこから生じるもの次第ではこの地の発展に貢献するものがあるかもしれない。


 随分と気長に構える必要があるけど、一歩目踏み出さないと進めもしない。これがその一歩になれば最低限の成功なのだから。


 勿論、大会そのものが繁盛して今後の名物行事になればそれはそれでありがたい。


 成功率高める為の手間は惜しむべきではないとはいえまだ募集始めたばかりだしどうなるかなんて知らんがな。


 とかなんとか話をした俺にマシロとクロエは素直に感心したのか、はたまた綺麗事しつつ現実的な益を求める俗さに呆れてるのか黙って頷くのみである。


「へー、まぁ頑張ってみたらいいけどさー、選手とかともかく解説者辺りどうにかできるのー?」


 先日実況アナウンサー募集の話をしたことを思い出してるのかそんな問いをしてきた。


 うぅむやはり気になるよなそこは。


 正直人手で一番微妙なのそこなのだ。


 目の前の事をありのまま喋り倒す実況はどうにか出来てもだ、誰がどんな格闘をしてどんな技かけるとかなんてある程度知識ないと出来ない芸当だ。


 しかも実況程ではないにしろトーク力求められるともなれば割と難易度ある。それなければ私兵部隊からターロンやシン辺りにやらせる選択肢だってあったというのに。


 念のために駄目元で彼らに訊ねてみたものの。


「いやぁ坊ちゃんそれは勘弁ですな!私は戦場で剣を振るって相手を叩き斬るのは得意ですがね、人様の戦いに関してアレコレ偉そうに口を出せる程博識ではないのですよ」


 ターロンはいつものような豪快な笑い声をあげてキッパリ断ってきて。


「申し訳ありません節令使様。戦いや体術に何か一言申せはしても、大勢の人の前で話すというのはどうにも苦手なものでして。出場して優勝してこいと命令されるほうがまだ出来そうではありますが……」


 シンらウルトラコルポの面々は露骨に困惑と恐縮を顔に浮かべ何度も頭を下げながらも拒絶の意思を示した。


 無茶ぶり承知してるので俺は特に不快に思わず彼らの言い分を飲むしかなかったのである。


 いっそアナウンサー募集の奴に短期間で無理矢理知識叩き込むとか、募集要項に「格闘技知識持ち」入れるとかも考えてみたけどあまり現実的でなさそうなのでひとまず没にした。


 開催までまだ一か月ちょっとあるからまだ慌てるような時間ではないとはいえ、早く見つかるに越したことはないのだ。


 居るもんかねぇそう都合よく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る