第137話エリク生徒会長
「エリク生徒会長。次はこちらをお願いします」
「わかった、副会長。そこに書類を置いておいて」
目の前の机には書類の山が出来上がっている。
アンジェリカは僕の言葉を聞くとさらにドサリと書類の山を増やした。
「生徒会長、剣術部と槍術部の喧嘩を仲裁してきた。中々大変だったぞ」
「お疲れ様ロベルト。次は男子寮の設備で壊れてる箇所の報告が上がってきてるから確認と手配を頼めるかな」
椅子に座ろうとしているロベルトに次の指示を出す。彼は会計なのだが、人付き合いが多いため調停役に向いている。
「あの……会長。お茶が入りました」
おずおずとお茶を差し出してくるのは、書記をやってもらっている二年の先輩だ。大人しめの眼鏡系女子でよくこうして気を使ってくれる。
「先輩、ありがたいですけど、僕みたいなのにそんな気遣いしないでください」
ただでさえ学内で注目されているのだ。先輩にお茶汲みをさせているという噂をされるのは良くない。
「そうです、エリク会長のお茶は私が淹れますわ」
何故かアンジェリカが主張してくる。
彼女は実家で紅茶を上手に淹れてはアレスさんやエクレアさんに褒められている。
きっとお茶を淹れる事にプライドを持っているに違いない。
僕は書記の先輩が淹れてくれたお茶を飲むと……。
「打ち合わせでちょっと出てくるから。後は宜しくね」
部屋をあとにするのだった。
「会長お疲れ様です」
「ああ、うん」
廊下を歩いていると部活動をしていたのか、女子生徒達から声を掛けられる。
僕は手を振ると無難な笑顔を作って見せる。
「僕が生徒会長か……慣れないな……」
思わず呟きが漏れる。
「まあ、身から出た錆ってやつなんだけどさ」
何故こんなことになっているのかを思い返す。
今から半年前、僕はアルカナダンジョンを攻略した。
その際にアリバイ工作をするためにアスタナ島のB級ライセンスを取得したのだが……。
後日旅行から戻ってみて吃驚。
夏休みの終わりごろに当時の生徒会長のセレーヌさんに呼び出された。
なんでも、僕が前代未聞の記録を作ってしまったせいでアカデミーでの知名度が上がっていると。
夏休み明けに生徒会選挙があるのだが、僕の知名度のせいで誰も生徒会長に立候補してくれなくなってしまったとか。
話を聞くと、元々は自分の後任として育てていた人間がいたらしいのだが、ライセンスを持っている人間を御するのは無理と辞退してしまったらしい。
そんな訳で困り果てたセレーヌさんに「エリクさんが生徒会長やってくれませんか?」と打診されたのだ。
「何故かアンジェリカとロベルトも生徒会入りしてきたし、これはこれで楽しいんだけどさ……」
前世では出来なかった充実した学生生活を送っているのだが、周囲からの視線が気になるのだ。
恐らく生徒会長という肩書のせいなのだろうが、歩いているだけでよく声を掛けられるし、尊敬の眼差しを向けられることもある。
「まあ、もうじき三年も卒業して新入生が入ってくるし、そうしたら少しは変わるかな?」
僕は溜息を吐くと会議室へと向かうのだった。
「この度はわざわざ済まないな」
「いいえ、トリスタン先生。大丈夫ですよ」
その場にいるのはトリスタン先生とメリダ先生。
去年、アスタナ島に僕ら優秀生徒を引率していった若手の教師だ。
あの時以来僕に一目を置いたらしく、生徒会長になったのは彼らの推薦も決して無関係というわけではない。
「すまんな、生徒会長の仕事も忙しいだろうに」
「いえ、役員が優秀なのでなんとかやれていますので平気です」
「そ、そうか……お前があっという間に片づけてしまうから回っていると聞いているのだがな……」
「ええ、エリク君はこの前もアカデミー内の建造中の建物に赴いてアドバイスをしてましたし、現役の一流冒険者に伝手があって講義をお願いしてもらったんですよ」
「そんな、偶々ですよ。やはり教えて貰うなら実戦で活躍している人間が一番だと招待旅行で気付かされましたからね。銀の盾の人達が協力してくれたからです」
生徒会での仕事が忙しくて一緒に探索に出ることが出来なくなったが、定期的に連絡を取っていた。
魔道士さんや治癒士さんがどうしても講義をしたいと言い出したらしく、トーマスさんが苦笑いをしながら派遣してきたのだ。
あの二人は講義中は真面目だったのだが、終わると何故か僕に話しかけてきてはお互いに睨み合っていた。きっと久しぶりに会ったので話したいことがあったのだろう。
「他にもハワード商会からもポーションの依頼がきたり、職人ギルドからうちの卒業生を是非雇いたいとの申し出が絶えないからな」
「それは先輩達のお力によるものですよ」
「お前が各分野で個人指導をしてくれた生徒ばかりだぞ。彼らも今やこの国でも上位の人材に育っている」
生徒会の仕事の傍らに少しだけ指導しただけだ。
なにせ、ザ・ワールドが開けない以上はダンジョン探索がお預けになってしまったから。空き時間を有効に使っただけだ。
「それで、本日はどのような要件でしょうか?」
僕はここに呼び出された要件を聞いた。
「実はだな、新学期から新たに外国から編入生達を迎えることになってだな、生徒会長の君の耳に入れておこうと思ったんだ」
「新入生では無くて編入生ですか。アカデミーで学びたいなら一年から留学してくるのにおかしいですね? まさか問題を起こして国外追放されたんだったりして」
僕はその場を和ませようと冗談を言ってみるのだが……。
トリスタン先生もメリダ先生もさっと顔を逸らしてしまった。
「えっ? まさか……」
当たらずとも遠からずということなのか、二人は苦笑いをすると「まあエリクなら上手く対処できると信じている」と肩を叩かれてしまった。
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