第157話ダンジョン運営反省会

「ふぅ。とりあえず最初の実験は上手く行ってよかったよ」


 あれから、店じまいをした僕はワールド内に戻るとイブと反省会を開始した。


「半日の稼働で得られたSPはモンスターと探索者さんの合計で830ですね」


「うーん、微妙だな」


 僕は眉を寄せるといまいちな成果に落胆の声を出した。


「微妙? 普通このクラスのダンジョンなら1日で50SPも得られれば十分なんですよ?」


 イブは首を傾けると僕を諭し始める。


「ランクⅡのダンジョンのわりには良い収入ですよ。コアも結構育ちましたし」


 確かに。C級ライセンス持ちの探索者ならばランクⅡのダンジョン攻略は余裕だろう。そういう意味ではあがりとしては上々なのかもしれない。


 問題は……。


「僕がかかりっきりだと意味がないんだよね」


 それならば僕が最初からダンジョン内に引き籠っていれば済むはなしなのだ。


 時間の無駄ではあるが、薄暗いダンジョン内で本でも読みながら時間を潰せばよいだけだ。


「でもそれはマスターが凄すぎるだけです。普通のダンジョンなら最難関でもない限りはそう簡単に稼げないんですからね」


「せめて入り口だけでも固定できればな……」


 ダンジョン内のアイテム設置をランダムにして、モンスターを適当に放り込んでやれば次第に美味しいダンジョンと認知されていくはずなのだ。


 そうなればダンジョンに張り付く探索者も増えてくるので、最小の労力で最大の効果を得られるはず。僕がそんな言葉を口にしていると……。


「できますよ。ダンジョンの入り口を固定すること」


 イブは可愛らしい仕草で頬に指をあてるとそう言った。


「……説明してくれ」


「ダンジョン管理のオプションの一つに入り口を固定させるものがあります。これを使えばマスターが離れていても問題なく探索者さん達が出入りできますね」


「それなら早速――」


 僕が指示を出そうとすると、イブは指を一本立てると顔を近づけて話を続けた。


「ただし、入り口の設定にはSPを1000消費します。しかも固定してしまえばダンジョンを攻略されるまでは外せません」


 続く言葉に僕は出かけていた言葉を止める。それから少し考えたのちに頷くとイブに確認する。


「なるほど。自動化できるメリットはあるけど、コアを取られると終わりという制限が付くわけか」


 SP収入を得やすいのは確かだが、探索者の人数をコントールできなければ短期で攻略されかねない。すると入り口を作ったSP分を損する可能性が高い。


 実際、ダミーコアを出さなければ探索者達はコアを探し続けるだろう。そして見つかってしまえばそこで終了だ。


「そうです。イブ達の目的はコアを育てた上でSPを得ることですからね。攻略されてしまうとSPは得られてもコアが奪われてしまって大した利益にならないですから」


 イブの指摘の通り。せっかくSPを払って入り口を固定したところで、回収前に攻略されたら赤字になる。


「と言うわけで、SP収入がそれほど増える訳でもなく確実性に欠けるので止めておいた方が良いと思うんですよね」


 確かにギャンブル性が高いのは間違いない。

 あえてやる必要がない理由を並べると、イブは僕の顔を覗き込んできた。


「マスター?」


 返事がないからなのか瞳を大きく開いて僕に話しかけてくるイブに。


「そうだね。今のままだと確かに無理だな」


 口の端を吊り上げつつそう答えた。

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