第181話野外料理
「うーん、あと少し味付けした方がいいかな?」
大鍋からお玉でスープを掬って味見をした僕は、もう少し濃いめの味付けをするか悩む。
「運動したら味の濃い物が食べたくなるし足しておくか」
少し悩んだ末に、市場で買っておいた塩を入れて味を調えた。
「おっ、旨そうな匂いがするじゃないか」
味に満足して煮込んでいると、部下に指示を終えたガイルさんが様子を見にやってきた。
「ガイルさん。どんな感じですか?」
鼻を引くつかせているガイルさんに僕は質問をする。
「騎士連中は森の奥に入り込んでいるから戻らないが、兵士や戦える街の連中は近場でモンスターと戦っているからな。じきに戻ってくるようだぞ」
「ふーむ、ならもっと作っておいた方が良いですね。余ってしまっても街の人達に配れば良いだけですし」
なんせ食材は僕のゴッド・ワールドから採り放題なのだ。ここでケチって作り直すよりは食べきれないぐらい用意した方が皆の腹を満たすことができる。
「しかし、故郷の街に到着して最初にすることが炊き出しとはね……。てっきり俺はお前が剣を片手に飛び出していくものだとばかり思ってたぞ」
ガイルさんは手でアゴを触りながら僕に言った。
「ガイルさんは僕をどういう目で見ているんですかね? 僕だって分別ぐらいつきますから。今僕にできるのはここで美味しい食事を作って兵士や冒険者の皆さんを労うことです」
確かに飛び出して行ってモンスターを倒していれば気がまぎれるだろう。
だが、僕がどれだけ強かろうと個人である以上は倒せるモンスターの数もカバーできる範囲もたかが知れている。
1人ですべてのモンスターを倒すのは普通に考えたら無理に決まっている。
「今回の討伐にはまだ訓練途中の学生も参加している。もしかするとお前の親しい人間もいたんじゃないか?」
本当にこれでいいのか?
ガイルさんは僕の本心を探るように視線を向けてくるのだが……。
「まあ、いますね……。でも大丈夫ですよきっと」
ガイルさんの表情に陰りが見えた。恐らく自分達だけではなく未熟な学生を招集せざるを得なかったことを気にしているのだろう。
だが、僕はあらかじめイブに命じておき空飛ぶマントで先に現場へと向かわせてあった。
彼女ならば僕に代わってミランダやレックスを見つけて守ってくれるに違いない。
その信頼もあって僕はこうしてこの場にいることができるのだ。
「どれ……ちょっと味見をさせてくれ」
「わかりました。今よそいますね」
ガイルさんは騎士団長としてちゃんとしたものが出来たのか味見をするようだ。
僕は皿にスープをよそった。
ゴロリと大量の野菜が入る。皿からは湯気が立ち上り、スープの良い香りが鼻腔をくすぐる。
僕は皿を渡すと「熱いので注意してください」と言った。
ガイルさんは早速スプーンでスープを掬うと野菜を口の中で噛みしめる。
「うん、美味い。何というか……身体の疲れが取れて気力が充実してくるようだ。こんな美味いスープを食った後ならすぐにでも戦場へ戻れそうだぞ」
「でしょう? 僕自慢のスタミナ回復スープですからね」
実際に体力が回復しているはずである。
僕はこのスープにスタミナパウダーとライフパウダー、そしてマナパウダーを投入してある。
戻ってきた兵士や冒険者はここで食事をすることで体力や魔力が回復し、少しの休憩で前線に戻って行くことができるのだ。
戦力を素早く回復させて送り出すことでより多くのモンスターを倒すことができ、早くこの場の安全を取り戻す作戦だった。
「もうちょっとしたら偵察に向かわせた騎士が冒険者たちを連れて戻ってくるから振舞ってやってくれ」
ガイルさんは満足そうな顔をするとそう言うのだった。
「はい、押さないでくださいねー。スープはたっぷり用意してありますから」
あれからしばらくして、前線からたくさんの人間が戻ってきた。
あるものは怪我の治療をするため救護所へと向かい、ある者はガタが来た武器防具を手入れしなおしている。
そんな中、炊き出しの噂が広まったのか徐々に人が集まってきてこのありさまだ。
「くぅ~っ! 疲れた身体に染み渡るぜ」
「ああ、本当に生き返るよな」
「スープも美味けりゃ具沢山。こんな豪勢な料理が野外で食べられるなんてな」
地面に腰を落とした冒険者たちから良い評価が聞こえてくる。
僕はそんな彼らを機嫌よく見ていると…………。
「もしかしてエリク?」
「えっ?」
お玉でスープをよそう手を止めると振り返った。
「ミランダ?」
目の前にはマントにローブを身に着けた僕の幼馴染みの姿がある。
「……エリク。お前こんなところで何をしてるんだ?」
「レックスも」
僕は2人の姿をみてほっと息を吐く。イブからは2人がいるパーティーを救出したと連絡を受けていたのだが、こうして無事な姿をみると堪えていたものがこみあげてくる。
「す、すいませんっ! 誰か給仕を変わってください」
僕は慌てると近くにいた兵士さんにお玉を押し付けるのだった。
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