第138話アルカナダンジョンの所在
ぺらりと紙をめくる音が聞こえる。
薄暗い室内からは図書室特有の本の臭いが漂ってくる。
紙をめくる音意外を一切排除したこの空間はどこかザ・ワールドに似ていると僕は思う。
この場に一人だけということもあって、自分の世界に没頭できるのでそう思うのかもしれない。
机の上に積み上げられた本はどれも持ち出し禁止の書物で、アルカナダンジョンについて書かれているものだ。
ここは王城の図書室、それも閲覧可能者が制限されている機密書が置かれているフロアだ。
僕は、アレスさんから閲覧許可を得てこの部屋に入った。それというのは……。
「ふぅ……これで7つ目のアルカナダンジョンの場所が見つかったな」
アルカナダンジョンについて調べるためだ。
アカデミーの図書館にも籠ったのだが、あそこは学生が利用している為、そこまで情報が詰まった本が置かれていなかった。
僕はイブが解析をしている間に多くのアルカナダンジョンを調べておくことで、将来攻略するアルカナダンジョンの順番の計画を立てるつもりだった。
「やはり仲間は必要みたいだな……」
僕は重要な部分をメモしたノートを見ると考える。
現在攻略されているアルカナダンジョンは二つある。
一つは僕が半年前に攻略した【ⅩⅦ】の刻印を持つダンジョン。
もう一つはセレーヌさんの祖先が攻略した【Ⅶ】の刻印を持つダンジョン。
本を読む限り【Ⅶ】のダンジョンは力押しでは攻略できなかったように思える。
それというのも、ダンジョンによっては複数のパーティーで魔導スイッチで壁を動かしつつ進まなければいけない場所もあるからだ。
流石に僕一人でそこまでするのは不可能だ。いずれにせよ将来は仲間を作らなければならないだろう。
「だけど、そんな危険なダンジョンに付き合ってくれる人間なんてな……」
【ⅩⅦ】を体験した者ならあれがどれだけとんでもない場所なのか理解出来るだろう。
どれだけ入念な準備をしたところで、それをあざ笑うかのように粉砕していく圧倒的な力。
僕だってあの時機転を利かせて【神殿】を強化しなければ危なかった。
ダンジョン内に聖女のセレーヌさんがいない状態で挑んでいた場合、簡単にやられることはないにしても追い詰められていた可能性が高い。
そう考えると優秀な人材が欲しいと痛感した。
「だけど、そんな人材なら当然引く手数多だろうしな」
どの国も優秀な人材を欲している。僕が誘ったところで了承してくれるとは思えないのだ。
「もうすぐ入ってくる新入生を一から鍛えてみるか?」
国中から将来有望な探索者候補が集められたのがアカデミーだ。見どころありそうな学生に話を持ち掛けて鍛え上げるのもありかもしれない。
卒業までみっちりやれば結構な戦力に育つのではなかろうか?
「それが上手くいったとしても9つしか判明していないんだよな……」
言い伝えによると神が人間に試練を与える為に用意したアルカナダンジョンは全部で22となっている。
かつてはその全ての場所が伝えられていたのかもしれない。
だが、その難易度故に挑む者がいなくなり、また、場所が辺境にあるために忘れ去られたダンジョンもあるようだ。
時の流れと共にアルカナダンジョンの所在地と試練の内容は曖昧になり、今では古くから存在している歴史ある国家や神殿などがその場所の幾つかを把握しているだけだった。
「これは他の国の図書室も見せてもらわないといけないな」
近隣諸国、あるいは魔国まで足を延ばす必要があるかもしれない。
僕は物事の規模の大きさとそれをする為の手順を考えていると…………。
「エリク様。そろそろ休憩にしませんか?」
アンジェリカが図書室に入ってきた。
「エリク。勉強は進んでいるのか?」
アレスさんが話しかけてくる。
アンジェリカの誘いに応じて図書室を出た僕は薔薇の庭園に案内されると休憩をとった。
「ええ、お陰様で。流石は国の機密図書ですね。歴史あるせいで膨大な量の本がありましたので大変面白かったです」
一国の図書室を漁っただけで7つもダンジョンの場所が判明したのは僥倖といえるかもしれない。
これもモカ王国が長い歴史を持つからなのだが……。
「勉強も結構ですけど、あまり根を詰めると身体を悪くしますよ?」
「それをエクレアさんに言われるとは……」
僕が苦笑をして紅茶を飲むと。
「あら、忘れたのかしら? あなたが万能薬エリクシールを作ってくれたおかげでこうして病が完治したというのに」
「そう言えばそうでしたね。お元気そうでなによりです」
しばらく前に全ての材料が揃ったと連絡があったので、僕は持てる力を注ぎ込んでエリクシールを完成させた。
その甲斐あってかエクレアさんの病気は完治している。
「この薔薇の庭園も私が作ったものなのよ。今日はエリクに是非自慢の薔薇をみて貰いたくって招待したの」
「たしかに、見事な庭園です。花が瑞々しく朝露を受けて輝いている。余程の育て上手でなければここまで見事に咲かせることはできません」
「もう、お母様ったら。私だって手伝ったのに、自分の手柄にしてしまわれるのですか?」
僕のカップに追加で紅茶を注ぎながらアンジェリカはそう呟く。
「あらあら、ごめんなさいね。エリクにちょっといいところを見せたかったからなのよ」
「はっはっは。エクレアはエリクのことが大好きだからな」
アレスさんが僕の背中を叩いて嬉しそうにしている。
「エリク様はアカデミーでも全ての生徒に一目を置かれている方なんですよ。わ、私だって……」
そう言うと何やらもの言いたげな視線を向けてくる。僕は首を傾げると……。
「あれ? 学校で飲む紅茶と味わいが違うね?」
「ええ、こちらはキリマン聖国で最近作られるようになった紅茶なんですよ。特別に取り寄せたので国内では出回ってませんので」
「ふーん、そうなのか。そんな貴重なお茶をありがとうね」
「い、いえ……これも副会長の仕事ですから」
そう言うと嬉しそうな笑顔を見せる。そんなアンジェリカをみたアレスさんとエクレアさんは…………。
「アンは幸せな出会いをしたようですね」
「ああ、あの時受験に行かせてよかったな」
微笑ましそうな顔をして笑い合うのだった。
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