第247話二人のマーモ皇帝
突然現れた男――マーモ皇帝にアルガスは顔を青くする。
「どうしたのですか、アルガス宰相。顔色が悪いですよ?」
アルテミス女王が震えるアルガスに声を掛けた。
「まったく見かけないかと思っていたら、いまさら顔を出して。元気そうだな?」
アレス王が気さくにマーモ皇帝に話し掛ける。
「ちょっと前までは毒殺されかけて指の一本も動かせなかったがな、今はこの通りピンピンしてるよ」
マーモ皇帝はそう言うと身体を動かして見せる。
「てめぇがおねんねしていたせいで国際会議も進まなかったんだ。責任取りやがれっ!」
「それに関してはすまないが、今後の対応で償わせてもらうよ、バチルス」
マーモ皇帝は交流のある王族に一通り挨拶をするとアルガスを見た。
彼が登場していらい、顔を伏せ黙り込んでいたアルガスに冷めた視線を向ける。
「さて、俺がいない間随分と好き勝手をやってくれたようだな、アルガスよ」
皇帝の席に座り、ひじ掛けに右腕を降ろし拳をアゴへとつける。
その仕草は様になっており、誰がこの椅子の持ち主か周囲に知らしめた。
「それで、俺がいない間にこいつが行った政策や発言だが、どんなものがある?」
「はい、民衆への増税に、納税を怠ったものへの罰則の強化。他にも私的に探索者を雇ってダンジョンを荒らしまわっております」
後ろに控えていたミーニャが書類をめくりながらアルガスの行った罪を読み上げていく。
「何か申し開きはあるか、アルガス?」
つまらないものを見るような目をしたマーモ皇帝の問いかけに、アルガスはようやく顔を上げた。
「くくく……そういうことだったか……」
「気でも触れたかアルガス?」
「いえいえ、私はまともですよ。マーモ皇帝陛下」
「自国のトップを前にその態度がまともだと言えるの?」
ルナがぼそりと呟くと、アルガスはその言葉を拾い笑みを浮かべた。
「私はこの身をブルマン帝国に捧げておりますからな。もちろん皇帝陛下に忠誠を誓っております。……あなたが本物ならねっ!」
「ど、どういうことなの? アルガス宰相」
アルテミス女王は困惑するとアルガスに質問した。
「実は、皆さまを混乱させまいと情報を伏せておりましたが、マーモ皇帝は既にこの世にいないのです」
「「「「「!?」」」」」
アルガスから語られる新たな事実に全員が息を呑んだ。
「病に臥せっていたのは本当の話です、だが、マーモ皇帝は先日意識を取り戻すことなくとうとうお亡くなりになられていたのです。そうだなっ!」
アルガスは振り返ると部下へと確認した。
「は、はいっ! 我々も確認しており、宮廷医師の診断もあります!」
実際に検死に立ち会っているのだから事実である。
「だ、だったらそこにいるマーモ皇帝はなんなのよ?」
アルテミス女王の言葉にアルガスは頷き答えた。
「恐らくは……偽物でしょうな」
「ばかな、俺とアレスは昔からマーモを知っている。こいつが別人なわけねえだろ」
魔王バチルスの言葉にアレス王は頷いて見せた。
「大方、そこの自称皇女を担ぎ上げるために誰かが用意したのでしょう。私から不用意な発言を引き出すつもりだったのかもしれませんが、見ての通り清廉潔白の身。いくら叩かれようとホコリもでませんが」
アルガスはそう言うとエリクとイブを見た。
「なんでしたら、そちらの皇帝に御質問下さい。旧知の間柄であればお互いしか知らない秘密もあるでしょう? 私はその間にマーモ皇帝の死体が確認できるようにさせます」
「ま、まあ、宰相殿がそういうのなら遠慮なく……」
「どう見ても本物だが、聞いてみるか……」
自信満々なアルガスの様子にバチルスとアレスはマーモへと近づいた。
「さて、そこの小娘に小僧。これで形成逆転だな」
アルガスは満面の笑みを浮かべるとイブとエリクへと近づいた。
「短期間で偽物を用意し、ミーニャを擁立しようとしたところまでは褒めてやる。私の部屋を順番に訪れたのは計画を悟られないためだったのだろう?」
「いやだなぁ。宰相さんをからかうのが楽しかったからですよ」
「なんのことですかね? 僕にはわかりかねますが?」
アルガスの顔に青筋が浮かぶ。
「マーモ皇帝は原因不明の病で臥せっていたのだ、あの状態から短期間であそこまで元気になるわけがない。私を嵌めるためならばあの偽物に毒でも飲ませておくべきだったのだ」
それこそが、アルガスが偽物と断定した理由だ。
ドリブカドから抽出される毒は効果が弱いものの、中毒性が高い。最後に本人を確認してから一週間も経っていないので、元気に動き回れるはずがないのだ。
「じきに結果が出る。あのお二人との記憶に矛盾があればそれは偽物ということだ。なりふり構わず詐欺を働いたということは、宝物庫から盗難をしたのも貴様らだろう! 偽物共々処刑してくれるっ!」
ほどなく、兵士が戻ってきた。
「アルガス様、皇帝陛下の御身をお持ち致しました」
「そうか、この場へと運びこめいっ!」
棺が運び込まれてくる。そこには確かに、さきほど見たマーモ皇帝と同じ顔をした男の死体があった。
「間違いなく息を引き取っております」
目の前で検死官が腕を取り、脈がないことを確認する。
「決定だ! 死刑決定だ!」
唾を飛ばし半狂乱になるアルガス。エリクたちの策を見破り、これまでの罪をすべてなすりつけるところまできた。
邪魔者を排除し、自身の明るい未来を確定していると……。
「なぁ宰相さんよ」
「はいなんでしょうか!」
バチルスに元気に返事をする。
二人は困惑気味にアルガスを見ると、
「こいつ完全にマーモだぞ?」
「ふぇっ?」
首をコテリと直角に向けると思考を放棄するのだった。
※話が進んでいるようで進んでなくて申し訳ないです
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