第242話責任追及

「これはどういうことですかな?」


 非難の声が室内に鳴り響く。


「はっ、それに関しては何とも言い難く……」


 アルガスは大量の汗をかきながらしどろもどろになっている。


 ここ帝国では急遽国際会議が開かれていた。


 現在、帝国にはアルカナダンジョン攻略を祝した宴が開かれるため、各国から人が集まっている。


 円卓の席はすべて埋まっており、各国の代表はアルガスに向けて厳しい視線を送っていた。


「聞くところによると帝国の金庫に保管してあったアルカナダンジョン攻略の財宝とアルカナコアが盗まれたとか? この責任はどうとるおつもりか?」


「ぐっ!」


 普段から取るに足らない弱小国と見下していた国の代表に糾弾されアルガスは拳を強く握る。


「まあ、落ち着きなさい」


 アレスが口を開く。


「で、ですが!?」


「盗まれたのはアルカナダンジョンの財宝だけではない。帝国の財産の一部もなのだ」


 帝国が管理する金庫は一つではない。全部で十ある金庫の内一つが空っぽになっていたのだ。全体的な比率でいうなら今回被害にあった額はアルカナダンジョンの財宝よりも帝国の財産の方が多いぐらいだ。


「それこそ露骨ではありませんかっ! 大体それだけの財宝を厳重な警備と魔法陣を潜り抜けてどうやって盗むというのです! これまで帝国は一度も金庫破りを許していないという話でしょう!」


 どの国も自国の財産に関しては徹底した管理をしている。アルカナダンジョンが保管されているタイミングでそれが破られるというのはあまりにもタイミングが良すぎる。


 各国の代表は内心では帝国が盗ったのだと思っていた。


 アルカナダンジョンの財宝だけを盗み出しては疑いが強くなる。なので被害が出ているとアピールすることで外部の犯行と思わせたと。


 全員の視線がアルガスに集中している。本人もこの弁明が苦しいとわかっているため言葉を発することができない。


「とにかく、この場は解散にしましょう」


 これ以上は時間の無駄だ。アルガスを糾弾したところで財宝が戻ってくるわけではない。


「アルガス宰相には引き続き調査を続けてもらうとして」


「はっ、必ず賊を見つけ出して見せます」


 アルガスはほっとすると顔を上げ頷いて見せる。早くこの会議の場から立ち去りたい一心で。だが、アレスは言葉を続けた。


「もし見つからない場合は責任を取ってもらう必要がありますから皇帝にも話を通しておくように」


「あっ……うっ……」


 この場の、モカ王国にアナスタシア王国、シルバーロード王国にアトラス魔国。それぞれの国家はアルカナダンジョン攻略に人を出しているので発言力が違う。


 アルガスは彼らの視線を受けてゴクリと喉をならすのだった。


          ★


「見てくださいマスター。宰相さん顔が真っ青ですよ」


 イブはやたら嬉しそうに画面を指さすと宰相さんの情けない顔を見て喜んでいる。


 僕とイブはゴッド・ワールド内から会議の様子を覗いていた。


「イブはやたらと宰相さんに絡もうとするけど、そんなに気に入ったの?」


 最初からイブの宰相さんに対する態度は他と違っていた。僕は子供じみた振る舞いをするイブに疑問を抱いた。


「はい。イブはマスターと敵対した人間が不幸になって当然だと思ってますから。宰相さんの苦悶の表情はとても見ていて飽きません」


 宰相さんの不幸がそのままイブの機嫌になったかのような満面の笑み。


「それにしてもやりすぎだと思うんだけどなぁ」


 僕はイブに命じて帝国の金庫からアルカナダンジョンの財宝を回収させた。


「いいんですよ。このぐらい派手な方が。お蔭で宰相さんは余裕がなくなったじゃないですか?」


 僕の目論見通り宰相さんは必死な形相で部下へと指示を飛ばしている。あれではミーニャさんに何かをするどころではないだろう。


「これで少しは盗まれる側の気持ちを理解してくれるといいんだけどね」


 特製ソファーに身体を預けると溜息を吐く。


 今回、帝国の金庫を破りはしたが、それはアスタナ島で盗まれたアイテムの代金を徴収しただけに過ぎない。僕の方はやり返しただけに過ぎないので罪悪感はない。


「無理ですよ。今だってどうやって逃れようか考えている悪い顔をしていますし」


『くそっ! こうなったら誰か適当な奴に罪を擦り付けて犠牲にするか』


 ちょうど宰相さんの声が聞こえてくる。


「ほらほらっ!」


 宰相さんがゲスなのを見てイブは僕の肩を叩いて嬉しそうだ。


『駄目だっ! 犯人をでっち上げたとして財宝が出てこなければ結局は同じこと』


 こんな状況だからか宰相さんは頭を回転させると……。


『とにかく私は一度現場を見に行く! お前たちはその間に容疑者を洗い出しておけ!』


 部下を連れて金庫へと向かった。


 僕はそんな宰相さんの映像から視線を外すとイブを見つめる。


「ん。どうしましたかマスター?」


「それで、例の解析は進んでいるんだよね?」


「はい。あと少しで終わる予定です」


 現在、僕はイブに命じて新しく手に入れたアルカナコアを解析させていた。


「そうか、それは良い知らせだ」


「マスターは引き続きミーニャさんのケアをお願いしますね」


 なんだかんだでミーニャさんを気に入っているのかイブは彼女を気にかけていた。


「わかったわかった」


 僕はそう言うとゲートを開くと帝国で自分に用意された部屋へと戻って行くのだった。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る